2016年10月11日火曜日

フィリピンの中国への急接近(1):アメリカ軍との軍事同盟は維持表 二股外交だった韓国に似てきたのか

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NHKニュース 10月5日 12時12分
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20161005/k10010718451000.html

フィリピン大統領 オバマ氏非難「地獄へ落ちろ」

 フィリピンのドゥテルテ大統領が、自身が進める麻薬の撲滅対策をめぐって、人権の尊重を求めるアメリカのオバマ大統領を非難して、「地獄へ落ちろ」などと激しくののしり、相次ぐ不適切な発言にさらに批判が高まることも予想されます。

 フィリピンのドゥテルテ大統領は4日夜、首都マニラで開かれた地方自治体の幹部らが集まった会合で演説しました。
 この中でドゥテルテ大統領は、フィリピンの麻薬の取締り現場で1300人以上が警察官に殺害されていることをめぐって、人権の尊重を求めるオバマ大統領を非難して、「地獄へ落ちろ」などと激しくののしりました。
 そのうえで、
★.アメリカとの関係について、「任期中に決別する」
と述べたうえで、
★.今後はロシアや中国との関係を強化していく考え
を示しました。

 ドゥテルテ大統領は先月にもオバマ大統領に対して「何様のつもりだ」などと発言し、予定されていた首脳会談が中止になる異例の事態を招いています。
 ドゥテルテ大統領は、首脳会談が中止になって以降、アメリカと距離を置く姿勢を強めていますが、相次ぐ不適切な発言にアメリカなどからさらに批判が高まることも予想されます。

■米 友好関係にそぐわない発言

 フィリピンのドゥテルテ大統領の発言について、アメリカ、ホワイトハウスのアーネスト報道官は4日の会見で、「両国の友好関係にはそぐわない発言だ」と述べました。
 そのうえで、アメリカとしては、同盟関係を守りながらフィリピン側に対し麻薬の取り締まり現場で大勢の人が殺害されていることへの懸念を引き続き伝えていく方針を強調しました。



朝日新聞デジタル 2016年10月8日21時25分
http://www.asahi.com/articles/ASJB86FJ4JB8UHBI01M.html

フィリピン、米との南シナ海警戒を保留 大統領発言受け

 フィリピンのロレンザーナ国防相は7日、比国軍と米軍が合同で予定していた南シナ海の海洋パトロールについて、実施を保留することを今月初めに米軍側に伝えたことを明らかにした。
 AP通信が報じた。

 ドゥテルテ大統領が9月に「合同パトロールには参加しない」と発言したことを受けたもの。
 これまでに両軍は、南シナ海のフィリピン近海で航行訓練を実施したことがある。
 ロレンザーナ氏は7日の講演で、「(大統領の)真意を確認したい」と話し、今後については含みをもたせた。

 ドゥテルテ氏は、米国の再駐留を認めた「米比新軍事協定」についても再検討をにおわす発言をしているが、ロレンザーナ氏は、「大統領から協定を白紙にしろとの指示は受けていない」と話した。



新潮社 フォーサイト 9月29日(木)15時45分配信
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20160929-00010000-fsight-int

中国に接近する「ドゥテルテ比大統領」外交感覚の背景

 麻薬犯罪容疑者に対する容赦のない超法規的殺人を認めているフィリピンのロドリゴ・ドゥテルテ大統領(71歳)をめぐっては、6月30日に大統領に就任して以来暗殺の噂が絶えない。

■大統領暗殺の可能性

 アンダナール大統領補佐官(広報担当大臣)は2016年9月20日、大統領府が置かれているマラカニアン宮殿で記者会見を行い、フィリピン系米国人の一味によるドゥテルテ大統領を追放する企てが発覚したと述べた。
 暗殺を企てるグループとして浮上してくるのは、
(1):麻薬密売組織
(2):イスラム過激派
(3):失脚した治安関係者
(4):米国の特務機関
など、いずれもドゥテルテ大統領が目の敵にしてきた相手であり、誰が大統領を暗殺しても不思議ではない構図が出来上がっている。
 この麻薬犯罪容疑者約3000人の超法規的措置のほかに、ミンダナオ島ではイスラム過激派への掃討作戦を展開し、麻薬密売に関与したとして警察幹部を名指し失職させた。
 米国オバマ大統領や国連事務総長がフィリピンには重大な人権問題があると批判すれば、オバマ大統領へ暴言を吐き、国連を脱退すると口走る有様だ。
 世論調査機関のパルスアジアが7月に行った調査では、実に91パーセントの国民がドゥテルテ大統領を支持するなど、全国的に圧倒的な支持率を誇る大統領だが、既得権益層や人権団体からは煙たがられる存在であることも事実だ。
 米英欧の海外メディアからは、連日のように人権問題で批判されるため、大統領は海外メディアが嫌いなことでも知られる。
 米国誌『タイム』(9月26日号)は、カバーストーリーに「夜の帳(とばり)がフィリピンに降りるとき」と題して、「麻薬戦争に立ち向かうドゥテルテ大統領の悲劇的な代償」を特集している。
 一方、人権問題で窮地に立たされているドゥテルテ大統領に、こっそりと歩み寄ったのが中国であった。

■「中国に感謝したい」

 「中国が我々を助けてくれる。
 中国の厚意に対して感謝を述べたい」
――南シナ海の領有権問題で中国と闘っている筈のあのドゥテルテ・フィリピン大統領が、9月9日にインドネシアの首都ジャカルタで発した言葉だ。
 中国に抗議することはあっても、まさか感謝する理由はないと、誰もが耳を疑った発言である。
 ラオスで開かれていた東南アジア諸国連合(ASEAN)関連の首脳会議から帰国する直前にジャカルタに立ち寄り、在外フィリピン人向けの集会に参加した際の演説であった。

