『
TBS系(JNN) 10/27(木) 22:16配信
http://headlines.yahoo.co.jp/videonews/jnn?a=20161027-00000124-jnn-int
中国「六中総会」閉幕、習近平氏を党の「核心」に
中国共産党の重要会議「六中総会」が閉幕し、習近平国家主席を党の「核心」と位置付けることが明らかにされました。
中国共産党の幹部300人以上が出席した、「六中総会」は、4日間で終了しました。
コミュニケでは反腐敗キャンペーンが党内の政治環境を浄化したと習近平国家主席の業績を高く評価し、「国や政党には指導する核心の存在が非常に重要だ」とした上で、「習近平同志を核心とする党中央」と明記しました。
「核心」という言葉は過去に毛沢東、トウ小平、江沢民総書記時代に使われていたもので、習氏は自らを党の「核心」とすることで、権力基盤の一層の強化に成功したことになります。
来年予定される党大会では、指導部の大幅な交代が予想されますが、今後はその人事をめぐり駆け引きが激しくなるものとみられます。(27日21:34)
』
『
Yahooニュース 2016年10月28日 11時38分配信 遠藤誉 | 東京福祉大学国際交流センター長
http://bylines.news.yahoo.co.jp/endohomare/20161028-00063802/
六中全会、集団指導体制堅持を再確認
――「核心」は特別の言葉ではない
27日、六中全会閉幕時、習近平は集団指導体制堅持を複数回強調した。
コミュニケに「習近平総書記を核心とする」という言葉があることを以て一強体制とする報道は間違っている。
胡錦濤も江沢民も核心と呼ばれた。
◆集団指導体制堅持を強調
10月27日、中国共産党第18回党大会第六次中央委員会全体会議(六中全会)が北京で閉幕した。
閉幕に際し、習近平は中共中央委員会総書記としてスピーチをおこなった。
スピーチにおいて、習近平は何度も集団指導体制を堅持することを強調した。
その多くは「民主集中制」という言葉を用いて表現したが、「集団指導体制(集体領導制)」という言葉も用いている。
これまでのコラム「六中全会、党風紀是正強化――集団指導体制撤廃の可能性は?」でも書いてきたように、「民主集中制=集団指導体制」のことである。
10月27日、CCTVでは、習近平の講話を含めて解説的に六中全会の総括が報道されたが、その中で、「民主集中制」が4回、「集団指導体制」が1回出てきたので、「集団指導体制」に関して、5回も言ったことになる。
「核心」という言葉に関しては2回使われている。
このCCTVにおける報道を文字化して報道したものを探すのは、やや困難だったが、たとえばこの報道をご覧になると、(中国語を使わない)日本人でも目で見てとれる。
後半(最後の部分)には「人民日報」の解説が加わっているので、そこは無視していただきたい。
前半は習近平が六中全会でナマで言った言葉を報道したCCTVの記録(文字化したもの)である。
そこには「民主集中制」という言葉が4回出てきており、「集体領導制(集団指導体制)」という言葉が1回、出てきている。
コミュニケで、わざわざ「民主集中制」や「集団指導体制」を堅持すると言ったとは書いてないのは、それは中華人民共和国憲法で定められていることなので、当然と思ったからだろう。
憲法を改正して「民主集中制」(集団指導体制)を撤廃するなどということになったら、中国共産党の一党支配は逆に崩壊する。
だというのに、日本のメディアは一斉に「コミュニケに“核心”という言葉があった」、だから「習近平の一極集中が行われる」「一強体制か」などと書き立てている。
まるで「集団指導体制が撤廃された」かのような書きっぷりだ。
◆江沢民も胡錦濤も「核心」と呼ばれた
中でも、27日夜9時からのNHKのニュースでは「核心というのは特別な言葉で、毛沢東とトウ小平にしか使ってない」という趣旨のことを報道していた(録音していないので、このような趣旨の報道、という意味である)。
それは全くの誤解だ。
まず江沢民に関して言うならば、「中国共産党新聞」が「江沢民を核心とした中央集団指導体制の経緯」というタイトルで、江沢民を「核心」と呼んだ経緯が詳細に書かれている。
文革後、毛沢東の遺言により華国鋒が総書記になり、すぐ辞めさせてトウ小平が全体を指揮し、胡耀邦を総書記にして改革開放を進めたが、民主的過ぎるということで失脚し、天安門事件を招いた。
