2016年10月8日土曜日

北方領土問題で急接近するロシアと日本(1):3島返還で手を打ち国境を確定したい、というあたりか?

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● 北方領土

 ロシアは絶対に4島返還には応じない。
 日本は2島返還ではこれも絶対に妥結できない。
 もしロシアが2島返還で無理押しするなら、これまで通り先送りにするしかない。
 とすれば手を打てるところとは真ん中をとって「3島返還」ということになる。
 色丹島、歯舞群島、そしてクナシリ島を日本に帰属させ、エトロフ島のロシアに帰属を承認するという妥協案に落ち着くのが妥当、ということになる。
 さて、そうなるか。


 現況の仮定国境線は上図の中間線にある。


 3島返還だとクナシリとエトロフの間、すなわちクナシリ水道に移る。

 ちなみに面積での完全二分割案だと下図のようになる。


エトロフ島をどう扱うか、がおそらく北方領土解決のカギになるだろう。
 日本としては権利を留保する形で共同管理に置きたいところだろう。
 ロシアはそれは許さないだろう。
 おそらく、この一点での外交駆け引きが行われることになるだろう。 

 ロシアとしては3島返還で合意して日本との経済交流を活発化させたい。
 でないと、中国の下につくことになってしまう。
 アメリカが頼りにならなくなった今、日本としては独力で国を守らねばならない。
 ここは日本としては涙を飲んで3島合意で妥協して、ロシアと安全保障条約を結んで後方の憂いをなくしたい。
 日本にとって最大の相手国はロシアではなく中国である。
 中国とガブリ四ツに組むには背後の安全性がなにより必要になる。
 日本にとってもロシアにとっても最大の相手国は中国であることでは一致している。
 どちらも中国をめぐって動いている。
 ならここが納め時ということになる。
 
 二段階返還論なるものが出てきているが、これは一考の余地もない。
 単なる領土問題先送り論にすぎない。
 国境が確定しない限り安全保障条約は締結できない。
 ではなぜこのような案が浮上するのか。
 日本政府としては落とし所を探っている。
 というよりそれはすでに決まっていると見ていい。
 そこにいかにうまくもっていくかが腕の見せどころということになる。
 いろいろな案を遡上に載せるようなスタンスをみせて、
 「やむえない、論がまとまらずここしか落とし所がない」
という形にもっていきたいということだろう。
 永遠の先送り論なら交渉は無駄である。
 2島返還を3島返還にして何とか妥協した
ということをアピールして納得させたいところだろう。
 2島返還といっても、「平和条約締結後引き渡し」であり、平和条約が締結されなければ実行されない。
 つまり、二段階返還論で平和条約を結べるのか、という問題である。
 まずムリだろう。
 ということは二段階返還論では歯舞色丹は返ってこないのである。
 平和条約が締結されるということは
 「国境が確定される」
ということである。
  国境が確定されてはじめて
それに基づく平和条約が締結される
ということになる。
  国境を曖昧にする二段階論では平和条約は締結されない。
 よって歯舞色丹は返ってこない、ということになる。
 こんな簡単な論理は中学生にもわかる。
 ではなぜそんな実現不可能な論理を煽るのか。
 政府としては2島返還を大きくぶちあげておいて、3島返還で妥結させようというためのステップにほかならない。
 3島返還のための下ごしらえというところではないだろうか。 


ロイター  2016年 10月 8日 11:11 JST
http://jp.reuters.com/article/column-russia-japan-idJPKCN128040?sp=true

コラム:北方領土問題で急接近するロシアと日本

[6日 ロイター] - ロシアと日本は、何十年にもわたり北方4島の領土問題を争っており、そのせいで経済関係を強化したり、第2次世界大戦にまでさかのぼる両国間の緊張を終わらせたりすることができないでいる。

 日本は、ロシアによる北方4島支配は不法占拠だと考えている。
 一方のロシアは、この問題は解決済みだと見なしている。
 日本は侵略戦争を行い、それに負けたため、当然の結果として領土喪失を受け入れなければならないと考えているのだ。
 しかしながら現在、ロシアのプーチン大統領と日本の安倍晋三首相は、ついに北方領土問題の解決に向け、意外なパートナー関係にあるようだ。
 ナショナリストでタカ派の2人は、より穏健な前任者たちが決して成し得なかった合意に至ることができるかもしれない。