 中国の「厚意」は何かと言えば、フィリピンに対する、麻薬中毒者を治療するためのリハビリ・センター建設資金供与のことだ。
 「来年(2017年)、フィリピンにリハビリ・センターを建設する。
 現在、我々はその準備をしている」
と語った直後に出た発言が、中国に対する感謝の言葉であった。
 6月30日にアキノ前政権から政府を引き継いでも、麻薬対策予算がなくて困っていたドゥテルテ大統領に、救いの手を差し伸べたのが中国にほかならない。
 ラオスの首都ビエンチャンで開催されてきたASEAN関連の首脳会議で、中国はドゥテルテ大統領が全精力を傾けている麻薬撲滅作戦へ協力するとの立場から、リハビリ・センターの建設資金を提供すると約束した。
 米国のオバマ大統領は、フィリピン政府が強行する薬物犯罪容疑者に対する超法規的な殺人を人権問題として痛烈に批判するだけで、フィリピンに具体的な救いの手を差し伸べてくれない、との思いがドゥテルテ大統領にはある。
 人権問題には触れずに、薬物中毒者を治療するリハビリ・センターの建設費を提供することで、中国はフィリピンに秋波を送り、ドゥテルテ大統領はその厚意に感謝したのである。

■手打ち式

 アキノ前大統領と異なり、ドゥテルテ大統領の中国に対する警戒感は極めて薄い。
 フィリピンと中国との手打ち式は9月7日、ビエンチャンで開かれた中国ASEAN首脳会議の場で、大勢のプレスを前に行われた。
 同会議の開幕に際しては、大型スクリーンに中国側が用意した中国とASEANとの友好の歴史を描いた動画が流され、ミャンマーのアウン・サン・スーチー国家顧問、シンガポールのリー・シェンロン首相らは唖然とした表情で見入っていた。
 動画のメッセージは、中国とASEANにとって南シナ海問題は存在しないというものであった。
 同首脳会議を閉会するに際して、カンボジアのフン・セン首相が、ドゥテルテ大統領の背中を軽く押すように演壇の中央へ案内し、さらにラオスのトンルン首相が同大統領を誘導して、演壇の中央で待ち構えていた中国の李克強首相と引き合わせた。
 南シナ海は一触即発という報道が躍る中、両国首脳は微笑みながら握手し、会場を驚きの渦に包んだ。
 親中派で知られるラオスとカンボジアの首脳が、中国とフィリピンの手打ち式を演出した光景であった。
 南シナ海問題でASEANの中で中国に対して厳しい外交姿勢をとってきたフィリピンが、対中外交の軸を公の場で変えた瞬間だった。

■対決よりも経済協力

 しかしフィリピン政府が対中関係を、ビエンチャンの首脳会議で突然変えたわけではない。
 その兆候はすでに見え隠れしていた。
 中比首脳の握手から9日前の8月29日、マニラで開催された国際会議「日本ASEANメディア・フォーラム」(国際交流基金主催)で、フィリピンが南シナ海問題で対中交渉に踏み切る可能性を、ヤサイ外相がすでに示唆していた。
 同フォーラムは筆者がプロデュースしている国際会議で、今回のマニラ会議ではドゥテルテ大統領の側近であるヤサイ外相に加えて、アンダナール大統領補佐官の参加を取り付けることができた。
 オンレコの会見を快諾して頂き、その際の発言がそのままニュースとなって配信された。
 こうした要人との会見によって、首脳陣の息遣いや空気感を肌で感じることができる。

 南シナ海問題の解決には、
 「中国の挑発停止が条件」(日本経済新聞8月31日朝刊)としつつも、
 「国益を最優先、南シナ海、対中妥協を示唆」(読売新聞8月31日朝刊)、
 「ASEAN首脳会議 南シナ海の問題は」(NHKテレビおはよう日本、9月7日)
という見出しで記事が配信された。
 中国がスカボロー礁などで人工島建設などの挑発的な行為をしなければ、フィリピン政府は対中交渉にオープンだという、ヤサイ外相のメッセージであった。
 すでに8月上旬、ドゥテルテ大統領の特使としてラモス元大統領が香港を訪れ、11日には中国の外務次官などを歴任した全国人民代表大会(全人代=国会)外事委員会の傅瑩主任と会談しており、この段階で中比2国間交渉の可能性が囁かれ始めた。

 南シナ海問題をめぐるハーグの仲裁裁判決(7月12日)では、中国の南シナ海領有化を全面的に否定し、提訴したフィリピンが全面的な勝利を獲得したが、これはあくまで法的な勝利であって、外交・安全保障の分野における勝利にはつながらない、との認識が政権側にはある。
 そもそも中国に対抗できる海軍もコーストガードもなく、海上における中国との対決は不可能であるとの立場を取っている。
 日米がフィリピンを沿岸警備能力の強化などで支援してくれても、中国の海軍や海上警備機関の「海警」には歯が立たない。
 そうであるならば、中国から資金援助などを引き出し、フィリピンの経済発展に利用した方が得策だとの考えに辿り着く。
 マニラ首都圏は経済成長が著しいが、大統領自身の地盤であるダバオなどの地方都市も何とかして豊かにしたいとの思いが強い。
 そのためには中国マネーを活用するのが、一番手っ取り早い。
 各地を高速鉄道で結び、地方都市のインフラ整備を行い、中国系企業を誘致するという発想だ。
 中国による南シナ海進出に際して、「水上バイクで(中国の人工島建設現場へ)乗り込んでやる」と発言しつつも、中国が高速鉄道を建設してくれるなら中国と手を組んでも良いと述べるなど、中国に対しては硬軟のレトリックを採用するドゥテルテ大統領である。
 大統領選挙戦の最中に、「匿名の中国人から献金を受けていたことを認めた」(英誌『エコノミスト』9月17日号)ように、ドゥテルテ大統領はすでに中国マネーの洗礼を受けているのだ。
 そして、匿名の人物の背後に中国政府が控えていても何ら不思議ではない。

