2016年10月2日日曜日

激化する中国の権力闘争(1):中国習主席、ライバル派閥「抑え込み」で権力確立狙う

_


ロイター 2016年 10月 6日 15:01 JST
http://jp.reuters.com/article/china-politics-league-idJPKCN1260CJ?sp=true

焦点:中国習主席、ライバル派閥「抑え込み」で権力確立狙う

[北京 30日 ロイター] - 中国指導者として再任されるかが決まる共産党大会まであと1年、習近平国家主席はライバル派閥の力を削ぐための策略をめぐらせる一方、自身の派閥メンバーを国内の最高指導部に送り込もうとしている。
 指導部に詳しい3人の関係筋がロイターに語った。

 習主席は、来年秋の第19回全国代表大会(党大会)で選出される党中央政治局常務委員会の7名のメンバーのうち、中国共産主義青年団(共青団)派に過半数を占めさせないことを目指しているという。
 「習主席が、共青団系に常務委員会の過半数を許すことはありえない」
と関係筋の1人はロイターに語った。
 共青団閥はかつて強大だった時期もあるが、今は生き残りに必死である。
 年間予算は今年2分の1も削減され、国営メディアでは「過剰なエリート主義で非効率」と叩かれている。
 上述の情報提供者や外交筋によれば、こうした共青団に対する攻撃の背後には、習氏の差し金があると広く信じられている。
 この派閥は、共産党の青年組織で14─28歳のメンバー8800万人を擁する共青団の現・旧メンバーで構成されている。
 主として党や政府の官僚で構成されており、特定の政治的系譜に連なるものではないが、数十年にわたり、将来の指導者候補として育てられてきた人々だ。
 共青団は、かつてはトップをめざすための登竜門であり、習氏の前任者として国家主席、党総書記、中央軍事委員会主席を務めた胡錦濤氏は、この共青団を政治的地盤としていた。

 共青団と、内閣に相当する国務院の広報担当局であるのと同時に党を代表して発言する国務院新聞弁公室にコメントを求めたが、回答はなかった。
 習主席個人の事務所、あるいは他の政権幹部の事務所への外国メディアの接触は認められていない。

■<後継者選び>

 来年の党大会の時点で常務委員としての定年に達していないのは、習主席(63歳)と李克強首相(61歳、共青団派)の2人だけである。
 情報提供者と外交筋によれば、この2人が常務委員会でナンバー1、ナンバー2の地位を維持するものと広く信じられている。
 過去の党大会での経緯に準じるならば、残りの5名が引退することはほぼ確実である。

 有力候補のうち共青団派の3人、つまり李源潮副主席(李克強首相との血縁はない)、汪洋副首相、広東省党委員会書記である胡春華氏(胡錦濤前主席との血縁はない)が党大会で常務委員に選出されれば、常務委員会において同派が過半数を占めることになるが、関係筋によれば、これは習氏にとって容認できない事態だろう。
 この3人は皆、現在、党中央政治局のメンバーである。

 関係筋は、習氏が共青団派に対してさらに何か別の攻撃を計画しているかどうかは、ただちに明らかではないと話しており、習氏がどれほど努力しようと、これら3人の候補のうち1人は常務委員に選出されると予想されているという。
 習氏は、減速した経済を浮揚させる改革を遂行し、自分の遺産をしっかりと受け継ぐ後継者を選ぶため、自分に最も忠実な者たちを登用したいと考えているという。

★.習氏のグループは、同氏が省長・党委員会書記を務めていた2002─2007年に支持基盤を築いた浙江省にちなんで、「浙江閥」と呼ばれている
 また習氏は、彼自身と同じように党・政府・軍の上級幹部を親に持つ、いわゆる「太子党」(または「赤い貴族」)からの支持も得ている。

 政府のトップ幹部と定期的に会っているという、指導部に近いある関係筋は、
 「習氏は共青団派を食い止めるためにあらゆる手を打っている。
 自身の息のかかった人物を常務委員に据えたがっている」
と話す。

 習主席の支持者が何人常務委員会入りを果たすかという問いは時期尚早だが、関係筋や外交筋によれば、習氏に近く、すでに政治局員になっている候補者が少なくとも2人いるという。
 習主席の参謀役である栗戦書氏と、中央組織部部長の趙楽際氏である。