 2014年のクリミア併合とウクライナ東部の武装分離派への支援を続けていることで、米国をはじめとする各国から厳しい制裁を受けているロシアは今、苦しい立場に立たされている。
 コモディティー価格、とりわけ石油価格の低迷が長引いており、ロシアは日本からの投資を今すぐにでも必要としている。
 一方、日本側にしてみれば、南シナ海で中国が軍事進出を拡大させていることを踏まえると、約70年間にわたって米国が提供する安全保障が以前と比べて確実ではない可能性がある。
 米国から遠く離れた場所における軍事的関与に対する疑念が米国内で広がりつつあることに日本政府は注視している。
 その最も有名な伝道師は、共和党の米大統領候補ドナルド・トランプ氏だろう。

 このような状況に直面し、ロシアと日本は、両国の経済的・政治的関係の強化が、北東アジアの安定したパワーバランスのためには不可欠だとみている。
 同地域では、台頭する中国が力を誇示しているだけでなく、北朝鮮もますます予測困難なように見える。

 安倍首相は先週、国会で行った所信表明演説で
 「領土問題を解決し、戦後71年を経ても平和条約がない異常な状態に終止符を打ち、
 経済、エネルギーなど日露協力の大きな可能性を開花させる」
と述べた。
 プーチン大統領との外交的な取り決めが結実しそうだという何らかの兆しがなければ、そのような大胆なことは言わないだろう。

 プーチン大統領も先月、合意の可能性を示唆していた。
 同大統領は9月1日、
 「われわれは、交換あるいは売却について話していない」
と述べ、
 「どちらの当事者も敗者と感じないような解決策を見つけることを協議している」
と語った。

 ロシア政府は冷戦時代、米国が海上封鎖した場合、ロシア太平洋艦隊に千島列島が不可欠だと考えていた。
 日本との領土や政治解決に向けたいかなる協議も、米国に対する軍事バランスの面で受け入れられない意味を持っていた。
 同時にまた日本側も、他の地域であまりに多くの領土を失ったため、千島列島を永久に失うことを認めるわけにはいかなかった。

 しかしプーチン大統領はウクライナでの行動において、征服者としての名声を十分確固たるものにしたかもしれない。
 そのため、必要性の高い経済的・政治的利益と引き換えに、領土問題では限定的な譲歩に応じる可能性がある。
 同様に安倍首相も、中国や韓国をはじめ、他のアジア諸国に対して強硬なナショナリストの態度を示すことで、国内における政治的権限を確たるものにしている。

 では、北方領土をめぐる合意とはどのようなものになるのだろうか。
 基本的な概要が明らかになりつつある。
 つまり、
★.ロシアは何も条件を付けずに、4島のうち小さい方の2島を返還し、日本の名誉を守る可能性がある。

 そうなれば安倍首相には、残りの2島をめぐる正式な対話を始めるための政治的猶予が与えられることになる。
 対話のなかで、主権を共有することで一致する可能性がある。

★.あるいは、ロシアが正式な所有権を日本に移行し、代わりに無償で軍事基地を永久使用することも考えられる
 そうすれば、ロシアは国家安全保障上の利益を保証するものとして、軍のプレゼンスを維持することが可能となる。

★.あるいは、日本とロシアは妥協し、
 残り2島をそれぞれ1島ずつ得ることになる
かもしれない。

 これらのシナリオは、一部が予想するよりも比較的大きな妥協をロシア側に迫るものだ。
 だが2010年にロシアとノルウェーが、北極海の領土問題で解決に至ったことを思い出してほしい。両国はただ平等に領土を分割した。
 当時、ロシアは今ほど政治的・経済的圧力を受けてはいなかった。

 もし北方領土問題で大きな進展を遂げることができたなら、ロシアは、自国を孤立させ制裁を与える米主導の政策に対する「くさび」として、日本との合意を利用する可能性もある。

 日本とのより開かれた貿易と経済的つながりは、巨大なロシア市場への参入から取り残されたくないと考える米同盟諸国に行動を決断させることにもなりかねない。
 また、日本との関係改善により、ロシアは深まる対中関係から、より多くを引き出せるようになるかもしれない。
 中国は、ロシアの比較的孤立した立場に付け込み、天然ガスのパイプラインと地域統合において、非常に好都合な長期契約を取り付けている。