■「パート・チャイニーズ」

 「ドゥテルテ大統領が、中国に対してフレンドリーなのは、彼の体の中に中国人の血が流れていることが、影響しているのかもしれない」と、マニラの地元記者から耳打ちされたことがある。
 フィリピンでは、中国系の血が混じっている人のことを「パート・チャイニーズ」と呼ぶ
 部分的(パート)に中国系の血が流れていることを示す言葉だ。
 長い歴史の中で、血の混ざり具合は千差万別となり、ハーフなどと呼べる状態ではなく、パートという言葉がごく自然に使われるようになった。
 先住民が住む島々へポルトガル人、スペイン人、アラブ人、中国人、米国人、日本人がわたり、ハイブリッドな民族を生み出していった。

 フィリピン総人口に占める直系中国人の割合は、およそ2パーセント前後と言われている。
 現在の総人口は1億人に達しており、単純計算で直系の中国人は200万人前後ということになる。
 しかし、パート・チャイニーズまで視野に入れて参入すると、中国系はおよそ30パーセント、つまり3000万人が居住しているとみられる。
 「私の祖父は中国系(チャイニーズ)であった」
――ドゥテルテが立ち合い演説会で口走ったと言われる一節だ。
 大統領には中国系の血が流れていると、マニラの地元記者からも聞いたことがあり、また大統領の家系を追跡したネット情報でも、ドゥテルテの発言は確認できるのだが、信頼できる公開資料で家系を証明することが出来ない。
 フィリピンでは、実に多様な血が混じっているため、家系図を詳らかにするのは困難だ。
 本稿では、ドゥテルテ大統領が中国系であるという可能性を指摘するにとどめざるを得ないが、中国系の血筋を指摘されるほど、ドゥテルテ大統領は中国に対してオープンであり、抵抗感がまるでない。
 東南アジアの国々では、中国南部から移住してきた中国系は政治家、国家公務員、軍隊、公安関係への就職が閉ざされてきたため、中国系が生きる道は、ほぼ流通業や販売・サービス産業などのビジネスに限定されてきた。
 彼らは同じ境遇の下で臥薪嘗胆し、ビジネス界で財を成して有力者にのし上がっていった。
 そしてドゥテルテ大統領にとっての事実婚の相手も中国系と聞く。

■実質的な“ファースト・レディー”も中国系

 ドゥテルテ大統領が現在、ダバオの私邸で家庭生活を共にする相手は、実質的な“ファースト・レディー”であるハニーレット・アバンセーニャ(46歳)。
 ドゥテルテ大統領と事実婚の関係にあり、入籍はしていない。
 ダバオでは敏腕の実業家として知られる女性で、ドゥテルテとの間に愛娘ヴェロニカ(愛称キティ、12歳)がいる。
 ハニーレットも中国系の血が流れているようだ。
 ハニーレットの場合は、母親が中国系であるという。
 もともと中国南部から移住してきた家系で、商才に長けているともっぱらの評判だ。
 彼女はダバオの医療大学(ダバオ・ドクターズ・カレッジ)を卒業した後に米国へ渡り、看護師として4年間勤務した。
 大学時代にミス・キャンパスの栄冠を勝ち取り、市政を牛耳っていたドゥテルテ氏の目に留まった。
 経緯は不明だが、滞米中に彼女はドゥテルテの子供を授かり、育児のためにダバオに戻ることになった。
 母子家庭を支えるためにビジネス界へ転身し、中国系のネットワークを存分に活用して、いまではミスタードーナツの店舗11軒を経営、さらに精肉店など食材店を切り盛りする名物オーナーになった。
 この先には、大型ショッピングモールの経営も視野に入っているようだ。
 このように、ドゥテルテ大統領の生活環境には中国系の社会がごく自然に展開している可能性があり、中国系への抵抗感は無く、むしろ親近感を持っていてもおかしくはないといった状況が考えられる。

 前アキノ大統領の中国への強硬な外交路線とは対極的に、ドゥテルテ大統領は中国に対して歩み寄る姿勢を見せている。
 かつての中国と異なり、現在の中国は世界第2位の経済大国であり、重要な資金源である。
 ダバオを軸とした地方創生を思い描くドゥテルテ大統領にとって、資金調達を進める上で中国は重要な交渉相手であることは間違いない。

 スカボロー礁をめぐる領有権問題に関しても、
(1):中国が人工島を建設する
(2):中国が撤退する
(3):中比が共同開発する
――これらの選択肢の中で、中国が人工島を建設せず、海警の船舶を残すことに目をつぶりつつも、岩礁周辺の洋上から建設用の工作船を撤収させてフィリピンの面子を保つ。
 その上で、中比が共同開発するという選択肢を、ドゥテルテ大統領は構想しているのではないだろうか。
 国連海洋秩序を踏みにじった中国を、口では糾弾しつつも裏では追認するドゥテルテの手法は、南シナ海外交全体に新たな波紋を生みそうだ。
 ドゥテルテ大統領は、ミンダナオ島ダバオ市で30年間にわたって市政を切り盛りしてきた根っからの国内派で、国政や外交経験は皆無。
 地方政治の国内感覚で、外交の舞台に飛び込んできた。
フィリピンは来年1月1日からASEAN議長国になる。

獨協大学外国語学部教授 竹田いさみ

Foresight(フォーサイト)|国際情報サイト
http://www.fsight.jp/



NNA 10月13日(木)11時30分配信
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20161013-00000008-nna_kyodo-asia