■<幹部予備軍>

 習主席の父親である習仲勲は、1949年の中華人民共和国建国前から共産主義革命の中心人物の1人で、毛沢東時代には副首相を務めた。
 習氏の派閥には、地方官僚としてさまざまな省・都市で築いてきた政治基盤からの支持者や、習氏が在籍した北京の名門・清華大学の出身者も含まれている。

★.共青団は、中国共産党の「支援組織で予備軍」として知られており、共産党への入党を望む者にとっての入り口に当たる。
 共青団は大学生を中心に、国内のエリート子女を集め、育成している。
 年長の幹部たちは、実際には団員ではないが、派閥の一員と見なされている。
 共青団派のイメージは、2012年、当時の国家主席である胡錦濤氏の側近だった令計画氏が、高級スポーツカー運転中の事故で死亡した息子について隠蔽工作を行ったことでダメージを負った。
 トップ官僚の子女が裕福で特権的な生活を送っており、一般国民とは別世界に暮らしていると思われることに神経を尖らせている共産党にとっては、困惑すべき事態だった。
 令氏はその後、汚職を告発されて終身刑を宣告された。

★.共産党内の第三の主要派閥として、90歳の江沢民元国家主席が率いる
いわゆる「上海閥」がある。
 上海で経験を積んできた官僚たちで構成される派閥だ。
 しかし、この派閥の勢いも党内再編のなかで衰えていくと予想されているという。

 共青団派、太子党、上海閥という3つの派閥のあいだには大きな政策的差異はなく、いずれも党による国家運営の強化を是としている。
 官僚のなかには複数の派閥に協力し、派閥への帰属とは別に個人的な忠義を抱いている者もいる。

 共青団派が権力低下に直面しているのは、常務委員会だけではない。
 常務委員会と同様に重要な意志決定機関となっている政治局において、共青団派は現在、定員25人のうち14人を占めているが、その多くを失う可能性が高い。
 14人のほとんどは来年には定年を迎えるが、習主席に忠実なメンバーで置き換えられる可能性が高いという。

 もっとも、習氏は共青団派が完全に冷遇されていると感じないよう、きわどいバランスを模索している。
 もしそうなれば、胡錦濤氏の反感を買って党内の和が乱れるからだ。常務委員会ではないにせよ、共青団派のメンバーの一部は新たな地位を得ることになりそうだと関係筋は予想する。
 たとえば、胡錦濤氏の息子である胡海峰氏については、中国東部の重要な港湾都市である寧波の市長(副大臣格の地位)への昇格が有力視されている。
 胡海峰氏は現在、上海近郊の嘉興市という、寧波ほど重視されていない都市の市長を務めている。
 同氏からのコメントは得られなかった。
 また国営新華社通信の報道によれば、29日、習氏は党内への訓示のなかで、最近刊行された胡錦濤氏の著作を「党の政治建設及び党員の理論的訓練の重要な一部」であるとして、これを学習するよう呼びかけている。

 共青団派のなかで台頭著しく、中国アナリストのあいだで将来の国家主席候補として話題になっているのが、広東省の党委員会書記である胡春華氏(53歳)だ。
 政治局員のなかでも最も若い2人のうちの1人であり、中国研究者からは、さらに常務委員へと昇格する最有力候補と見られている。
 だが、関係筋によれば、広東省南部の漁村・烏坎村における抗議デモの収拾がつかなくなれば、胡春華氏の昇進のチャンスも危うくなる可能性があるという。
 烏坎村では民主的に選出された村長が投獄されたことに対し80日以上にもわたって抗議デモが行われていたが、9月に入って警察当局が取締りを行っている。

(翻訳:エァクレーレン)




●中国 崩壊 石平が語る中国の実態。復活の「団派」。メッキが剥がれ始めた赤の暴君。陰謀渦巻く権力闘争、最終章が始まる
2016/10/06 に公開




●【中国経済崩壊 最新 2016年10月6日】 習近平指導部の経済運営状況がネット上で大暴露されている模様!! -Love and courage You
2016/10/06 に公開



産経新聞 10月7日(金)7時55分配信
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20161007-00000075-san-cn

