『
現代ビジネス 2016/10/25 近藤 大介『週刊現代』編集次長
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/50048
中国フィリピン
日米の対中戦略が完全に吹っ飛んだ「ドゥテルテ訪中」の衝撃!
問題の「スピーチ」を全文掲載
■ドゥテルテの衝撃
「まるで、逆転の一本背負いを喰らったような気分だ。
東アジアの地勢図が、一日にして塗り替えられてしまった・・・」
先週はまさに、「ドゥテルテの衝撃」に日本外交が揺れた一週間だった。
10月20日、北京発のニュースが飛び込んでくるたびに、外務省でも首相官邸でも、口をあんぐり開けて戸惑いの表情を見せる人の姿があった。
れほど、日本にとってドゥテルテ大統領訪中の「放言」や、中国との「同盟」強化の衝撃は大きかった。
この「フィリピンのトランプ」の異名を取る大統領は、10月25日から27日まで、今度は日本を訪れる。日本の外交関係者が解説する。
「9月6日に、東アジアサミットに合わせて、ラオスで安倍晋三首相とドゥテルテ大統領が初会談を開いた。
その時、ドゥテルテ大統領は、6月まで市長を務めていた故郷ダバオに対する日本のODA(政府開発援助)に感謝し
『日本を尊敬しているし、今後は日本と協力して進めていきたい』
と謙虚に述べたのだ。
7月12日にハーグの常設仲裁裁判所が出した、中国の南シナ海の領有権の主張には国際法的根拠がないとする裁定についても、『当然、尊重されるべきものだ』と語っていた。
8月11日に岸田文雄外相が、ドゥテルテ大統領の故郷ダバオを表敬訪問した際にも、ドゥテルテ大統領は、累計3兆円に上る日本からの支援や、自らが掲げるミンダナオ和平への支援、新たなマニラ首都圏の鉄道・地下鉄建設への円借款(総額2,400億円規模で2015年11月に署名)について、深く感謝の意を述べた。
さらに、7月の常設仲裁裁判所の裁定についても、『強く確認し、尊重している』と語っていた。
それで安倍政権としては、ドゥテルテ新政権は、『親日親米反中』だったアキノ前政権の方針を継続すると判断し、フィリピンに海上自衛隊の練習機を最大5機有償貸与すること、及び新たに大型巡視船2隻を約165億円の円借款で供与することなどを決めたのだ。
つまり引き続き、日本、アメリカ、フィリピンで連携して、南シナ海で中国の脅威に対抗していこうという意思表示だ。
ところが、20日の北京でのドゥテルテ大統領の放言で、すべての計画が吹っ飛んだ。
かつ、訪日の際にドゥテルテ大統領の首に鈴をつけろと、アメリカからのプレッシャーも強まっている」
■習近平の思惑
中国とフィリピンが領有権を争っている南シナ海東部のスカボロー礁(中国名:黄岩島)は、ルソン島の西220㎞にあり、もともとはフィリピンが実効支配していた。
ところが、2012年4月8日、スカボロー礁事件が起こる。
フィリピンの警備艇が、スカボロー礁近海で中国漁船8隻を発見したため、拿捕。
すると中国は、「漁船救助」を理由に、人民解放軍の艦艇を急派し、そのままスカボロー礁を実効支配してしまったのだ。
当時、私は北京に住んでいたが、北京っ子たちは中国漁船拿捕のニュースが流れると、「フィリピンと戦争だ!」といきり立った。
その後、「人民解放軍が実効支配した」とのニュースに変わると、今度はまるで戦争に勝ったかのように熱狂した。
この年は、半年後に第18回共産党大会を控えていて、「中南海」は胡錦濤政権から習近平政権への移行期に伴う権力闘争に明け暮れていた。
私はその時、「中南海」はこうやって外交を内政に利用するのかと感心したものだ。
同時に、領土というのは、どんな口実をつけようが取った者の勝ちなのだということも痛感した。
スカボロー礁事件に怒りを震わせたアキノ政権は、2013年1月に、南シナ海の領有権問題でハーグの常設仲裁裁判所に提訴した。
中国は、「提訴に反対し、参加せず、裁判結果にも従わない」として、対抗心を露わにした。
そして着々と、スカボロー礁の軍事要塞化を進めていったのである。
日本はアメリカと組んでフィリピンを応援するため、2013年7月に安倍首相がフィリピンを訪問した際に、初めて巡視船の供与を決めた。
約187億円の円借款で、2018年末までに、巡視船10隻を供与するとしている。
その1隻目の引き渡し式が、今年9月12日に、マニラで行われたばかりだった。
式典にはドゥテルテ大統領も参加し、「日本は最大の支援者であり、深く感謝する」と述べているのだ。
こうした経緯があったため、6月30日に第16代フィリピン大統領に就任したドゥテルテ氏は、ASEAN(東南アジア諸国連合)以外の国として、最初に日本を訪問することになっていた。
ところが、そこに割って入ったのが中国だった。
中国共産党関係者が語る。
「7月のハーグ裁定、8月の岸田外相訪問などで、このままではフィリピンが再び、アメリカと日本の植民地化すると判断したのだ。
習近平主席は、日本より先に、そして『6中全会』前のドゥテルテ大統領の訪中を指示した。
ハーグ裁定以降、南シナ海問題は、中国の内政にも影響してきているのだ。
それで『フィリピン側が望むものはすべて与える』として、急遽ドゥテルテ大統領に訪中してもらった」
「6中全会」(中国共産党第18期中央委員会第6回全体会議)は、先週のこのコラムで説明したように、年に一度の中国共産党の重要会議である。
習近平主席は、来年秋の共産党大会へ向けて、「6中全会」で独裁体制固めの勝負に出ていた。
そんな中、焦眉の急である南シナ海問題に関して、一気呵成に外交成果を挙げようとしたのである。
ドゥテルテ大統領は、10月17日から21日まで訪問した北京で、具体的に何を行ったのか。