 2010年にノルウェーと合意に至ったように、ロシアは領土問題を解決するうえで、制裁など西側が最終手段として訴えるような威圧的措置よりも良い方法を取っていることを主張することが可能だ。

 プーチン大統領はこれまで、ロシアによるクリミア併合は、一発の銃弾も放たれず平和裏に行われ、民主的な国民投票によって承認されたと主張している。
 ロシアと日本の国境線が変わるという単なる事実でさえ、1991年のソ連崩壊に伴う事実上の国境を、実際の人口、インフラ、資源の分布に見合ったものに調整する必要があるとするロシアの主張を、わずかに強めることになるだろう。

 このような主張は西側にとってはむなしく聞こえるかもしれないが、ロシアでは受けが良さそうだ。待ち望まれる対外貿易と外国投資への道を開き、ロシアの国際的孤立にくさびを打ち込むことができる合意形成のために必要とする国内の政治的インセンティブを、国民はプーチン大統領に与えるだろう。

*筆者のニコラス・グボスデフ氏はフォーリン・ポリシー・リサーチ・インスティテュートのシニアフェロー。もう1人の筆者マシュー・ロジャンスキー氏はウッドロー・ウィルソン・センター・ケナン研究所の所長。

*本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。



2016.10.7(金)  W.C.
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/48073

ポピュリズム跋扈の中、日露急接近で世界史は動く
米国が最も恐れる対米独自外交路線に安倍は踏み切れるか

 9月中旬に行われたロシア下院選挙は、周知の通り与党の圧勝という結果に終わった。
 50%を切るような投票率の低下に助けられた結果だ、と米紙は書く。
 だが、米国でも投票率の40%台は珍しくもないから、選挙への無関心についてそう偉そうなことをあまり言えたものでもあるまい。

 その選挙直前の週に、日本のメディア関係の方々とモスクワを訪れる機会があり、選挙戦終盤の日本のイメージとは程遠いその街で、ロシアの政治や経済の専門家たちから様々な意見を聴取して回った。
 9月初めにヴラジヴォストーク(ウラジオストク)で行われた日露首脳会談からまだ日も浅く、12月のロシア大統領V.プーチンの訪日が公表された後だったから、面談相手への質問は何と言っても日露関係、つまりは領土問題と平和条約交渉に集中する。
 当たり前の話とはいえ、4島は多分日本に返還されるよ、などと頼もしいことを言ってくれる相手は皆無。
 その多くが、
 「プーチンは資金や投資ではなく、信頼関係を重視する。
 この信頼関係がなければ話はまとまらない」
と強調する。
 経済支援という1990年代の発想はもはや通用しない、と念も押してくる。

■相互信頼構築の皮算用

 経済協力にいくら努めても4島が戻ってくるわけではない、となれば、日本で指摘される「ロシアが経済だけを食い逃げする」「いいとこ取りで終わる」という議論がもっともらしく聞こえもする。
 しかし、一歩下がって考えれば、彼らがそのつもりなら、最初から「経済と島はバーターではない」などと自ら強調する必要もないはずではないか。

 彼らの力点は一様に「信頼関係」に置かれている。
 「その点に日本は十分な注意を払っていないようだが」として、外交誌編集長でロシア外交のブレーンの1人でもあるF.ルキヤーノフは次のように解説する。
「過去20年以上にわたって(それは日本の責任でもないが)欧米がロシアへの約束を何度か破り、
 それが理由でロシアは誰も信用できなくなってしまった」
「それを考えれば、重要なのは平和条約締結という形ではなくその実体(相互信頼)に求められる。
 領土問題に関するプーチンの基本姿勢は
 『両国間の関係の質的変化を伴わねば、その解決はあり得ない』
なのだ」
「それは、ロシアがこれまでに、中国、カザフスタン、エストニア、ノルウェーといった国々とどう領土問題を解決してきたかを見てみれば分かるはずだ。
 経済関係などを通じて信頼関係が醸成されれば、それが結果的に政治関係の緊張緩和につながっていく」
 こうして両国間の相互信頼を強調するところは、ロシア人とこれまで付き合ってきた経験値に照らし合わせると確かにその通りと頷けなくもない。