いびつな形で総書記になった趙紫陽もすぐさま失脚さえられ、天安門事件のあとにトウ小平は江沢民を総書記に指名したわけだ。
このときに一極集中を図って、何とか中国共産党による一党支配体制の崩壊から免れようとしたトウ小平は、江沢民に「総書記、国家主席、軍事委員会主席」の三つのトップの座を全て与えた。
そして改めて「江沢民を核心とした集団指導体制」を強調したのだ。
「江沢民を核心とする」という表現に関しては、列挙しきれないほどのページがあるので、省略する。
つぎに「胡錦濤を核心とする集団指導体制」に関しては、たとえば、中国共産党新聞(→人民網)が「トウ小平が胡錦濤をずば抜けた核心的指導者としたのはなぜか」という趣旨のタイトルで、胡錦濤を「核心的指導者」と位置付けている。
この記事が発表されたのが、2015年4月18日であることは、注目に値する。
つまり、習近平体制になった後にも、「胡錦濤を核心とする指導体制」を強調したかったということである。
胡錦濤時代の「胡錦濤を核心とする」という表現に関して、すべて列挙するわけにはいかないが、たとえば、2003年6月の「国際先駆導報」には「第四代指導者の核心 中国国家主席胡錦濤」というのがあり、2010年4月の「新華網」は、「胡錦濤総書記を核心とした党中央は…」といった表現が入っているタイトルの記事を公開している。
また、2011年6月には「胡錦濤同志を核心とした集団指導体制」]というタイトルの記事がある。
これも探せばキリがないが、江沢民よりもやや少ないのは、胡錦濤政権時代、メディアは、前の指導者の江沢民によって完全に牛耳られていたからである。
したがって、文革や天安門事件などの特殊な過渡期以外は、「中共中央総書記」は、常に全党員(現在は8700万人強)の頂上に立っているので、常に「核心」なのである。
そういうピラミッド形式ででき上がっているヒエラルキーこそが、中国共産党の根幹だからだ。
このような中国の政治の実態を知らずに、なんとしても「習近平が集団指導体制を撤廃して一強に躍り出た!」と言いたい「権力闘争論者」に支配された日本のメディアが、「核心」という言葉を見つけて、鬼の首でも取ったように「ほらね、やっぱり(集団指導体制を撤廃して)一極集中を狙いたいんだ」と煽っているだけである。
◆日本の国益を損ね、国民をミスリードする日本メディアの罪
このような誤導をする日本のメディアは、日本の国益を損ねるだけでなく、日本国民に災いをもたらす。
なぜなら、
「中国における腐敗の根がいかに深く、いかに広範で、手が付けられないほどになっているか」そのため、
「中国の覇権にも、中国経済の成長にも限界が来る」
という現実を見逃させるからである。
腐敗による国家財産の流出は、習近平政権誕生前では、全国家予算の半分に達する時期もあったほどだ。
全世界に「チャイナ・マネーのばらまき外交」をすることによって、国際社会における中国の地位を高めようとしている中国としては、財源がなくなっていくのは大きな痛手だ。
これは、日本の外交政策に影響してくる。
また、腐敗は調査すればするほど「底なしの範囲の広さ」が明瞭になってくるばかりで、腐敗を撲滅することは、このままでは困難だというが実態である。
中央紀律検査委員会書記の王岐山(チャイナ・セブン、党内序列ナンバー6)などは
「100年かけても腐敗は撲滅できない」
と吐露していると、香港のリベラルな雑誌『動向』は書いている。
「大虎」はまだ捕えやすいが、末端の「ハエ」となると無尽蔵にいて、また互いに利害が絡んでいるため、摘発を邪魔する傾向を持つということだ。
だから「厳しく党の統治を強化する」というのが、六中全会のテーマだったのである。
日本人にとって、最も重要なのは、
「中国の腐敗が続けば、中国の経済は破綻し、それは日本経済に直接響いてくる」
ということだ。
権力闘争説は、日本人の目を、この現実から背けさせるという意味で、日本国民の利益を損ねる、実に罪作りな視点なのである。
少なからぬ日本メディアに、猛省を求めたい。
』
『
Record china配信日時:2016年10月29日(土) 16時20分
http://www.recordchina.co.jp/a153683.html
習近平氏の「1強体制」くっきり、
6中全会で党の「核心」に、
「反腐敗闘争」の継続も確認
2016年10月29日、中国共産党の第18期中央委員会第6回全体会議(6中全会)で、党の「核心」と位置付けられた習近平総書記(国家主席)。