その虚と実を見ていきたい。
■南シナ海問題は棚上げして巨額の経済援助
まず「実」の方だが、20日に習近平主席と行った首脳会談の中国中央テレビの映像を見ると、習近平主席の晴れやかな表情が際立っている。
習近平主席が、中国共産党の党色である紅ではなく、ブルーのネクタイをしていたのは、海洋での中比の友好を示す意味があったと考えるのは、深読みしすぎだろうか。
習近平主席が外国の賓客と会って一番相好を崩すのは、「盟友」プーチン大統領との会談だが、今回はそれ以上に、満面に笑みを湛えていた。
「6中全会」に向けた外交成果が、よほど嬉しかったのだろう。
逆にドゥテルテ大統領の方は、終始硬い表情で、おまけに緊張を解くためか、会談中もガムを噛んでいた。
「媚中外交」を宣言したものの、例えばカンボジアやラオス、パキスタンの首脳たちが北京で見せるような寛いだ表情はなかった。
中比首脳会談で合意した内容は、一言で言えば、南シナ海の領有権問題を棚上げし、多国間交渉ではなく二国間交渉とする代わりに、中国が巨額の経済援助をするというものだ。
まずはドゥテルテ政権が最優先課題として進める麻薬撲滅運動に関して、麻薬犯罪者の厚生施設をフィリピン全土に建設することを約束。
他にも、鉄道、港湾、道路、農業、科学技術、製造業、航空、観光、防災、警察、メディア、人文、反テロと13もの大型経済協力、計240億ドルの案件を決めたのだった。
翌日発表された共同宣言は、47項目にもわたっていた。
そのうち重要部分は、以下の通りだ。
9.:双方は、訪問期間中に署名した多くの覚書を歓迎する。
それらは、
①経済技術提携協定、
②エネルギー発展及び投資提携了解覚書、
③交通インフラ提携了解覚書、
④貿易、投資、経済提携了解覚書、
⑤中比経済提携発展計画了解覚書、
⑥重大項目推進研究支持の了解覚書、
⑦農業提携行動計画(2017-2019)、
⑧ニュース、情報交流とトレーニングその他の事柄の覚書、
⑨植物検疫提携了解覚書、
⑩中国海警局とフィリピン海岸警衛隊の海警海上提携合同委員会設立の了解覚書、
⑪観光提携了解覚書執行計画(2017-2022)、
⑫中国公安禁毒局とフィリピン粛毒局の提携議定書、
⑬中国輸出入銀行とフィリピン財政省の融資提携覚書
である。
16.:中国は、フィリピンが推し進める麻薬犯罪撲滅への努力を理解し、支持する。
18.:双方は、1982年の「国連海洋法条約」を含む国際法の原則に対する共通認識に基づくことを承諾し、両国の海警部門の提携を強化する。
そして南シナ海の人道主義、環境問題、海上での緊急事件、海上での人員及び財産の安全問題、海洋環境の維持と保護などに対応していく。
26.:双方は貿易と投資において双方の通貨での決済を拡大していく。
28.フィリピンは、中国がフィリピン企業に対しバナナとパイナップルを中国に輸出する許可を回復させると宣布したことを歓迎する。
38.:2017年のフィリピンのスルスタン(最初の北京への朝貢使節)訪中600周年を記念した活動を挙行する。
40.:双方は、南シナ海の問題に関して意見を交換した。
双方が主張する争議の問題は、中比の両国関係のすべてではない。
双方は、適当な方式で南シナ海の争議を処理していくことで、重要な意見交換を行った。
双方は、平和と安定を維持、保護し、南シナ海での航行と飛行の自由の重要性を、重ねて話した。国連憲章と1982年の国連海洋法条約を含む共通認識となっている国際法の原則に基づき、武力や威嚇によらず、直接主権が関係する国家同士が友好的な討議と交渉を行い、平和的な方式によって領土と管轄権の争議を解決していく。
41.:双方は、2002年の「南シナ海行動宣言」と2016年7月25日にラオスのビエンチャンで行った「中国・ASEAN宣言」を回顧した。
そして双方は、全面的に宣言が有効であることを承諾し、協商一致を基礎として、一日も早く「南シナ海行動準則」を達成すべく努力していくこととする。
42.:双方は、南シナ海の行動を自制し、争議を複雑化させず、平和と安定の影響を拡大させることを承認する。
これに鑑み、他の機構の補充として、他の機構に損害を与えないという条件下で、双方の商機を協議する機構を設立することは有益である。
双方は南シナ海における各方の他の定期協議も進める。
双方はその他の領域においても提携の道を探ることで同意した。
■ドゥテルテ大統領のスピーチ全文
続いて、虚(放言)の方も見ていこう。
10月20日午後、張高麗筆頭副首相に伴われたドゥテルテ大統領は、人民大会堂3階の小ホールで開かれた「中比経済貿易提携フォーラム」の開会式に参加した。
このホールの定員は900人だが、フィリピンから訪中した代表団一行のうち150人以上が、会場に入れなかった。
当初はドゥテルテ大統領に同行するフィリピン経済界代表は約20人の予定だったが、250人以上に膨れ上がったからだ。
そこでのドゥテルテ大統領のスピーチは、日本に衝撃を与えるものだった。
会場で聞いたある中国人は、
「海外の国家元首が北京で過去に行ったスピーチの中で最高傑作」
と、微信(WeChat)を通して言ってきた。
日本のテレビニュースでは「アメリカと決別する」という、スピーチの結語しか流れなかったが、以下に、全文を掲載する。
スピーチは英語で行われ、中国メディアがテープ起こしして中国語に訳したテキストを、私が日本語に訳出したものだ。
だいぶ長いが、確かにドゥテルテ大統領のホンネをさらけ出した特異なスピーチである。
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「とどのつまり、アメリカ人の品性の何が問題なのか?