中国指導部の経済運営をネットで痛烈批判 その名は蛮族勇士

 ■データ駆使し「大不景気」「大衰退」…“内部犯”臆測も

 【北京=西見由章】中国のインターネット上で「蛮族勇士」を名乗り、習近平指導部の経済運営を痛烈に批判する投稿が反響を呼んでいる。
 景気減速の深刻な実態を暴露し、中国は「不況の道」を歩んでいると主張する内容だ。
 多様なデータを駆使していることから体制内部の人物による投稿との臆測も広がる。
 当局側はアカウントの停止措置だけでなく、官製メディアを使って反論に出るなど対応に追われている。

 蛮族勇士は昨年ごろから少なくとも7本を投稿。
 このうち9月下旬に発表したとみられる文章は話題になった。
 大都市の経済状況について「北京の大不景気」「上海の経済まひ」「深センの大衰退」などと表現。
 主に今年1~8月のデータを引用しながら、北京と上海は住宅価格の暴騰が続く不動産業を除くと第3次産業の企業利益が大幅に減少し、景気が急速に冷え込んでいると主張している。
 深センにいたっては不動産バブルが崩壊したと分析し、中国経済はかつてない負債デフレの圧力に直面していると訴えた。

 当局側は蛮族勇士のネット上のアカウントを次々と停止しているが、投稿された文章は拡散し続けている。
 上海市党委員会の機関紙である解放日報は9月28日、蛮族勇士が引用したデータには誤りがあると指摘した上で、「1~8月の上海経済は安定を維持している」と強調した。

 蛮族勇士の正体について、一部メディアは関連ブログのプロフィルなどから、政府系シンクタンクの中国社会科学院の研究者ではないかと推測しているが、真相は謎のままだ。

 中国の経済政策をめぐっては今年5月、中国共産党機関紙・人民日報のインタビュー記事で「権威人士(権威者)」を名乗る匿名の人物が李克強首相を批判。
 この人物は習近平国家主席の側近、劉鶴・党財経済指導小組事務局長だったとされ、習氏と李氏の経済政策をめぐる対立が浮き彫りとなった。

 蛮族勇士の批判の矛先は特定勢力に向けられたものではなく、知識人層や経済界全体の懸念を代弁した声といえそうだ。



ロイター 2016年 10月 14日 18:20 JST
http://jp.reuters.com/article/china-defence-idJPKCN12E0QE

中国軍改革に水差す「敵対勢力」が存在=軍機関紙


 ●10月14日、中国軍機関紙は、兵力削減を含む軍の改革について「敵対勢力」がネットでうわさを拡散しようとしていると主張した。
写真は北京の国防省前で11日にデモを行った退役軍人ら(2016年 ロイター/THOMAS PETER)

[北京 14日 ロイター] -
  中国軍は14日、兵力削減を含む軍の改革について「敵対勢力」がネットでうわさを拡散しようとしており、一部のうわさは悪影響をもたらしていると述べた。

 習近平国家主席は昨年9月、総数230万人の軍の約13%に当たる30万人の兵力削減を突然発表。
 今月11日には、退役軍人が国防省前で数千人規模のデモを行った。

 中国人民解放軍の機関紙「解放軍報」は論説文で、改革に関するうわさがソーシャルメディア(SNS)にあふれ、自称専門家らが、退役軍人の手当削減など根拠のないあらゆる話を拡散していると述べた。
 同紙は
 「多くの軍人は、真実を見極められず妄想や憶測に走っているオンライン利用者がいることを明確に認識しなければならない」
とする一方、名指しを避けたうえで
 「改革に混沌の種をむなしくまく方法を模索している敵対勢力の存在にも事欠かない」
と述べた。

 6月に習主席が退役軍人には別の職業を見つけると言明するなど、政府は退役後の待遇に留意すると繰り返している。



夕刊フジ 10月14日(金)16時56分配信
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20161014-00000006-ykf-int

習体制に不穏な影 中国1000人規模の元軍人デモ、
宮崎氏「暗殺か戦争の可能性も」

 中国の習近平体制に対し、1000人規模の元軍人らが北京で大規模抗議デモを断行した。
 中国共産党の重要会議「第18期中央委員会第6回総会」(6中総会)が24日から開かれるのに合わせた示威行為といえそうだ。
 景気失速を背景にして、習国家主席の「排除」を画策する動きや、目先を変える対外暴発を懸念する声もある。