 肝胆相照らす、とまではいかないにしても、気持ちが通じ合える仲にならねば・・・飲んで無防備な泥酔状態に互いに陥る仲にでもならねば・・・仕事なんぞできない、である。
 そうなると、これは理屈を超えた情の世界の問題でもあるということになる。
 互いにトモダチになれるのか?
 だが、それ以前に多くの日本人は「相互信頼」という言葉そのものに、そしてそれがロシア側から言われ出すことに引っかかってしまうだろう。

 2国関係では得てして一方は、常に自分は友好的かつオープンであると自負してそれに何ら疑いを差し挟まず、そうした関係が達成されていないならそれは相手に何か原因があるから、という考えに流れやすい。
 日本人とてその例外ではない。
 だから、「相互信頼」などと言われても、善意の塊のようなこちらにとっては当然至極の話で何をいまさら、と訝しく思い、さらには、ロシアが適当に何かを隠し立てする美辞麗句に過ぎないのでは、と推し量る結果になる。
 ロシアが相手だけに、有体に言えば「お前だけにはその言葉を吐かれたくはない」だろう。
 どうやらロシアに対して、まだ相互信頼を積極的に見出していこうという流れには乗れそうもない。
 ならば、それがないままならこれから先は? を考えたならどうなるだろうか。

■領土問題が平行線たるゆえん

 領土問題のこれまでの日露間の議論は平行線をたどるのみであった。
 割り切ってしまえば、
 領土問題は元々が議論で片が付くような代物ではない。
 それは世界史の中で常に戦争を伴ってきた。
 奪われたら腕ずくででも奪い返すしかない。
 だが、それが真実であっても、現実には意味がない議論だ。
 そのために新たに戦争をこちらからやらかそうと主張したところで、まあ今の日本では正気の沙汰とは扱われない。

 ならば、言論の力で島を取り戻せるのだろうか。
 この点での歴史上の事実認識やその解釈を巡っての日露間の議論は、詳細をいじり出したらきりがないのだが、これまで平行線をたどるだけだったことは皆が認めざるを得ない。
 議論とはいうものの、日本ではその根底に
 「米軍にコテンパンにやられ、
 倒れる寸前だったヨレヨレの日本に攻め込み、
 その後の敗戦のどさくさに紛れて他人の土地を分捕っていった奴ら」
というロシアに対する思いが流れる。

 だが、ロシア側にもそれに対抗する感情や理屈は星の数ほどある。
 そして、国際世論も、「法と正義」という人類普遍の価値を標榜する日本の主張の下になぜか集まってこない。
 その中でロシア人も日本人も、世論調査に答える大多数がこうした相手から出てくる細かい議論や感情、それに第三者のスタンスを知らずに終わっている、というのが実情だろう。
 言論は、暴力の否定という意味で大変な価値を持つものなのだが、それは必ずしも問題解決の万能薬であることを意味はしないのだ。

 ならば、ここでそうした恩讐を超え、
★.思い切って問題に終止符を打つか、
★.互いに歴史への蟠りを抱えながら半永久的に今の状態を続けるか、
のいずれかしかない。
 そして今、首相の安倍晋三はその前者の道を選択したように見える。

 恩讐を超える――それは多分に理屈の世界ではない。
 ロシアの専門家たちはそう言いたいのだろう。
 どちらがどちらを言い負かすか、の目的を捨てることでもあり、
 もしプーチンが「引き分け」と述べた際にそこまで思いを致していたとすれば、彼も中々の哲学の持ち主なのかもしれない。

 彼らによれば、机上演習で構築された
 「相手が欲しがるものを与え、こちらが欲しいものを取る」
というアプローチは、その中では通用しない。
 最初から、ギブ・アンド・テイク(Give and take)の構図を見せてしまったのでは、それはロシア人が受け止める「相互信頼」でもなんでもないということになってしまうからだ。

 これにも異論はあろう。
 国際関係では「相互信頼」は外交辞令でしかない。
 そこら中の国際関係でこの用語は氾濫状態だ。
 それに、それが情に根差したと言うなら、そんな一時の感情に国の進路を委ねるなど危険極まりないではないか、となる。