東洋の紳士として言わせてもらえば、フィリピン人も含めた東洋人というのは誰でも、羞恥心というものを持ち合わせている。
東洋人は性格が比較的穏やかで、真実がどこにあるかを知っていても冷静に話し、決して大声で喚き散らしたりしない。
ところがアメリカ人たるや、声がデカくて、文明人の範疇を超える音量だ。
実際に、多くの人がそう思っている。
東洋人は比較的穏やかで、居丈高に相手を見下したり、顎や指で指図するようなことはしないが、奴らはそうでないのだ。
私の身体には、中国人の血液、マロ(男性神)の血液、そしてビサヤ人(フィリピン原住民)の血液が流れている。
私はこれらの民族の特質を研究したことがある。
その結果、発見したのは、われわれ東洋人というのは、文化の奥底が非常に深くて濃厚な民族だということだ(拍手)。
ただ問題は、われわれが西洋人と話をすると、それがアメリカ人だろうが他の西洋人だろうが、まったくもって非文化的な輩だということを発見するのだ(拍手)。
貿易関係の話をすれば、私は今日のフォーラムを十分に利用するつもりだ。
もし今日お越しの中国の皆さんがカネを持っているのなら、実際に多くのフィリピンの華僑は大いにカネを持っているが、私は忠告したい。
アメリカ人がやって来るのを見たら、すぐに口を閉じろと(笑)。
奴らを対話の仲間に入れるんじゃない。
そうでないと、あななたち中国人は皆、アホだ(笑いと拍手)。
華僑がアメリカ人と話をしだしたら、それは有り金をスッちまう最も早い方法だ(笑)。
オレは23年間、市長をやってたが、しょっちゅうアメリカ人が市長室にやって来て、口上を述べたものだ。
中国人なら、普通のビジネスをやりにフィリピンへ来るだろう。
フィリピンから果物を輸入するとかだ。
だがアメリカ人は、鉱物の採掘とか、われわれの得にならないことばかりやりに来る。
フィリピンの採鉱場の多くはアメリカ人が牛耳っている。
われわれフィリピン人にとっては、アメリカ人とのビジネスは、百害あって一利なしだ。
中国人はわれわれと穏やかにビジネスをやるが、アメリカ人はウルサい上に文化というものがない。
オレはこれまでいろんな経験をしてきたが、アメリカ人のことは、心から好きになれない。
それは単に、物事の進め方が異なるからというだけではない。
もうだいぶ前の話だが、アメリカ人の傲慢さを思い知らされたことがあった。
それはブラジルを訪問した時のことだ。
その時はロサンゼルスを経由して行ったが、ロサンゼルス空港で税関職員に、何度も詰問されたのだ。
その職員は黒人だった。
服も黒いし、下げてる銃も黒かった。
ソイツがオレに、パスポートを見せろと命じた。
当時オレは、下院議員だったから、公用パスポートを持っていた。
奴はオレのパスポートを見ながら、今度はインビテーションカードも出せと言ってきた。
その時のインビテーションカードは、ブラジルが出してくれたものだった。
しかもオレは持参していなかった。
そうしたらその職員は、オレを尋問室まで連れて行って、また一から尋問を始めた。
そこでオレは言ってやった。
「これ以上、オレを尋問するんだったら、すぐにフィリピンへ戻る」。
それがオレにとって、最後のアメリカの旅だ。
多分、遠からずアメリカ人は、ビジネスをやろうとしてフィリピンへやって来るだろう。
その中の一部は、変態ロリコン野郎を保護したりしているのだ。
ソイツらはパスポートすら持っていなくて、直接、アメリカ領事官へ駈け込んだりする。
奴らはきっと、いまでもフィリピンを自国の植民地と勘違いしているのだろう。
アメリカという馬は、いつだってお高く留まっている。
お前らが今度フィリピンに来る時は、まずビザを取得しろってんだ(拍手)。
アメリカ人は、経済をうまくコントロールすることができない。
アメリカは世界最大の工業国だと自負しているが、それだってナンセンスのひと言だ。
もしも世界最強の工業国だったら、なぜ中国から3兆ドルも借金しているのか?(拍手)
借金にも限度額ってものがあるだろう。
中国は太っ腹だから、ここにお集まりの皆さんも貸してくれるって?