【フィリピン】86%が大統領を支持、パルスアジア調査

 フィリピンの民間調査会社パルス・アジアが12日発表した最新の世論調査によると、ドゥテルテ大統領の業績を評価すると答えた人の割合は86%、信頼すると答えた人も86%だった。
 信頼度に関しては、7月に実施した調査の91%から5ポイント低下した。

 調査期間は9月25日~10月1日。全国の1,200人の成人を対象に対面方式で行った。
 業績への評価を地域別でみると、「支持する」とする回答が大統領の地元ミンダナオ地方で93%と断トツだった。
 ビサヤ地方は88%、マニラ首都圏を除くルソン地方は84%、首都圏は80%。所得階層別では、最貧困層に当たるE層が88%、貧困層のD層が86%、中間所得層以上にあたるABC層が82%と、全階層で支持が8割を超えた。
 信頼度は、7月2~8日に実施した調査の91%から86%に後退した。
 地域別では、ミンダナオ地方が96%となり、大統領の高い人気が示された。
 ビサヤ地方は86%、首都圏を除くルソン地方は82%、首都圏は81%。階層別では、E層が88%、D層が85%、ABC層も85%だった。



ロイター 2016年 10月 13日 03:45 JST
http://jp.reuters.com/article/philippines-duterte-idJPKCN12C2D0

フィリピンのドゥテルテ大統領、
アメリカ軍との軍事同盟維持表明

 フィリピンのドゥテルテ大統領は12日、既存の防衛条約や軍事同盟を今後も維持する意向を表明した。
 発言により、米国とフィリピンの安全保障関係に関する先行き不透明感が増し、混迷は深まった。

 過去1週間にわたって反米的な物言いを繰り返してきた大統領は発言を一転させ、米国との防衛同盟の維持を示唆。
 外交政策については「再編成」を意図していると主張した。
 一方で、10年来の伝統となっている米軍との合同軍事演習は中止すると改めて述べた。

 外交政策の再編成の一部は、中国やロシアと交渉を申し入れることにある。
 大統領の両国に対する評価は高く、10月18日から21日にかけての中国訪問を皮切りに、数週間以内に両国を訪問する予定だ。

 マニラで沿岸警備隊を前に演説した大統領は
 「既存の条約はわれわれに傘を差し掛けてくれるかもしれず、それを破ったり、廃止する必要はない」
と指摘。
 「われわれは全ての軍事同盟を継続する。
 なぜなら、彼らがわれわれの防衛に必要だと言うからだ」
と述べた。
 「彼ら」が誰を指すのかは明言しなかった。

 米軍との合同演習については
 「私は再編成を求める。
 来年からは演習の予定はない。
 準備しなくてよい」
とし、
 「ロレンザーナ国防相には来年の準備の中止を指示した。
 もう必要ないのだ。
 今後、私が独立した外交計画を策定する」
と述べた。

 ドゥテルテ大統領は先週、アメリカのオバマ大統領に「地獄に落ちろ」と述べるなど、米国との関係を損ねる発言を繰り返した。
 フィリピンは米国の支援を「懇願しない」とも述べ、米国の諜報機関による追い落とし工作にも立ち向かうとした。

 前ダバオ市長で独自路線を貫くドゥテルテ大統領は、かつての米国による統治支配に怒りを表明し、大統領が推進する麻薬撲滅策の過激さに米政府の懸念を示していることを「叱責」と呼び、反発した。

 米国とフィリピンの関係についてのドゥテルテ大統領の発言は、相当な混乱を招いている。
 米政府の幹部は、フィリピンとの関係は不変とした上で、フィリピンの国防当局は安全保障プログラムを精査し、その妥当性を判断すべきだとしている。

 フィリピンの国防当局によると、フィリピンと米国は合同軍事演習を年28回実施しており、うち3回は大規模で、残りは小規模だという。



ロイター 2016年 10月 14日 16:35 JST 西濱徹 第一生命経済研究所 主席エコノミスト
http://jp.reuters.com/article/column-forexforum-toru-nishihama-idJPKCN12E0FI?sp=true

コラム:中国に秋波送るフィリピン政権の経済的打算=西濱徹氏

 今年5月のフィリピン大統領選挙で勝利したロドリゴ・ドゥテルテ氏は、当初は「泡沫候補」とみられていた。
 地方政府の首長としての経歴は長いものの、下院議員としての経験は1期(3年)にとどまり、外交など国家行政に関する手腕は未知数だったためだ。
 要するに、大統領としての資質に疑問符がついていたのである。
 ところが、結果的に同氏は当初の下馬評を覆して勝利し、6月に大統領に就任した。
 ポピュリズム(大衆迎合)的な過激な言動が支持されただけではあるまい。
 結局、フィリピン国民は、ダバオ市長として、超法規的措置を駆使する強権的な政治手法で治安を改善させ、それを弾みに直接投資を呼び込むことで成果を上げた人物を選んだのだ。

 金融市場でもドゥテルテ政権誕生からしばらくは歓迎ムードが続いた。
 為替市場ではフィリピンペソが堅調な推移を見せ、主要株式指数も一時は最高値をうかがう動きを示した。
 ちなみに、ここ最近は、手のひらを返したように、ドゥテルテ大統領の政治手法が外交的な対立や政情不安を招きかないとの懸念から、ペソは急落している。
 ただ、株価は下落傾向にあるとはいえ、5月の水準で持ちこたえており、経済政策面での期待は潰(つい)えたわけではなさそうだ。

 経済政策面での信頼が地に落ちずに済んでいる理由としては、同氏が選挙戦に際して掲げた8項目からなる「基本政策」に、著名な経済学者やビジネス関係者が「ブレーン」として関わっていることが大きいと考えられる。
 政権発足後には、こうした面々が国家経済開発相や財務相、予算管理相といった経済政策運営の中枢に配置された。
 これが、海外投資家を中心に、穏当な経済政策運営がなされるとの評価(期待)につながっているようだ。