 デモは11日から12日未明にかけ、中国の中央軍事委員会や国防省が入る北京市西部の「八一大楼」前で行われた。
 迷彩服を着た元軍人らは、待遇の改善を求めて歌を叫んだり、国旗を振ったりしたという。軍中枢近くで大規模なデモは初めてとみられる。衝突は起きなかった。

 元軍人の数について「1000人どころではない」という情報もある。
 米政府系のラジオ・フリー・アジア(電子版)は、12の省や市から「数千人」が参加したと伝えた。

 これだけ大がかりな動員をするには、組織の関与が不可欠だ。
 現に、習体制に対する軍の不満は大きくなっている。
 ただ事ではない事態が今、中国で起きているといえそうだ。

 「強軍路線」を掲げる習氏は、軍の余剰兵員30万人の削減表明をはじめ、大胆な軍改革を断行した。
 胡錦濤前政権の軍制服組ツートップを務めた郭伯雄、徐才厚の両氏も失脚させた。

 中国共産党は24日から、重要会議とされる6中総会を開く。
 総会を前に、習指導部の姿勢に不満を抱く勢力が、元軍人たちを動員したとの憶測も出ている。

 中国事情に精通する評論家の宮崎正弘氏は
 「元軍人も生活に困窮しており、中国の経済失速の深刻さを表している。
 今回の動きは間違いなく組織だったもので、習体制の反対勢力が主導しているはずだ。
 中国共産主義青年団出身者ら『団派』ではないか。
 6中総会後、反対勢力による軍事クーデターや暗殺が起きたり、
 習指導部が目先をそらすための戦争を始める可能性がある。
 戦争の場合、ベトナムが最も危ない」
と語っている。



Wedge 2016年10月17日
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/7971

習近平が損ねる中国の改革

 米テキサス大学オースティン校リンドン・ジョンソン公共政策大学院のエイセンマンが、9月12日付ウォール・ストリート・ジャーナル紙掲載の論説で、習近平による鄧小平の改革開放路線に反する独裁的で規制強化的なやり方は、外国企業、外国NGOだけでなく、中国国内からの反発も招くことになるだろう、と分析しています。
要旨、次の通り。

■習のアジェンダは自己矛盾している

 習近平は、2014年8月の鄧小平生誕100周年記念シンポジウムで、「我々は躊躇なく改革と開放を進めなければならない」と述べた。
 2013年の就任以来、習は、1978年に鄧小平が始めた、経済改革と国家再活性化のための改革を主張し続けていた。
 2年経ち、権力基盤の強化にもかかわらず、習の改革は官僚的障害と引き延ばしにより泥沼にはまっている。

 問題は、習のアジェンダが自己矛盾していることである。
 党の正統性との厳格な適合を求めつつ、改革の深化と法の支配を求めているが、これは、「開放無き改革」と呼びうるもので、結果に繋がっていない。

 反腐敗運動は多くの共産党の役員を失脚させてきたが、同運動は政治的動機に基づくもので習のライバルへの棍棒である、とエリートたちは受け取っている
 影響を受け得る多くの人々が、熱が冷めるのを待ち、あるいは、自らの不正への捜査を妨害しようとしている。

 国民は、一旦は熱狂したが、汚職の規模に愕然としている。
 2013年には18万人、
 2014年には23万2000人、
 昨年は30万人
が汚職により懲戒されたと推計されている。

 経済改革も手詰まりとなっている。
 上海自由貿易区は、外国企業からは時代遅れとして相手にされなくなり
 通貨取引と資本市場の自由化も逆戻りしている
 昨夏の株式市場大幅下落に対し当局は市場介入をしたが、一時的効果しかなく、かえって、投資を冷え込ませ、資本流出を悪化させた。
 人民元は対ドルで下落し、外貨保有高も2014年のピーク時から20%も減った。

 鄧小平が始めた「開放」は脅威にさらされている。
 「インターネット主権」などといって、インターネット、ソーシャルメディア上の情報の流れへの規制を強化し、反対意見をますます効果的に沈黙させるようになっている。
 この傾向は、年内に承認される予定の新たなサイバーセキュリティー法の下で続くことになろう。