習指導部の2期目の人事を決める来年後半の党大会に向け、「1強体制」はさらに強化された。
6中全会では今後、「反腐敗闘争」を継続する方針も確認された。
党の歴史の中で、最高指導者を「核心」と呼ぶ表現が使われたのは、
「建国の父」毛沢東主席、
「改革開放」に大きくかじを切ったトウ小平氏、
「天安門事件」後、総書記に抜てきされた江沢民氏
の3人だけだ。
中国メディアによると、6中全会で採択されたコミュニケは
「習同志を核心とする党中央が厳格な党統治を率先垂範してきた」
と強調。習指導部が進める反腐敗闘争を高く評価した。
習氏を「核心」と持ち上げる動きは、今年に入って目立ち始めた。
口火を切ったのは習氏に近いとされる天津市の代理書記らで、その後、北京市や湖北省などのトップもこれに追随した。
党内有数の政治勢力である共産主義青年団(共青団)の有力者で広東省のトップも「核心意識を強めねばならない」と間接的な表現ながら「核心」に言及。
2月中旬までに、中国本土の31の省・直轄市・自治区の多くに広がった。6中全会に向けての“地ならし”だったとみられる。
「反腐敗」をめぐっては6中全会に先立ち、中国国営中央テレビ(CCTY)では17日から、汚職摘発で失脚した高官が、カメラの前でざんげする異例の特別番組が8回にわたり放映された。
党の監督機関・中央規律検査委員会とCCTVの合作で、題して「永遠の途上」(永遠在路上)。
汚職への厳罰姿勢を強調する習氏の演説映像を随所に挟み、「反腐敗闘争」に終わりがないことをアピールする内容だった。
12年11月に発足した習指導部は「トラもハエもたたく」をスローガンに、胡錦濤政権時代の周永康・元政治局常務委員ら元最高指導部メンバーも含めて党幹部らを次々に汚職で摘発。
民間業者との癒着や役職を金で売り買いするなどの党内の風紀の乱れを厳しく批判してきた。
しかし、腐敗体質は根深く、改まる気配はない。
中国メディアによると、党規違反などで処分を受けた人数は13年に約18万2000人、14年に約23万2000人、15年に約33万6000人と増え、今年も9月までに約26万人が処分された。
中国全土にはびこる汚職は中央、地方を問わず権力が共産党に集中する構造と表裏一体。
6中全会では「党内監督条例」が採択され、中国共産党新聞網は
「権力行使の制約と監督のメカニズムを整備し、
権力は必ず責任を伴い、
権力を行使すれば必ず責任を担い、
権力を乱用すれば必ず責任を追及
される制度設計を整備する必要がある」
と、その趣旨を解説している。
』
『
現代ビジネス 2016.11.01 近藤 大介『週刊現代』編集次長
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/50105
習近平はなぜ「腐敗撲滅運動」を止められないのか?
中国のモグラ叩きは永遠に続く
■「総書記」から「核心」へ
習近平総書記が主催した年に一度の共産党の重要会議「6中全会」(中国共産党第18期中央委員会第6回全体会議)が、先週10月24日から27日まで北京で開かれた。
最終日27日の午後に採択された「公報」(コミュニケ)の発表を待っていたら、夜7時45分になって、国営新華社通信のホームページに出た。全文はA5用紙5枚分で、すぐに目を通したが、何だか肩透かしを喰らったような内容だった。
思えば習近平総書記は、今年1月12日から14日まで北京で開いた中央紀律検査委員会第6回全体会議で、「トップ7」(党中央政治局常務委員)以下、226人の幹部たちを前に、「鉄を打つには自身が硬くならねばならない!」(打鉄還需自身硬)と発破をかけた。
2月22日には、国際新華社通信、中国中央テレビ、人民日報を訪れ、「全メディアが党の色に染まれ!」と号令をかけた。
そして2月28日には、党中央弁公庁を通して、「両学一做」(党章・習近平講話を学習し、党員として合格する)運動を、8779万共産党員に向けて発布した。
こうした年初の威勢を見る限り、10月の「6中全会」を、2017年秋に迫った第19回共産党大会に向けた大きな一里塚と捉えていて、「6中全会」に向けて権力基盤の大幅強化を図っていくものと思われた。
すなわち、「6中全会」の「公報」には、相当強い表現をもって、自己の権限強化を盛り込もうとしていたはずなのだ。
「公報」には確かに、この4年間に登場した「習近平用語」が散見された。
いわゆる
「四風」(形式主義、官僚主義、享楽主義、贅沢主義)、