ならオレに、50億ドルばかし貸してくれ(笑)。
オレはそのカネを、一時使わせてもらい、利子を除いて返すから(笑)。
フィリピン人ってのは、借金はちゃんと返すんだ(拍手)。
中国とフィリピンは、大変仲が良い。
それでアメリカは焦っている。
アメリカ人はプーチンのことも恐れている。
それは、プーチンに自信があるからだ。
ヨーロッパはいまやガタガタしていて、ギリシャはもはや自力では立ち直れない。
メリカはアフガニスタンで酷いことをやらかしたせいで、自国の医療システムさえ整えられなくなっている。
東南アジアに目を移すと、カンボジアは中国の真の友人だ。
盟友と言ってもいいだろう。
ラオスもそうだ。
ベトナムもそうだ。
インドネシアは中立かな。
そしてフィリピンはと言えば、このドゥテルテ大統領は、大変中国寄りだ(拍手)。
中国人には、東洋人の品性がある。と
ころかまわず人に命令したりしない。
中国人の要求は、世界の人々の了解の範囲内だ。
中国は率先してAIIB(アジアインフラ投資銀行)を設立してくれた。
この時も、アメリカは一敗地にまみれたのだ。
アメリカはAIIBへの準備を怠った。
なぜなら奴らは、リスクを取ろうとしないからだ。
フィリピンから見れば、わが国の国益のために、アメリカが犠牲になればよいのだ。
フィリピンの法治の問題についても言っておきたい。
オレはこれから新しい政策を打ち出していく。
それは刑罰に関することも含めてだ。
現実主義を貫こうじゃないか。
われわれは腐敗に反対する。
何人であろうと、腐敗を疑う者がいたら、大丈夫だからオレに言ってこい。
オレは頑として反腐敗を支持する。
商人というのは、時に袖の下を渡したりする。
カネというのは使いようだからだ。
例えば、ある人は援助してくれる。
居丈高な態度で。
日本なんかがそうだ。
だが中国は違う。
中国も援助や借款をしてくれるが、空手形を切ったりはしない。
それが中国とアメリカとの最大の違いだ。
国と国との関係というのは、実際の利益を生み出すものでないといけない。
だがオレには、アメリカが何をやりたいのかが見えないのだ。
そこでオレは、進む道を変えることにした。
アメリカはいつだって、何の理由もなしに、とにかくアメリカ人に歩調を合わせろと言う。
だがそんなことをしたって、フィリピン人には何の得にもならないのだ。
その結果、いつも選挙は腐敗にまみれているし、経済だって一向によくならない。
オレが本当に理解不能なのは、腐敗が出てきたって、アメリカの奴らは、まだそこにカネをつぎ込もうとするのだ。
だからフィリピン人は、アメリカ人のカネを、争って掴もうとする。
だがそういうカネに限って生かされない。
実際、アメリカ人が提供する高利貸しの資金は、役に立ったためしがない。
オレがダバオで働いていた時、当時は貧困率が非常に高かった。
それは、市の職員が腐敗していたからだった。
一部の市民はバナナと柿を売るだけの日々で、早朝から真っ黒になって仕事し、交通も不便で、生活は困難を極めていた。
政府の人々はこうした庶民の気持ちを、身をもって観察しないといけない。
だがアメリカ人は、フィリピン人の境遇を真から変えることはできなかった。
日本も同じだ。
インド大使は、今日ここに来てないだろうな。
インド人はどこへでも行って高利貸しをやる。
フィリピンが経済的苦境に陥っていようがお構いなしだ。
奴らはカネは貸してくれる。
だがその代わり、奴らが指定するものを買わなきゃいけない。
インドの冷蔵庫とかだ。
そうでないとカネを貸してくれない。
だから条件付きなのだ。
利率も高くて、元金の倍も取ることさえある。
そんなことが、ずっと続いてきた。
そしてフィリピン国内のどの政党も、これまで真の解決には至らなかった。
オレは家を2軒持っている。
一軒目の家は他人に貸している。
だから家賃収入が入って悠々自適だ。
だが帰る家もない人々の生活は、凄惨を極めているのだ。
日本が、フィリピンを助けてくれるという。
中国もそうだ。
日本は鉄道をよくしてくれるという。
あと韓国もそうだ。
でもわれわれが一番望むのは、中国からの借款だ。
なぜなら中国は時に長期借款にしてくれるし、後になって「両国の友誼に鑑みて」借金をチャラにしてくれたりする。
だが日本と韓国の場合は、そうはいかない。
だから中国からの資金援助があれば、もう十分だ。
そしてわれわれがさらに嬉しいのは、あなたたち中国人は、誠意に満ちていることだ。
中国は元来、他国を侵害したりしない。
侮辱することもない。
これはオレにとって大変重要なことだ。
オレの母親の父は中国人だ。
だからオレは中国人の流儀は分かっている。
友人として、中国はいつでも快く助けてくれる。
われわれの友誼は源遠流長なのだ。
オレは自分のルーツによって、そのようによく理解している。
オレが強調したいのは、今日のフォーラムは大変素晴らしいということだ。
中国の企業は、どんどんフィリピンへ来て投資してほしい。
それはインフラ建設も含めてだ。
われわれが必要としているものは数多くある。
どうか積極的に考えてほしい。
借款であれば、長期借款にしてほしい。
鉄道建設の援助をしてくれるのは、もっとありがたい。