 さらに、既に承認され来年1月に発効する予定のNGO規制法が、外国のNGOとの協力を治安当局の監視下に置かせ、協力を冷え込ませている。
 外国のNGOが中国のNGOと協力することはこれまでになく困難になっている。

 規制強化は他にもある。
 テロ対策法は、外国のIT企業にセンシティブなデータの中国政府への提出を義務付ける。
 外国人のビザ発給申請手続きはより煩雑になった。
 公的報道機関における、反西側、反自由主義、反日の攻撃も増大している。
 「センシティブ」という言葉が、学術的会議で不都合な話題の排除に使われている。

 独裁的な手法と毛沢東時代の戦術が改革推進に用いられていることも、前進を妨げている。
 習は、
 「草の根レベルでの厳格な党運営」
 「党員のマルクス主義者としての立場を強化し、党全体がイデオロギー及び政治的一貫性を維持すること」
を目指し、共産党の全部門、全党員に対し、自らの演説を勉強する通年の政治キャンペーンを強制しようとしている。
 しかし、今や、毛沢東時代ではない。
 多くの地方の党幹部が、無視したり陰で嘲笑したりしている。

 熱狂が衰え障害が高まるにつれ、習の反腐敗運動に駆動されてきた改革戦略の勢いは止みつつある。
 多くの中国人が、中国の台頭は「開放」と効果的な改革を通じてのみ継続できると今でも信じているが、中国の現在の戦略はその路線に反しており、政治的な動機が政策を動かしていた時代を想起させる。
 中国政府は、強まる敵意とナショナリズムの中で理不尽に規制されていると感じる外国の企業やNGOのみならず、共産党員や国内の既得権益者からの怒りと反発を刺激し続けることになろう。

出典:Joshua Eisenman,‘How Xi Jinping Undermines China’s Reforms’(Wall Street Journal, September 12, 2016)
http://www.wsj.com/articles/how-xi-jinping-undermines-chinas-reforms-1473701211

 習近平体制下の中国では、政治面における人権抑圧が強化され、経済面では、一般に「中所得国の罠」といわれる失速状況が続いています。
 なかでも、経済面での解決策をめぐっては、共産党最高部内において路線の対立が見られるというのが、今日の多数説でしょう。

 本論評は、中国の今日抱える問題を「鄧小平の改革開放路線」と比較しています。
 30数年前に打ち出された鄧小平の当時の改革開放路線と、今日の状況を比較するというのは、あまりにも迂遠すぎる観があります。
 ただし、政治的、経済的に見て、今日の中国の持つ問題点についての個々の指摘には、もっともな点が多いと言えるでしょう。

■腐敗汚職から無縁な共産党幹部がいるのか?

 反腐敗運動の結果、昨年は30万人が汚職により逮捕されたといいます。
 一時国民はこの運動に「熱狂したが、今は、汚職の規模に愕然としている」
との本論評の記述は、的確でしょう。
 中国共産党幹部で腐敗汚職から無縁である人たちが、どの程度いるのか、というのが誰しもの関心事でしょう。

 今日の中国の言論統制の方向が、反西側、反自由主義、反日に向けられ、「センシティブ(「敏感」)」という言葉が学術会議等で不都合な話題の排除に使われている、というのは正しい指摘です。
 来年1月に発効する「NGO規制法」が、外国のNGOとの協力を治安当局のより強い監視下に置こうとしていることには警戒を要するでしょう。
 また、年内にも承認される予定の「サイバーセキュリティー法」が成立すれば、インターネット、メディア上の情報の流れがますます強く規制されることとなるでしょう。
 その影響は外国企業にも及ぶこととなるかもしれません。

 失速する経済の立て直しをめぐって、習近平と李克強の間に経済政策をめぐる路線対立、ひいては、権力闘争が続いているとの推測が強まりつつあります。
 それは、なかでも最近の天津市トップの黄興国の失脚、遼寧省の全人代代表30数人の突然の更迭という異常事態に関連したものです。
 一党独裁下では、政策をめぐる路線対立は権力闘争と紙一重であると言わねばなりません。