 経済閣僚は金融市場に対して融和的であるのみならず、国際機関において国家開発プロジェクトに携わった経験を持つ人が多い。
 こうしたことから、フィリピン経済が抱える諸課題の克服に向けた処方箋が提示されるとの期待は依然として強い。
 フィリピン経済の主要課題と言えば、他のアジア新興国同様、慢性的なインフラ不足、そして対内直接投資の足かせとなっている排他的な産業政策などが挙げられよう。
 また、国内における雇用機会の不足が優秀な人材(頭脳)の海外流出を招く悪循環につながっている。
 ただし、ここ数年は同国の公用語が英語であるという特徴を生かし、ITやビジネス・プロセス・アウトソーシング(BPO)関連を中心に投資流入が活発化する動きがみられる。
 ダバオはこの恩恵を受けた都市の1つであり、ドゥテルテ政権もこの流れを理解しているのだろう。
 投資環境の整備を通じて幅広い分野に海外マネーを呼び込む姿勢を強く打ち出している。
 さらに、労働生産性向上策にも取り組んでいるほか、財政健全化に向けたプログラムを推進する姿勢も示している。
 こうした施策は同国経済の潜在成長率向上にもつながることが期待されている。

■<ASEAN内でも健闘するフィリピン経済>

 ここでフィリピン経済の足元の状況を整理しておこう。
 まず今年前半は前年同期比プラス6.9%、4―6月期に限れば同7.0%の高成長を記録している。
 他のアジア新興国が中国の景気減速をきっかけに軒並み減速感を強めているなかでは、健闘していると言えよう。
 フィリピンの高成長を後押ししているのは、人口動態だ。
 同国の総人口は2014年に1億人を突破し、その後も年2%を上回るペースで増加している。
 これが、個人消費を中心とする内需の強さにつながっている。

 1人当たり国内総生産(GDP)は2015年時点で2880ドルと、いわゆる「中所得国」に分類される。
 だが、上記のような人口の多さゆえに消費市場としての規模は東南アジア諸国連合(ASEAN)のなかでもインドネシアに次ぐ水準に達している。
 人口に占める若年層の割合は極めて高く、今後も高い人口増加が見込まれるなど、潜在成長率が高まりやすいこともフィリピンの魅力と言える。

 ただし、足元で個人消費を支えているのは、人口の1割強に達する海外への移民労働者からの送金であり、その3割強は米国からの流入に依存するなど、海外経済の影響を受けやすい側面を有する。

 また、フィリピンはASEANのなかでは輸出依存度が比較的低い国ではあるものの、輸出に占める中国向けの割合は香港・マカオを含めると2割を上回り、中国経済の影響を受けやすい側面もある。
 さらに、中国向け輸出の7割近くは電子部品をはじめとする機械製品であり、中国国内における生産動向の余波を受けやすい。
 つまり、中国の構造改革やそれに伴う生産調整などの影響も懸念される。
 その意味でも、対内直接投資拡大による雇用機会創出はフィリピン経済の安定成長にとって急務と言えよう。

■<ドゥテルテ大統領が過激な言動に走る訳>

 ところで、主要格付け会社は数年前に、軒並みフィリピンの信用格付けを「投資適格」級に引き上げている。
 これは、アキノ前政権の下で反汚職に向けた取り組みが前進したことに加え、高い経済成長を実現したことなどが評価されたためである。
 こうした格付け状況に加えて、世界的な低金利環境下で高い利回りを求める動きが国際金融資本市場で強まっていることも奏功し、同国への資金流入は活発化する展開が続いている。
 しかし、リスクを挙げれば、やはりドゥテルテ大統領による過激な言動がこうした好循環に水を差す可能性だろう。

 それにしても、ドゥテルテ大統領はなぜ過激な言動に走るのか。
 それはやはり国民からの絶大な人気を誇る一方で中央政界における経験が乏しいなか、治安維持といった効果を得やすい分野を中心に大衆迎合的な姿勢に訴えざるを得ないためではないだろうか。
 成果を急いでいると考えると、米国や国際機関などに対する強硬な態度と、中国やロシアなどに対する融和的な姿勢についても、納得がいく。
 つまり、外交的な深謀遠慮ではなく、直接投資など目に見える形での経済的な打算が働いている可能性がある。

 むろん、フィリピンと中国の間では南シナ海の南沙諸島(スプラトリー諸島)をめぐる領土問題がくすぶっており、仮に投資などの実益を得る代わりに領土面で譲歩を迫られる事態となれば、「国益」に直結する問題だけに国民からの人気に陰りが出ることも懸念される。
 他方、米国などとの関係悪化はグローバル企業による投資の動きに悪影響を与える恐れもある。
 ドゥテルテ大統領が成果を急げば急ぐほど、経済面への副作用には警戒が必要となりそうだ。

*西濱徹氏は、第一生命経済研究所の主席エコノミスト。2001年に国際協力銀行に入行し、円借款案件業務やソブリンリスク審査業務などに従事。2008年に第一生命経済研究所に入社し、2015年4月より現職。現在は、アジアを中心とする新興国のマクロ経済及び政治情勢分析を担当。
*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。
*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。



Yahooニュース 2016年10月14日 13時54分配信 遠藤誉  | 東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士
http://bylines.news.yahoo.co.jp/endohomare/20161014-00063240/

中国を選んだフィリピンのドゥテルテ大統領――訪中決定

フィリピンのドゥテルテ大統領が習近平国家主席の招聘を受け10月18日~21日、中国を公式訪問する。
南シナ海問題を避けながら友好関係を目指すようだが、背後にはアメリカに対抗した中国のしたたかな戦略とチャイナ・マネーがある。