メンランラオ鉄道がつながれば、社会の流動性は増すだろう。
鉄道建設によって貨物輸送が増えることを、強く望んでいる。
フィリピン国内の鉄道は、便利で安全で、コストも安い。
安全性は、もちろん政府が第一に考えるべきことだ。
われわれはフィリピン共和党とも話しているが、よい方向に向かっている。
テロとの戦いに至っては、話し合いの余地はない。
これらの問題は解決できる。
われわれは中国政府と習近平主席に保証する。
フィリピン国内の状況は改善していると。
フィリピン政府は中国からの資金を使うが、絶対に腐敗問題は起こさない。
もしどこかに腐敗があったら、私に言ってきてほしい。
どんな人間にブチ当たろうが、必ず腐敗分子はブッ倒す。
反テロも高らかにブチ上げる。
そうしてこそ皆さんも、積極的にフィリピンに投資しようと思うだろうから。
他の問題、例えば移民とかの問題も、われわれは頑張って解決していく。
決然と宣言し、固く努力していく。
恐れるものは何もない。
変革の推進は決然と行うものであり、そこに譲歩の余地はない。
腐敗に対しても譲歩はできない。
きょろきょろ、もたもたしていては、問題の解決にはならない。
私は皆さんに保証する。
われわれは必ずや、発展してみせると。
発展してこそ資金が生まれ、商談もできる。
基本的な生活が問題なくなれば、車がほしいとか他の高い要求が出てきて、資金が足りなくなる。
だから借款が必要なのだ。さっきも言ったが、われわれは中国の援助を得たこと、特に必要とする領域において援助を得たことは忘れない。
政治や文化が目まぐるしく変化していくこの時代にあって、アメリカはすでに敗北者だ。
私は引き続き、中国に寄りかかっていく。
思想的には、中国とロシアの双方に寄りかかっていく。
私はプーチンにもこう言いたい。
フィリピン、中国、ロシアは、互いによきパートナーであると。
フィリピン国内のオレの政敵たちは、オレを起訴できると言う。
だが奴らには何の根拠もない。
選挙期間中からオレを非難し、いまだに非難している。
オバマとアメリカ国務省のスポークスマンも、オレのことを非難しっぱなしだ。
オレは奴らのことを理解しようとしてきた。
だが奴らはオレのことを評価しない。
フィリピンには400万人もの麻薬患者がいるのだ。
オレはこれまで、丁寧に説明してきた。
だが理解してくれないから、遠慮なく奴らへの怒りを表すようになったのだ。
アメリカの奴らは、人権問題についてもとやかく言う。
人権問題については、オレはこれまで言ってきた通りだ。
奴らがわが国を滅ぼす気なら、オレは奴らとオサラバする。
オレにはフィリピン人一人ひとりを保護する義務があるからだ。
それから、これまで明らかにしてこなかった違法な処罰をする問題についてだが、一部メディアは事実と異なる報道をしている。
アメリカも不実なことを発表している。
だがアメリカの指導者は、これについていまだ謝罪していない。
この傲慢さこそが、奴らと中国との思想の違いだ。
オレはここに謹んで宣布する。
アメリカとの関係を離脱する。
軍事的にも経済的にも離脱する。
もしあなたたち中国がアメリカとの間で、経済上の問題が起こったなら、われわれが中国の味方になろう。
あなたたちがわれわれの味方になってくれているように」
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■「サラミ戦術」は一時中断
この長くて、時に品のないスピーチから浮かび上がってくることが3点ある。
★:第一に、1898年の米西戦争以来の、
被植民地国家としてのアメリカに対する根深い恨みである。
★:第二に、1946年の独立以来、70年経っても生活が豊かにならない苛立ちである。
★:第三に、親中宣言と言っても、真に中国を尊敬して従うのではなく、
むしろ反米としての選択肢だということだ。
冒頭の日本の外交関係者は、「あくまでも個人的見解だが」と前置きした上で、こう述べる。
「ドゥテルテ大統領の戦略は、新興諸国にありがちなもので、アメリカの大統領選を好機と捉え、アメリカの新政権に対して、自国を高く売ろうという狙いがあるのだろう。
だから来年1月にアメリカの新政権が発足したら、またコロッとアメリカに靡くかもしれない。
逆にもし、来年になってもそうならなかったら、その時は日米にとって、本当に深刻な事態となるだろう」
中国側の今後の出方を予測するなら、スカボロー礁の軍事要塞化は、一時的にストップするだろう。
だが、ドゥテルテ政権とアメリカの新政権の出方を見ながら、早晩、そろりそろりと「サラミ戦術」を復活させるに違いない。
特に、来年秋の共産党大会を無事に乗り切ったら、習近平政権は外交的に、一段と強気に出ると見て間違いない。
最後に、対フィリピン外交で勝利した中国で、いまウケている中比首脳会談のアネクドート(政治小咄)を紹介しよう。
習近平主席:
「さあ、声を上げて言いたまえ。『南シナ海は中国のものだ』と。これを言ったら、一字あたり1億元を差し上げよう」
ドゥテルテ大統領:
「はい、言います。『南シナ海は古代から現在に至るまで一貫して中華人民共和国の神聖にして犯すべからざる不可分で固有の領土なのであります!』」