東洋経済オンライン 2016年10月18日 美根 慶樹 :平和外交研究所代表
http://toyokeizai.net/articles/-/140627

習近平が危ない!
「言論統制」がもたらすワナ
メディアへの締め付けはいつか反動で爆発も

 習近平・中国国家主席は「腐敗取り締まり」と「言論統制」の2本の鞭を駆使して、国や地方の指導者と幹部に活を入れ、また、共産党の一党独裁体制に不都合な言説を排除している。
 巨大な国家は、既存の組織・機構や既定の方法で動かないから鞭が必要なのだろうが、
 習近平の鞭は歴代の政権にくらべ、はるかに強力だ。

 2012年11月の第18回共産党大会で総書記になった習近平は、2013年3月に中国の国家主席に就任し名実ともに中国のナンバーワンになると、優先課題として言論の統制強化に取り掛かった。
 当然、胡錦濤前政権から続く、報道の自由化傾向を見守っていたと思う。
 特に2011年7月23日、浙江省温州市付近で起こった高速鉄道事故では多数の死傷者が出て、民衆のすさまじい怒りを買った。
 メディアは大々的に報道し、『人民日報』など公式新聞の記者も民衆の目線に立って、独自の取材活動をした。
 政府の高速鉄道プロジェクトを真っ向から批判した新聞もあった。
 このように自由な報道は、事件から約1週間後、中央の指示で規制されるまで続いた。

■記者免許の更新試験まで実施

 しかし、習近平は報道の自由化傾向に危機感を抱き、対策を強化しなければならないと考えたのだろう。
 まずメディアに対して革命思想の徹底を図る。
 具体的には、全国の新聞やテレビ、通信社、雑誌などの記者25万人にマルクス主義を学ぶ研修を義務付け、2014年早々、統一の記者免許更新試験を実施した。
 免許更新試験に合格しなければ、記者活動はできなくなるので、事実上強制的な措置であった。

 後には「メディアは党の一族だ」と言い始めた。
 メディアが自由化傾向を強めると党の指導から離れていく。
 そのようなことはあってはならないと考え、中国では政府もメディアも共産党の指導の下で協力していくべきことを強調したのだ。

 インターネットについても、前政権時代からの対策では不十分と考えた習近平は、取り締まりを強化。
 そこで流される言説を政府のふるいにかけ、無責任あるいは事実でないと当局が判断する投稿を許さず、それでも問題のあるサイトは強制的に閉鎖した。
 政府の方針に背いたとして逮捕された者の数は1年間で数十人に上ったという見方もある。

 もちろん、インターネットを完全に統制することは困難だ。
 取り締まりを強化すれば、それなりに効果は上がるが、取り締まりをかいくぐり、別の場所や別の方法で同じことを繰り返す者が現れる。
 モグラたたきのようなものだが、政府はそれでも手を緩めず、その大元から規制することを試み、米グーグルなど外国の検索エンジンに対しても、半ば強制的に統制強化に協力することを求めた。
 サイトの閉鎖は今でも日常的に行われている。

 中央の宣伝部を頂点とする従来からの言論統制のあり方にも不満だったらしい。
 2014年2月、「中央インターネット安全・情報化指導小組(中央網絡安全・信息化領導小組)」を成立させ、自らその長となった。
 「インターネット安全」といいながら、インターネットの対策全般を監督する新機構である。
 宣伝部のさらに上に位置付けられている。

 ちなみに、習近平は「○○小組」なる組織を多数成立させ、すべて自らが長(主任)となっている。
 既存の政府機構が満足に動かないから、強力な新機構を作るのだ。
 2015年7月には「国家安全法」を成立
 。これは、スパイ行為などを始め広範な反中国的言動を取り締まるもので、インターネットについても一条(第25条)設けている。

■香港のメディアでは編集幹部が解雇

 さらには香港のメディアにも、統制強化を及ぼした。
 2015年10月、香港の「銅鑼灣書店」の店長や店員ら5人が習近平に批判的な書籍を販売したという理由で拉致され、数カ月間、中国内にとどめ置かれた。

 やはり香港の『明報』は、中国情勢に関する報道でトップクラスだが、「パナマ文書」の特集を組んだ編集幹部の姜国元が2016年4月、突然解雇された。
 パナマ文書は習近平の親族が租税回避にかかわっていたことを暴露したからであり、圧力がかかって明報社としても解雇せざるを得なくなったのだと言われている。