◆中国外交部による報道

 10月12日、中国の外交部は
 「習近平国家主席の招聘に応じて、フィリピン共和国のドロリゴ・ドゥテルテ大統領が、10月18日から21日まで中国を公式訪問することが決まった。
 中国は、ASEAN(東アジア諸国連合)以外で、ドゥテルテが最初に訪問する国となった」
という通知を発表した。

 同日の外交部記者会見によれば、訪中期間中、習近平国家主席はドゥテルテ大統領と首脳会談を行い、両国間家の改善と各領域における協力および共通の関心事である国際的地域問題に関して深い意見交換を行うとのこと。
 李克強国務院総理および張徳江国務院副総理とも会談することになっている。
 最後に私は強調したいとして、外交部報道官はおおむね以下のように付け加えた。
「フィリピンは中国の伝統的な友好国で、国交正常化以来、両国は各領域において互いに信頼しあって発展してきた。
 両国の友好関係は地域の趨勢に大きな影響をもたらす。中国はフィリピンとの友好的な協力関係を非常に重視している」
 ある中国政府関係者は筆者に
 「アキノは頭がおかしくなったんだ」
という趣旨のことを、かなり汚い罵倒の言葉を使って批判したことがある。
 ドゥテルテはアキノではないという言葉が、行間に透けて見える。

◆フィリピンの英文紙による報道

 10月10日付のフィリピンの英文紙「The Philippine Daily Inquirer」は、ドゥテルテ大統領がすでに訪中の意を表していて、
 「訪中の際のキーポイントは、南シナ海問題に関して、やたら騒ぎ立てないということだ」
と強調したと書いている。
 それによればドゥテルテ大統領は
 「私には一種の良い予感があって、今後は中国とはうまくやっていけると思っている。
 ただし、それはスプラトリー諸島問題を持ち出さないということが前提だ。
 なぜなら、この問題に関しては、われわれは(中国に)勝てないからだ」
と言ったとのこと。
 さらに彼は
 「訪中を利用して多くのものを頂き、それによって我が国のインフラを改善する。
 たとえば病院とか、学校とか、発電所など」
とも語っているようだ。

◆中国からのプレゼント――オバマ大統領に対抗して

 ドゥテルテ大統領が、チャイナマネーによって心を買われたことは、すでに本コラムでも何度も書いてきたので、まあ、この発言は当然だろうと思われる。
 筆者の注意を引いたのは、もっとほかのことだった。
 それは中国がなんと、フィリピンに「大型麻薬中毒者治療センター」設立を支援したことである。
 ドゥテルテ大統領がオバマ大統領を「地獄に落ちろ」とまで罵倒した理由は、「ドゥテルテ大統領が、まともな裁判も経ずに麻薬中毒者あるいは販売者を逮捕して射殺してしまったこと」を、オバマ大統領が人権問題だとして非難したことにある。
 そのために10月12日、ドゥテルテ大統領は「来年のアメリカとの合同軍事演習は中止する」という声明を出した。
 理由として12日の「フィリピン フィナンシャル」は、ドゥテルテ大統領が、
 「アメリカは共同軍事演習をしたあとに、毎回、軍事演習に使った武器装備を全てアメリカに持ち帰ってしまう。
 あの軍事演習は、アメリカに利益をもたらすだけで、フィリピン軍にはいかなる利益も残してない」
という不満を表したと書いている。
 「もし戦争になったら、われわれは、本当にアメリカを必要とするのだろうか?」
とも述べたという。
 中国にとって、こんな嬉しいことはないと言っても過言ではないだろう。
 そこで中国は、ドゥテルテ大統領を怒らせたオバマ大統領の非難に照準を当てて、「麻薬中毒者」に注目し、麻薬中毒患者をフィリピンから無くそうとしているドゥテルテ大統領に「大型麻薬中毒者治療センターを」設立に際し、経費的支援をすることを決定したのである。
 これに対してドゥテルテ大統領は
 「これで、誰が本当の友人で、誰が敵なのかが、はっきり分かっただろう」
と話している。

◆「中露が目を光らせていることを忘れるな!」
――ドゥテルテ大統領

 危険を増してきたのは、ドゥテルテ大統領が、
 「アメリカよ、威張るんじゃないぞ! 
 中露がお前に目を光らせていることを忘れるなよ!」

と言ったことである。
 今のところ、ドゥテルテ大統領としては、アメリカとフィリピンとの軍事同盟までは撤廃しようとは思ってないようだ。
 しかしそれでも、フィリピンが中露に傾き始めたとすれば、東アジア情勢は地殻変動を起こし始め、それは日本にも深い影響を与えることになる。
 ドゥテルテ大統領はロシアのプーチン大統領のことも礼賛している。
 「プーチンが本気で決意すれば、何でもできるんだ」
という発言から、それは窺い知ることができる。
 中国としては、ラオスは完全に中国側についているので、カンボジアとの関係をさらに緊密なものにしようと、本日から習近平国家主席がカンボジアを訪れている。
 ASEAN諸国のうち、ラオス、カンボジア、そしてフィリピンが完全に中国側についてしまえば、怖いものはないという狙いだろう。
 フィリピンと中国の動きを、ふたたび注意深く観察していかなければならない。


Record china配信日時:2016年10月19日(水) 10時20分
http://www.recordchina.co.jp/a152967.html

比大統領が訪中、
「米国はアジアの緊密な同盟国を失った」―米紙

 2016年10月18日、フィリピンのドゥテルテ大統領が中国を公式訪問した。
 米紙ニューヨーク・タイムズは
 「今回の訪問でフィリピンは米国から離れるだろう。
 アジアの緊密な同盟国を失うことになる」
と悲観的な記事を掲載した。
 環球時報(電子版)が伝えた。

 フィリピンはこれまで、アジア地域で米国の最も緊密な同盟国だった。
 しかし、ドゥテルテ大統領は「米国のフィリピンに対する軍事的な影響力を軽減したい」と表明。
 中国と緊密な関係を築くことに前向きな姿勢を示した。
 今回の訪中では、さらに具体的に中国へのシグナルを発するとみられる。