』
ダイヤモンドオンライン 2016年10月25日 加藤嘉一
http://diamond.jp/articles/-/105659
比ドゥテルテ大統領は中国を本心から“礼賛”しているか
■習近平国家主席の招待を受けた
ドゥテルテ大統領の訪中
「過去の2年間、両国関係の退化はフィリピン国民の利益を損なわせた。
地域情勢の安定にも影響を与えた。
ドゥテルテ大統領は就任後、中国と友好を再建する選択をし、対話と協力の軌道に戻る意思を表明した。
フィリピン国民の願望を体現するものであり、フィリピンの国家・民族利益に符合するものであり、歴史の発展潮流に順応するものである。
いかなる人間、いかなる勢力もそれを阻害することは不可能だ。
中国は今回のドゥテルテ大統領訪中を高度に重視している。
準備は整った」
2016年10月18日、中国の王毅・外交部長は北京で記者団らにこう語り、同日夜、北京の空港へと向かい、自らドゥテルテ大統領を出迎えた。
王毅部長が前回自ら北京の空港で外国元首を出迎えたのは約2年前のこと。
対象は米国のオバマ大統領であった。
今年6月30日にドゥテルテ氏がフィリピン大統領に就任して以来、初となる中国訪問となった今回、習近平国家主席の招待を受けた同大統領による4日間の公式訪問という形式が取られた。
私は、中国国内がドゥテルテ訪中と、それによって中比関係が大きく改善するという世論に包まれていくのを感じていた。
ドゥテルテ大統領が同盟国である米国に対して強硬的な態度を、逆に中国やロシアとの関係改善に期待を寄せる言論を取ってきたのは周知の通りである。
また、就任から約2週間後という時期に公表された南シナ海問題を巡る仲裁判決を“紙くず”と見なし、「受け入れない、認めない、履行しない」という立場を取ってきた中国政府に対して、ドゥテルテ大統領がアウェイの地で、どのようなスタンスで、どのようなメッセージを打ち出していくのかに注目が集まっていた。
■フィリピンの経済にとって
唯一の希望は中国
訪中前、中国中央電視台(CCTV)の著名キャスター・水均益氏がフィリピンの大統領府に赴き、ドゥテルテ氏をインタビューした番組が放映された。
水キャスターは次のように問題提起した。
「中国人はネット上で、なぜフィリピンの立場が突然変わり、ドゥテルテ大統領が対中政策で異なる立場を取るようになったのかに関心を示している。
その中にはどの程度の誠意が含まれているのか?」
これに対してドゥテルテ大統領は次のように答えている。
「それはもしかすると、私が華僑であるからかもしれない。
私は誠意をもって人と接するという信念と原則を持っている」
4日間の訪中の間に希望することを問われると、
「あなた方が我々のために鉄道を建設してくれるならば、我々はとても感謝するだろう。
地球上の全ての国家は鉄道に依拠しないで発展することはできない」
と答え、続けてこう主張した。
「私はいつも考えている。
なぜ当時のスペイン人は我々のために鉄道を造らず、メキシコには造ったのか。
米国には自らの鉄道があるが、なぜフィリピンにはただ一本の単線しか造ってくれなかったのか。
本音を言えば、フィリピンの経済にとって唯一の希望は中国だ。
あなた方が助けてくれなくても、我々は進歩するだろう。
ただそれには1000年の時間を必要とするだろう。
もちろんこれは誇張した言い方であるが、数世代の時間は必要になるだろう」
CCTVの報道には、ドゥテルテ大統領が「我々はあなた方の助けを必要としている」と懇願する場面が複数含まれていた。
その後、中国のインターネット世論では、同大統領が「中国だけが我々を助けることができる」と言ったというフレーズが蔓延した。
そんな空気感のなかで迎えた同大統領の訪中であった。
■ドゥテルテ大統領の滞在期間中
中国側は最大限の礼遇をもってもてなした
中国側はドゥテルテ大統領の滞在期間中、最大限の礼遇をもってもてなしていたように映った。
上記の王毅外交部長の空港出迎えに始まり、習近平国家主席、李克強首相、張徳江全国人民代表大会委員長という序列1~3位が同大統領と会談を行った。
また、序列7位の張高麗・国務院常務副総理が同大統領と共に中国・フィリピン経済貿易協力フォーラムに出席した。
7人の政治局常務委員のうち4人がそれぞれ同大統領と会談をしたという事実だけを見ても、中国共産党指導部が今回の外交行事を政治的に非常に重視していたことが伺える。
私から見て、党指導部がこの時期におけるドゥテルテ大統領の訪中を政治的に重視していた動機として、3つの考慮があったように思われる。
(1):「対フィリピンとの関係において南シナ海問題が不安要素になる可能性を消し去ること」(中国外交部幹部)。
(2):対米関係という観点から、米国のアジア太平洋地域における重要な軍事同盟国であるフィリピンを戦略的に中国側に寄せつつ、同地域におけるパワーバランスを自国に有利な局面に動かすこと。
(3):フィリピンを習近平国家主席が掲げる“一帯一路”の下、アジアインフラ投資銀行(AIIB)などを通じて経済外交を展開していく上での戦略的拠点と位置づけ、かつドゥテルテ大統領本人に中国の発展モデルや中国が提唱するルールや秩序の在り方に同調させること。