 英国の政治家がかつて喝破したごとく、
 永遠の敵も永遠の味方もいない、あるのは永遠の国益だけ
のはずだからだ・・・。

 だが、もしロシア人が(そして、実は日本人も)、外交が駆け引き100%の世界でもなく、しょせんは人間と人間との関係であり、最後は情に行き着く「信頼」もその中の価値観の1つとして意味を持つ、と理解するのなら、それを無視することはもはや賢明ではないのかもしれない。

■メディアのから騒ぎが領土問題を難しく

 昨今、日本では領土交渉関係の記事がメディアを賑わす――2島で終わるのか(世論調査を根拠に、それすら難しかろうと評するロシアの専門家もいるが)、それ以上があるのか。
 12月までこの状態が続くだろう。
 それが衆院解散にまで結び付く話となれば尚更の話である。

 この状況の中で、日本の外務省高官は日本のメディアに対して、
 『国民に説明できる解決策が簡単に見いだされる』と、
 世論の過大な期待が高まることは望ましくない」
と述べている。
 同じ趣旨を、F.ルキヤーノフも、
 「政治的に注目されなければそれだけ領土問題は解決が早くなる」
と指摘していた。

 世論が過熱し、蓋を開けたら皆が仰天し、その挙句に日比谷焼打ち事件勃発、などは政府にとって何としても御免蒙りたいところ。
 安易なポピュリズムよりは、まだ無関心の方がマシなら、年明けに選挙があってもロシアの下院選並の投票率で収まることをひょっとしたら期待しているのかもしれない。

 今回の面談先との対話で日露関係以外のトピックスとなると、シリア問題と米露関係が出てくる。
 そのいずれもが、日露関係にも影響を与えかねない。
 露紙の軍事評論家であるP.フェリエンガウエルによれば、8月下旬のロシア国防省幹部会議で極東大陸部北端からヴラジヴォストークに至る千島列島に沿った防衛線確立政策が承認された。
 その目的は、オホーツク海での核兵器安全移動の確保で、この海を外国へ向けて閉ざして完全に支配下に置くことにあるという。

 これは冷戦時代の対米防衛思想そのもので、このためには国後・択捉間の海峡のみならず、歯舞・色丹を除いたすべての島嶼海峡が重要になるという。
 つまりは、
 「軍事的にもはや歯舞・色丹以外の千島諸島を、一部たりとも外国に渡すわけには行かない」、
なのだ。

 この米露関係を悪化の一途に追いやるのはウクライナに続くシリア問題であり、これも周知の通りシリア政府軍とロシア空軍がアレッポ奪取に大手を懸け、そうはさせまいと動く米国との関係が冷戦後最悪の状態、と評されるまでになっている。

 9月の初めに両国間で一度は和平交渉を成立させたかに見えたが、その直後に起こった米軍のシリア軍への誤爆や(ロシアの一部では誤爆とは信じられていない)、ロシア機の関与が疑われる国連の人道支援車列への空爆事件の発生で、それは頓挫してしまった。

 米露双方ともに問題を抱える。
 レーム・ダックの米大統領、B.オバマの下でペンタゴンは徹底した反露路線を崩さず、何とか話をまとめようとする国務長官、J.ケリーの足を引っ張る。
 議会も同様、そしてボスのオバマとも方針が一致とはいかず等々で、同長官も、もうやってられない、と弱音の1つも吐く。

 ロシアとて米国を嗤えない。
 1年前にシリアへ参戦した際には、遅くとも今年の初め頃までにはアレッポを落してB.アサド政権を何とか維持できる状態に持って行こうとの目算だった。
 しかし、主役となるべきアサド政権軍が予想以上にだらしなく、そして肝心のアサドが、戦局の転換で気を良くし過ぎて誇大妄想にでも陥ったのか、ロシアの言いなりにはならなくなってしまった。

■自らへの反省意識が全くない西側

 その昔のアラブ民族主義の時代から、スラヴにアラブはしょせん理解できない、と言われてきた。
 今回も同じ轍を踏む憂き目に遭いかけている。なぜ性懲りもなく、なのか。
 カーネギー・モスクワセンター所長のD.トレーニンは、西側との折り合いが悪くなってしまったために、ロシアが求めた独自の外交戦略の結果が、シリアへの介入とアジア・太平洋地域に向けての東進政策だったと言う。