 米民間シンクタンクの戦略国際問題研究所(CSIS)の高級顧問は、
 「今回の同氏訪中は中国が長年抱いてきた『アジアにおける米国の軍事的影響力を弱めたい』という目標において一つの大きな勝利になる」
と指摘している。

 同氏は米国に対し
 「フィリピンが軍事的な窮地に陥った場合、米国は本当に手を差し伸べてくれるか疑問を抱いている。
 中国から武器を買ってテロリズムに対抗したい」
と表明している。



テレビ朝日系(ANN) 10月22日(土)5時55分配信
http://headlines.yahoo.co.jp/videonews/ann?a=20161022-00000004-ann-int

中国のフィリピン支援2.5兆円 南シナ海 棚上げ

 中国とフィリピンは、習近平国家主席とドゥテルテ大統領による首脳会談を受け、大規模な経済支援などを柱にした共同声明を発表しました。
 中国による支援総額は、2兆5000億円に上るとみられます。

 共同声明では、南シナ海の領有権を巡る問題を平和的に解決する方針を確認し、
 中国側が目指す当事国同士での対話の再開も明記されました。
 一方で、中国からの経済支援としてインフラ整備のほか、バナナの輸入再開などの貿易の拡大、そして投資の拡大が盛り込まれました。
 経済支援の規模は約2兆5000億円に上る模様です。
 中国側としては、主張が退けられた南シナ海問題での仲裁裁判の判決をいったん、棚上げにして、対話の状況を見ながら支援していくとみられます。



フジテレビ系(FNN) 10月22日(土)7時26分配信
http://headlines.yahoo.co.jp/videonews/fnn?a=20161022-00000751-fnn-int

フィリピンのドゥテルテ大統領、対米関係について釈明



 フィリピンのドゥテルテ大統領は、訪問した中国で「アメリカと決別する」と発言し、波紋を広げたことについて、22日、会見で「関係を絶つということではない」などと釈明した。

 ドゥテルテ大統領は
 「(北京での発言は)アメリカに従ってきた、これまでの外交関係から、決別するという意味だ」
と述べた。
 ドゥテルテ大統領は、20日、北京で行った演説で、
 「軍事的にも経済的にもアメリカと決別する」
と述べたことから、アメリカ政府が不快感を示すなど、波紋が広がっていた。
 フィリピンに帰国したドゥテルテ大統領は、22日、ダバオで会見し、この発言について
 「関係を絶つということではなく、アメリカに従ってきたこれまでの外交関係から決別するという意味だ」
と述べ、アメリカとの関係は維持する考えを示した。

 中国、フィリピンの両首脳は、21日、首脳会談後の共同声明を発表し、南シナ海問題については「直接関係する主権国家の協議を通して解決する」として、7月の仲裁裁判所の判断には一切言及せず、事実上、棚上げすることを確認した。



新潮社 フォーサイト 10月27日(木)6時4分配信 ジャーナリスト・野嶋剛
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20161027-00010000-fsight-int

「天から降ってきたドゥテルテ」が中国から「ぶんどったもの」

 フィリピンのドゥテルテ大統領による衝撃的な訪中で浮かび上がったのは、
 世界の大国でありお金持ちの中国から、
 徹底的にぶんどれるだけぶんどろうという小国のリアリズム
だった。
 ドゥテルテは、現在というタイミングが、中国からできるだけ多くの利益を引き出す千載一遇のチャンスだと見て、一気に行動に出た形である。
 ドゥテルテが進める麻薬犯罪対策による治安回復の次は、景気の引き上げと地方の活性化だ。
 今回の訪中を契機に、ドゥテルテが世界を驚かせた米国への「決別宣言」の代わりに引き出したチャイナマネーが、フィリピンに一気に流れ込むだろう。

■当面の解決を見た「南沙諸島問題」

 習近平・国家主席から「争いは棚上げできる」との言質を引き出したことで、ドゥテルテの訪中外交は勝利だったと言えるだろう。
 中国外交部は、南沙諸島のファイアリークロス礁付近でのフィリピン漁民の操業については「適切にアレンジする」と述べ、漁民の入漁を認める姿勢も示している。

 この会談で、オランダ・ハーグの仲裁裁判所による判決は、事実上、無効化された
 少なくとも提訴の当事者であるフィリピンが判決にこだわらない姿勢を示したのである。
 その判決の客観的な正当性は残るかも知れないが、もともとの紛争解決という意味では当面の解決を見てしまった形だ。

 ドゥテルテの勝ち取ったものは、それだけではない。
 中国は、麻薬中毒者の更生施設のために90億ドル(約9300億円)の低金利ローンを支援するという約束を行った。
 さらに、150億ドル(約1兆5500億円)に達する13項目の経済協力案件に署名し、鉄道などのインフラ、製鉄所の建設などに着手する。
 フィリピンの輸出商品であるフルーツについても、37品目の輸入を認める。
 また、中国ではフィリピンに渡航する旅行者に警戒情報を出していたが、それも解除される見通しである。

■「米国へのグッドバイの時」

 ドゥテルテが中国との関係改善に使った説明は、まさに小国の論理だった。
 「一部の国(米国)は、我々を批判することしか知らない。
 しかし、1つの瓦すらくれたことはない。
 中国は違う。
 中国は金持ちでよその国に介入せず、善人で、いい友人になれる」

 また、彼は中国在住のフィリピン人たちとのパーティーでこう語った。
 「フィリピンは米国と長い間パートナーであったが、フィリピンの利益は大きくなかった。
 米国にしか利益はない。
 米国にグッドバイを伝える時だ。
 さらば友よ」