 このように言論統制の強化が進む中で、いくつかの新聞・雑誌は自由な報道を重視する姿勢を見せたが、結局すべてつぶされた。
 たとえば『南方都市報』は、一面を真っ黒に塗りつぶして抵抗の意思を示したこともあったが、何回か宣伝部から目玉をくらい、ついには屈服させられた。
 雑誌『炎黄春秋』は、中国革命の元老の次世代、いわゆる「紅二代」に属する胡徳平(胡耀邦の子)、李鋭(毛沢東の秘書)らにより出版されてきた雑誌で、指導者におもねることなく比較的リベラルな言論で改革開放の推進を後押ししてきたが、これも2016年夏、編集長が交代させられ、以前のような質の高い記事は期待できなくなった。
 そのほか『共識網』『財経』なども同様の運命をたどっている。

 あまりに激しい言論統制の強化には公的メディアからも疑問が噴出。
 新華社の周方(ペンネーム)は2016年3月、
 「宣伝部門は違法な行為で世論に誤った知識を植え付けている。
 改革開放の深化を妨げ、党と政府を損ない、中華民族の長期的利益を損なっている」な
どと批判した。
 また人民日報傘下で『環球時報』の胡錫進編集長は、
 「中国はもっと言論を自由にし、建設的な意見を受け入れるべきだ」
などと発言したが、いずれもすぐに削除された。

 習近平政権の言論統制強化は、爆発しないように外側を鉄線で何重にも巻き付けた樽の中で、鞭を振るっているようなものだ。
 樽が壊れない限り、政権にとって都合の悪い言論を排除する効果は上がっているのだろうが、それだけで事は済むか。 
 樽が爆発する危険は、鞭が強くなればなるほど高まる。

■日本など諸外国も看過できない

 もっとも、中国は日本の十倍の人口を持つ巨大な国であり、その懐は深い。
 普通の民主主義国家ではありえないことでも、中国では起こりうるし、中国独特の道がありうる。
 現時点では両方の可能性を考えておくのが必要だが、その前提で若干指摘しておきたい。

◆:第一に、あまりに激しい言論統制は
 真実を国民から隠してしまい、その結果、国民は政府の発表することを信用しなくなる。
 中国で腐敗現象が絶えないのは、中国の人たちが政府を信用せず、また自分たち自身をも信用しないことに大きな原因があるが、言論の強い統制は結局、そのような不信感を助長するのではないか。

◆:第二に、習近平以下、中国の指導者がそこまで言論統制を強化するのは
 民主化運動を警戒し、その芽が出そうになると早期に摘み取ってしまうためである。
 つまり共産党による独裁体制の維持が理由だと思う。
 外から見れば、すでに世界第二の経済大国となり、各国との間で相互依存関係ができあがっている中国としてそんな心配をする必要がどこにあるか分からないが、中国の内と外では大きな認識のギャップがあるのだろう。

◆:第三に、そのように脆弱な体質を持つ中国は、対外面ではことさらに強い姿勢を取る危険がある。
 直接的な関連ではないかもしれないが、中国における言論統制の強化は、我が国を始め諸外国にとっても、看過できない問題をはらんでいると思われるのだ。



TBS系(JNN) 11/8(火) 6:16配信
http://headlines.yahoo.co.jp/videonews/jnn?a=20161108-00000021-jnn-int

中国「ネット安全法」制定、
習近平指導部の情報統制強化へ



 中国でインターネットの運営会社に対し、国家機関からの接続制限や削除命令に応じることを義務づけた「ネット安全法」が制定されました。
 習近平指導部の情報統制が一層、強まるものとみられます。

 「ネット安全法」は「ネット空間の主権と国家の安全を保障するため」の法律で、中国の国会にあたる全人代=全国人民代表大会の常務委員会が7日採択し、来年の6月1日に施行されます。
 主にネット運営会社などに対し、
 「国家機関や警察からの接続制限や削除命令に応じる」
ことを義務づけています。
 また、
 「国家の安全と公共の秩序を維持するため、
 国のネット管理部門は特定のエリア内でのネット通信を遮断するなどの臨時措置を取ることができる」
とも定めています。

 これまでも、ネット上の反政府的な書き込みや記事を閲覧不能にするなど、取り締まりを強めてきた習近平指導部ですが、「ネット安全法」によって締め付けが一層厳しくなるものとみられます。







【身勝手な大国・中国】



_