 折り合いが悪くなった理由の、西側に騙されたというロシアの思いについては何度かこのコラムでも触れた。
 要はソ連末期のM.ゴルバチョフと欧米が交わした合意 - 東にNATO(北大西洋条約機構)勢力を拡大はしない、がその後いとも簡単に破られたことに端を発している。
 ロシアにとってみれば、その後のウクライナ問題も、泥沼化した中東問題も、無定見な西側が最初に踏み込んできた、だから防衛するしかない、ということになる。
 だが、西側ではこれとは正反対に、先に狼藉を働き始めたのはロシア(と中国)で、だから「危機感を覚えた米英などの軍・情報機関が本気で巻き返しに動き出した・・・」と論じている。

 どちらが先に悪さをしでかしたのかで、見方は正反対になる。
 特に西側では自らへの反省意識が零に近い。
 これでは欧米とロシアの溝はその埋まりようがない。
 その中で欧米では、ソ連帝国復活を目指し、武力による領土拡張も厭わない「邪悪」なプーチンのイメージが形成されていく。

 米の大統領選では、民主党候補のH.クリントンが、そのプーチンを悪の権化と名指して憚らない。
 ロシアが犯人とされる民主党へのサイバー攻撃がその火に油を注ぐ。
 外交儀礼などどこへやらのロシアへの罵詈雑言乱発に対し、ロシアの知識層はそこに、ベトナム戦争の時代ですら見られなかった米国の自信喪失、あるいは知的頽廃を垣間見ている(1、2)。

 クリントンが次期大統領なら米露関係は絶望的だ、と多くのロシアの専門家が一致していた。
 ネオコンの続投を確信するからだろうし、さらにその深層には、今の米国は相手にできるようなまともな状態にはない、という見方が横たわる。
 その中で安倍の対露外交は生き残れるのだろうか。
 そこに問題の本質が現れてくる。
 問われているのは日露外交と言うよりは、むしろ米国が最も危険視する日本の対米自主外交の可否なのだ。
 そこに膨張中国を見据えた日本の国家百年の大計を重ね合せなければならない。安倍の心労やいかばかり、である。

 最近は、権力欲にまみれきっている「邪悪」なプーチン、と断じて憚らない西側のメデイアですら、実は彼が疲れてきており、再来年の大統領選では次の世代にその座を譲る可能性も、などと書き始めてきている。
 治世16年で漸く、である。
 これまでの働きぶりを見れば、疲れない方がおかしい。
 10倍近くの国力を持つ米国を相手に丁丁発止を演じるなど、誰にでもできることではない。

 他国に彼の隠れファン(中国ウォッチャーによれば、習近平もその1人らしい)がいるのも、日本が大国・ロシアを打ち負かした日露戦争に新たな国際時代の幕開けを見ようとした当時の人々の気持ちに似た何かを、彼に感じるからなのかもしれない。

 そのプーチンの姿は、彼に14回も会っている安倍の眼や心にはさてどう映っているのだろうか。



時事通信 10月9日(日)15時34分配信
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20161009-00000042-jij-pol

四島返還「2段階論」浮上
=国後・択捉先送りも―政府

 ロシアとの北方領土交渉をめぐり、歯舞群島と色丹島の返還合意で平和条約を締結し、残る国後、択捉両島は将来の課題として先送りする「2段階論」が政府内で浮上している。

 北方領土問題の解決に強い意欲を示す安倍晋三首相は11月にペルーで、12月には地元の山口県長門市にロシアのプーチン大統領を迎えて会談する。
 四島一括での返還合意にこだわらない柔軟な姿勢で臨み、領土問題の活路を見いだしたい考えだ。

 複数の政府関係者によると、国後、択捉両島は当面、両国政府の共同管理とし、協力して開発や経済振興に取り組む案などが検討されている。
 日本から旅券や査証(ビザ)なしでの訪問も拡大し、交流を促進する。
 両島の返還については、時機を見て話し合いを行う。

 歯舞群島と色丹島の先行返還が実現すれば、日本の排他的経済水域(EEZ)が拡大することになる。
 政府は領土交渉と併せて漁業権についても議題とする方針だ。

 歯舞群島と色丹島の扱いに関し、旧ソ連との国交を回復した1956年の日ソ共同宣言には
 「平和条約締結後に引き渡す」
と明記されている。
 それでも、旧島民や保守層の一部には、なお一括返還を求める声が根強く、かつては日本政府もそうした立場を重視していた。

 しかし、ロシアが「第2次世界大戦の結果、(北方四島は)自国領になった」と主張し、平行線をたどってきた日ロ交渉の現実を直視。
 関係者によると、首相は「一括返還合意に固執すれば問題解決の妨げになる」として、「新しいアプローチ」が必要だと判断しているという。 






【資料】

外務省 ホームページ
http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/hoppo/hoppo.html

北方領土問題とは?