 「米国へのグッドバイの時だ」という発言をどう読み解くのかは意見が分かれそうだが、ドゥテルテの言葉からはそれなりの「本気度」が伝わってくる。

 「米国に私が行くことはない。
 行っても侮辱を受けるだけである」

 少なくとも、アキノ前大統領時代の米フィリピン関係の蜜月には、これで終止符が打たれたことは確かだ。
 さらにドゥテルテは、フィリピンからの米軍撤退にも言及している。
 現在、フィリピンでは米軍が5つの基地を使用していると言われる。
 まずドゥテルテは、テロとの戦いの一環で南フィリピンに駐留している米特殊部隊の撤退を要望すると語っている。
 米国の南シナ海における対中包囲網の形成にとっては、大きな打撃である。
 米国とフィリピンが簡単に同盟関係を切ることはないにしても、深い亀裂が入りつつあるのは明らかだ。

 中国とフィリピン関係の展開によっては、米国はアジアにおけるパートナーの1つであるフィリピンに対する主導的立場を失いかねない。
 「鉄は熱いうちに打て」という言葉がある通り、中国はおそらく最速のスピードで今回のコミットメントの実行を進めるだろう。
 こういうときの中国の対応は、あきれるほど素早い。
 すべてにおいて政治が優先する一党独裁国家ならではと言える俊敏な機動力を見せるはずである。

■徹底的な対中リップサービス

 山場に差し掛かって情勢が混迷する米国の大統領選。
 南シナ海の仲裁裁判所の判決によって中国が苦境に陥ったこと。
 米中の綱引きによってASEAN(東南アジア諸国連合)諸国に入った亀裂。
 そうしたすべての状況を見越して、
 中国に吹っかけるだけ吹っかけて、あらゆるものを受け取った。
 それが、ドゥテルテ訪中の結果だったと言えるだろう。

 ドゥテルテは訪中にあたって徹底的な対中リップサービスを展開した。
 『中国新聞週刊』という有力ニュース誌とのインタビューで、ドゥテルテはこんなことを語っている。
 「大事なのは(我々が)中国に助けを求めていることだ。
 そして中国に友好の手を差し伸べたい」
 「フィリピンの財政は緊迫している。
 資金に欠けて経済が発展できていない。
 中国の投資、中国の技術、中国のカネが必要だ」
 「中国の助けがなければ、フィリピンは発展できない」
 あまりにもあからさますぎて笑うしかない。

 南シナ海については、こんな風に語っている。
 「南シナ海問題は議題の1つだが、言い争いの対話にはならない。
 強硬な要求も突きつけない。
 軟らかい態度で解決の方策を探りたい」

 「仲裁裁判所で我々は勝利した。
 しかし、あの海域は中国政府が中国のものだと主張しており、対立が起きている。
 我々は裁判所の勝利を大声で宣伝しないし、中国を怒らせるつもりもなく、すぐに中国と論争したいわけではない。
 いま2つの可能性がある。
 対立を続けて戦争になるか、兄弟のように平和に向けた話し合いになるかだ。
 中国とフィリピンは近く、多くの華僑が我が国には暮らしており、対話を重ねることで我々は本当の友人になれるはずだ」

 「私は何も恐れない。
 中国は誠実な国家で、誰も欺かず、戦争を望んでいない。
 中国はこれだけ豊かなのに、戦争をやって発展の成果を浪費しないはずだ」

 リップサービスもここまでくれば、あっぱれである。

■中国にとって「有り難い存在」

 ドゥテルテの政治態度は、中国語では「親中疎美」、つまり、中国と親しみ、米国を疎かにする、という意味だ。
 そんなドゥテルテのことを「天から降ってきたドゥテルテ」と評する言葉が、中国メディアで大流行した。
 中国政府が仲裁裁判所の判決をいくら「紙くず」だと批判しようが、世界中での中国の主張に対する信用は大きく傷つき、宣伝戦で不利な状況に追い込まれた。
 当時の中国外交当局は習近平指導部から大目玉を食らったとされる。
 中国にとって、彗星のごとく登場したドゥテルテは、それほど有り難い存在だったのである。
 仲裁裁判所の判決は紙くずにはならないが、すでに新しいページがめくられてしまった過去のページのようなものである。

 もともとフィリピンと中国は必ずしも関係が悪かったわけではない。
 コラソン・アキノ元大統領の時代は、フィリピンと中国は蜜月とも言えるほど親しかった。
 ただそこに誰も注目していなかっただけである。

 同じアキノでも、前大統領のベニグノ・アキノ氏は親米路線を採った。
 しかし、コラソン・アキノ氏が親中路線を歩んだからといって支持率が下がったという話は聞かない。
 外交的に中国と接近することと国内での人気の関係は、フィリピン人には本質的にそこまでは影響しない問題なのではないだろうか。

■米中を手玉に

 ドゥテルテの訪中に対して、フィリピンではいまのところ厳しい批判の声が上がっているという話は伝わってこない。
 半年間に限って行うとしていた大規模な麻薬撲滅作戦もいつの間にか延長され、まったく世界の批判を気にしないかのごとく継続されている。
 フィリピンでの世論は、いまなお、ドゥテルテの麻薬対策に拍手喝采を送りながら路線を強く支持している。

 米中関係でどちらにつくかという国際情勢と、フィリピンでの支持率はそれほど強くリンクしてはいない。
 小国にとっては目先の安定と利益が重要である。
 それが、前任のアキノ大統領の後継者であったロハス氏やポー氏がドゥテルテに敗北した一因だった。
 中国から大きなプレゼントを引き出したドゥテルテに、フィリピンの世論は拍手を送るに違いない。
 ドゥテルテは、堂々と小国の論理で米中を手玉に取ろうとしている。
 いつまでも成功するとは限らないが、いまは誰もがドゥテルテに振り回されているのは確かである。





【身勝手な大国・中国】



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