10月20日午前10時半。習近平国家主席は2時間以上に渡ってドゥテルテ大統領と会談した。
双方が「平和と発展に尽力するための戦略的協力関係の健康的、安定的発展を共同で推し進める」ことに同意したこの会談において、習主席は南シナ海問題について次のように主張した。
「両国が国交を正常化して以来の大部分の時間、双方は南シナ海問題において双方対話と協調によって意見や立場の相違を妥当に管理してきた。
これは誇るに値する政治的智慧であり、受け継がれるべき成功的実践であり、そして中比関係が健康的、安定的に発展していくための重要なコンセンサスと基礎を確保するものである。
我々が友好的な対話と協調を堅持すれば、全ての問題を巡って率直な意見交換ができる。
摩擦を管理し、協力を話し合うのだ。
現時点で合意できない問題は一時的に棚上げすればいい。
双方は手を携えて共同発展を堅持し、両国の国民に実質的な利益をもたらしていくべきである」
■南シナ海問題は「棚上げ」
両国の現政権が重視する分野から協力
この発言で私が注目したのは「棚上げ」の部分である。
中国政府として、南シナ海問題を巡って拙速な“解決”を急ぐというよりは、この問題を両国関係の主要アジェンダから“棚上げ”し、両国の現政権が重視する分野から協力を推し進めていこうという意思表示なのだろう。
この点は、李克強首相がドゥテルテ大統領との会談で口にした
「南シナ海問題は中比関係の全てではないし、そうあるべきでもない。
両国間の共通利益は意見や利害の不一致よりもはるかに大きい」
という一節にも表れている。
そんな意思を象徴するかのように、会談で
「中国は偉大な国家である。
フィリピンと中国の悠久な友好は動揺してはならない。
中国の強靭な発展を世間は敬服している。
現在、比・中両国の発展戦略は高度に重なり合っており、双方の協力は広範な成長の空間を有している」
と述べたドゥテルテ大統領に対して、習主席は
「両国の発展戦略を全面的につなぎ合わせる」
という視点から次のように同大統領の政治的需要に直接切り込んだ。
「中国はフィリピンの鉄道、都市交通、道路、港といったインフラ建設に積極参加し、現地住民に福をもたらしたい。
中国はフィリピン新政府の麻薬撲滅、反テロ、犯罪撲滅などの努力を支持し、協力していきたい。
中国は企業のフィリピンへの投資を増加させ、フィリピン経済のより良い、より速い発展を助けたい。
中国はフィリピンが農業生産と農村発展能力を向上させることを助け、両国の漁業企業間の協力を支持したい」
少なくとも私には赤裸々な発言に聴こえる。
ここまではっきりとフィリピンの需要、特にドゥテルテ大統領が重視する麻薬撲滅運動や経済社会インフラを支持・支援すると言っているのである。
中国政府としてこの新しい大統領に照準を合わせて、一気にフィリピンとの政治的関係を改善・構築していきたいということなのであろう。
10月21日に公表された中比共同声明は計47の項目からなり、そのなかには、
「中国はフィリピン政府の麻薬犯罪撲滅の努力を理解し、支持する」(第十六項)、
「双方は争議のある問題が中比両国関係の全てではないことを改めて主張する…直接関係のある主権国家同士が友好的な協商と交渉によって、平和的な方法で領土と管轄権の争議を解決すること」(第四十項)
なども含まれた。
その他、両国政府は、経済貿易、投資、エネルギー、農業、メディア、観光、麻薬撲滅、金融、海上警備、インフラ建設など13の分野にまたがる協力文書に署名した。
■あらゆる場面で中国サイドに“感謝”
中国の官製メディアも「してやったり」
私がドゥテルテ訪中を中国国内で眺めながらひしひしと感じたことは、比サイドが事あるごとに、あらゆる場面で中国サイドに"感謝"の気持ちを表明していた点であった。
そして、中国の官製メディアもその点を落とすことなく報じていた。
「してやったり」とでも言わんばかりに。
例えば、張高麗国務院常務副総理と経済協力フォーラムに出席したドゥテルテ大統領は、フォーラム前に短時間で行われた会談の席で、
「フィリピンは中国の発展の成果を敬服しており、中国の発展の経験を学習したいと願っている。
中国のフィリピン発展への手助けに感謝する。
今回の訪問で合意に達した一連のプロジェクトを中国側と共に実施していきたい」
と語った。
また、李克強首相との会談においても
「フィリピンは中国が経済を発展させ、貧困を減少させた有益な経験を学習し、我が国政府のガバナンス能力を向上させ、フィリピン経済社会の発展と民生の改善に役立てたいと考えている」
と語った。
中華人民共和国中央人民政府のオフィシャルサイトは北京の都市報・新京報の報道を転載する形で「外交会談ではめったに見られない一幕:フィリピン代表団が中国総理に拍手を送った」というタイトルの記事を紹介している。
「我々は一部国家のフィリピン経済への操縦とコントロールから脱出したい。
我々がこれまで困ってきた貧困と麻薬などの問題から逃れることを中国が助けてくれることを希望している」
ドゥテルテ大統領がこのように主張すると、李克強首相は次のように呼応した。