●北方領土


北方領土問題とは?

(1):日本はロシアより早く、北方四島(択捉島、国後島、色丹島及び歯舞群島)の存在を知り、多くの日本人がこの地域に渡航するとともに、徐々にこれらの島々の統治を確立しました。
 それ以前も、ロシアの勢力がウルップ島より南にまで及んだことは一度もありませんでした。
 1855年、日本とロシアとの間で全く平和的、友好的な形で調印された日魯通好条約(下田条約)は、当時自然に成立していた択捉島とウルップ島の間の国境をそのまま確認するものでした。
 それ以降も、北方四島が外国の領土となったことはありません。

(2):しかし、第二次大戦末期の1945年8月9日、ソ連は、当時まだ有効であった日ソ中立条約に違反して対日参戦し、日本がポツダム宣言を受諾した後の同年8月28日から9月5日までの間に北方四島のすべてを占領しました。
 当時四島にはソ連人は一人もおらず、日本人は四島全体で約1万7千人が住んでいましたが、ソ連は1946年に四島を一方的に自国領に「編入」し、1948年までにすべての日本人を強制退去させました。
 それ以降、今日に至るまでソ連、ロシアによる不法占拠が続いています。
(詳しくは「北方領土問題の経緯」のページを参照下さい。)

(3):北方領土問題が存在するため、日露間では、戦後70年以上を経たにもかかわらず、いまだ平和条約が締結されていません。

■日本の基本的立場

(1):北方領土は、ロシアによる不法占拠が続いていますが、日本固有の領土であり、この点については例えば米国政府も一貫して日本の立場を支持しています。
 政府は、北方四島の帰属の問題を解決して平和条約を締結するという基本的方針に基づいて、ロシア政府との間で強い意思をもって交渉を行っています。

(2):北方領土問題の解決に当たって、我が国としては、
1):北方領土の日本への帰属が確認されるのであれば、実際の返還の時期及び態様については、柔軟に対応する、
2):北方領土に現在居住しているロシア人住民については、その人権、利益及び希望は、北方領土返還後も十分尊重していくこととしています

(3):我が国固有の領土である北方領土に対するロシアによる不法占拠が続いている状況の中で、第三国の民間人が当該地域で経済活動を行うことを含め、北方領土においてあたかもロシア側の「管轄権」に服したかのごとき行為を行うこと、または、あたかも北方領土に対するロシアの「管轄権」を前提としたかのごとき行為を行うこと等は、北方領土問題に対する我が国の立場と相容れず、容認できません。  
 したがって、日本国政府は、広く日本国民に対して、1989年(平成元年)の閣議了解で、北方領土問題の解決までの間、ロシアの不法占拠の下で北方領土に入域することを行わないよう要請しています。

(4):また、政府は、第三国国民がロシアの査証を取得した上で北方四島へ入域する、または第三国企業が北方領土において経済活動を行っているという情報に接した場合、従来から、しかるべく事実関係を確認の上、申入れを行ってきています。



http://www.dailymotion.com/video/x4t6je7_nhk-%E3%82%AF%E3%83%AD%E3%83%BC%E3%82%BA%E3%82%A2%E3%83%83%E3%83%97%E7%8F%BE%E4%BB%A3-%E6%80%A5%E6%8E%A5%E8%BF%91-%E6%97%A5%E6%9C%AC%E3%81%A8%E3%83%AD%E3%82%B7%E3%82%A2-%E4%BA%A4%E6%B8%89%E3%81%AE%E5%86%85%E5%B9%95%E3%81%AB%E8%BF%AB%E3%82%8B-20160914_tv
●NHK クローズアップ現代+ 「急接近!日本とロシア 交渉の内幕に迫る」 20160914




【身勝手な大国・中国】



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