「貧困や麻薬といった社会問題への対応は、根本的にはやはり経済を発展させ、民生を改善することである。
私は過去に中国の古い工業地帯で働いたことがある。
あそこには環境や衛生が悪く、設備も伴わない古い住宅が大量にあった。
我々は2?3年の時間をかけて改造を行い、その過程で雇用を作っただけでなく、現地住民の生活を徹底的に改善した。
社会治安の状況も明らかに好転した。我々はこれらの経験をフィリピン側と共有したいと願っているのだ」
■李首相の総括発言が終了すると
フィリピン代表団からは拍手喝采
外交舞台におけるプレゼンテーションに長けた李克強らしい発言に聞こえたが、極めつけは次のやり取りであろう。
「中国がフィリピンに対して全力で行うサポートには如何なる政治的条件も付随しない。
我々はいかなる国家とも同盟を組まない。
我々の意思を他国に押し付けることもない」(李首相)
「私はあなたの観点に非常に賛同するし、あなたの我々への理解と対応を評価している。
私はずっと思ってきた。
フィリピンと中国の関係は必ずや正常な方向へと邁進していく、私の任期でそれを証明してみせる」(ドゥテルテ大統領)
同記事によれば、会談終了時、李首相の総括発言が終了すると、フィリピン代表団からは拍手喝采が巻き起こったという。
ドゥテルテ大統領が会場を後にしたあとも、フィリピン側の大臣や随行官僚らは会場に残り、先を争って李首相と記念写真を撮っていたとのことである。
以上、ドゥテルテ大統領と中国共産党指導部とのやり取りをレビューしてみたが、これを元に、中国側が今回の外交行事を政治的に重視した3つの動機的考慮がどれだけ達成されたのかを私なりに総括してみたい。
(3):に関しては相当程度達成されたと言っていいだろう。
私から見ても、ドゥテルテ大統領のような政策目標を掲げる指導者とのやり取りを中国は"得意"としている。
目的のためには手段を選ばないという"価値観"は中国共産党体制内にも深く宿っているように思える。
(1)と(2)に関しては、引き続き状況次第で不確定要素も残ると言えそうだ。
私が見る限り、ドゥテルテ大統領の言動にはブレが見られることもあり、かつオポチュニストとも形容できそうなプラグマティスト的な気配を放っているように映る。
今回は中国からの経済的支援を得るために、中国側の指導者の喜ぶことを発言し、
南シナ海問題でも中国の立場や主張に理解を示すような場面が見られたが、今後の展開についてはまだまだ何とも言えないというべきであろう。
■フィリピンが“中国寄り”と
結論づけるには時期尚早
中国訪問中の発言として波紋を呼んだ「米国とは別れた」発言に関しても、フィリピンのダバオに戻った際の記者会見で
「外交的結びつきを断つということではない。
外交政策を分かつという意味だ」
と釈明し、
「これまでフィリピンは米国の指図にいつも従っていたが、私は従わない」
と主張した(朝日新聞電子版記事参照、2016年10月22日)。
李克強首相との会談で指摘した
「フィリピンは独立自主の外交政策を行っていく」
という点は本心であるように見受けられる。
私なりに解釈すると、
「誰の指図も受けず、自らの思うままの政策を行っていく。
自分に良くしてくれる相手には寄り添い、理解・尊重しない相手とは距離を置く」。
昨今における同大統領の対中国・米国への発言もこの範囲内で揺れ動いているように見える。
私自身は、今回の訪中をもってドゥテルテ大統領率いるフィリピンが"中国寄り"になったと結論づけるには時期尚早であると考えている。
同大統領の掌で転がされているのはむしろ中国のほうである可能性もある。
今後の同大統領の言動(特に同氏が発展させるというロシアとの間合いは注視したい)、米国の大統領選などを見ていきたい。
2017年、フィリピンは東南アジア諸国連合(ASEAN)の議長国を務めることになっている。
マルチ外交の場でドゥテルテ大統領がどのようなリーダーシップを取るのかは同国の今後を占う上での試金石になるに違いない。
そして直近のケーススタディとしては、南シナ海問題に関する考え方を含めて、ドゥテルテ大統領の素顔と戦略を伺う上で、本日(10月25日)から始まる同大統領の訪日プロセス、特に安倍晋三首相とのやり取りに注目してみたい。
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●NNNニュース
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●井上和彦×ケントギルバート「中国・習近平がドゥテルテ大統領に手玉に取られて赤っ恥!
2016/10/25 に公開
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●井上和彦×ケントギルバート「中国・習近平がドゥテルテ大統領に手玉に取られて赤っ恥!
2016/10/25 に公開
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【身勝手な大国・中国】
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