「民主集中制」(人民の最大利益のための権力一任)、
「党内民主」、
「実名挙報」(告発者の実名による幹部の腐敗申告)、
「四個全面」(全面的に快適な社会を建設し、全面的に改革を深化させ、全面的に法治国家を作り、全面的に党を厳しく管理する)、
「両学一做」、「供給側構造性改革」(今年から始めた5つの経済改革)
「従厳治党」(厳格に共産党を統治する)、「以上率下」(上が下に範を垂れる)、
「三会一課」(支部党員大会、支部委員会、党小グループ会、党課を開く)、
「自我批評」(自己批判)、「党内監督没有禁区」(党内の腐敗監督に禁止区域はない)、
「八項規定」(贅沢禁止令)・・・。
また、「公報」の最後の文面を、これまでの類似文書では、「習近平同志を総書記とする党中央」という表現だったのを、「習近平同志を核心とする党中央」に改めた。
「核心」は、中国では重みを持つ表現であり、共産党トップの総書記として一段階アップしたことを示している。
だが、そこまでなのである。
他に目を引いた箇所と言えば、冒頭の「中央委員197人、中央委員候補151人らが参加した」というくだりくらいだった。
■中国でいま何が起こっているのか
4年前に開かれた第18回共産党大会は、私も北京の現場で取材したのでよく覚えているが、中央委員205人、中央委員候補171人が選出されていた。
もしかしたらこの間、数人の死去があったのかもしれないが、
4年間で少なからぬ幹部を失脚させたことを物語っている。
中央委員や中央委員候補と言えば、中国共産党の党員8779万人(昨年末現在)の頂点に立つ幹部だけに、胡錦濤政権までは、よほどのことがない限り失脚はなかった。
それが習近平が総書記になって以降、「トラ(大幹部)もハエ(小役人)も同時に叩く」というスローガンのもと、次々に中央委員や中央委員候補たちを失脚させていった。
「6中全会」に先駆けて、中央紀律検査委員会が、習近平政権が始まった2013年から今年9月までの汚職取り締まり状況を発表した。
それによると、2013年に18.2万人、2014年に23.2万人、2015年に33.6万人、2016年は9月までに26万人を処分したという。
計101万人にも上るが、中央紀律検査委員会によれば、処分者の人数が年々増えているところがポイントだとしている。
それだけ汚職が減らない証拠ではないかと反論したくもなってくるが、ともかく習近平政権は、過去の政権に較べて汚職取り締まりを徹底していると強調しているのだ。
たしかに、過去4年間の習近平体制の最大の成果はと問われれば、激烈な「反腐敗運動」ということになるだろう。
この8月に北京へ行った時に、ある中国の有力メディア幹部に、「習近平総書記が反腐敗運動に躍起になる理由」について訊ねてみた。
すると、次のような答えだった。
「それには二つの側面がある。
一つは、このまま『全民腐敗』(全国民が腐敗しているという流行語)が続けば、腐敗によって中国は崩壊してしまうという危機感だ。
1].わが国には、西洋におけるキリスト教、中東におけるイスラム教のような
国民的宗教がない。
あるのはカネ崇拝だけだ。
しかも世界第2の経済大国に急成長したため、他国に較べて腐敗が蔓延しやすい土壌がある。
2].もう一つの側面は、腐敗撲滅の名を借りた権力闘争だ。
反腐敗運動は多くの国民から支持されるので、それにかこつけて政敵である江沢民一派などを倒していけば、自らの権力基盤が強まると考えた」
このメディア幹部は、「6中全会の直前に放映すべく、すごいドキュメンタリー番組を、中国中央テレビが撮影中だ」と教えてくれた。それが、10月17日から24日まで8夜連続で、夜8時から9時前まで放映された『永遠に路上に』(永遠在路上)だった。
「腐敗撲滅運動を永遠に続ける」という意味で、この4年間の習近平体制の腐敗撲滅運動の成果を世に問うた番組だった。
私は8夜連続で、中国中央テレビのインターネット生放送で観て、先週末に改めて8時間ブッ通しで、もう一回観た。
この作品は、過去に中国中央テレビが放映したドキュメンタリー番組の中でも、最高傑作の一つと言える。
とにかく、中国でいま何が起こっているのかが、これほどリアルに分かる番組はない。
獄中の幹部たちが次々にインタビューに応じ、自分が行ってきた汚職のカラクリを明かし、映像で現場を検証していく。
お時間のある方は、ぜひご覧いただきたい。
第1話の視聴アドレスは、下記の通りである(8話まですべて無料)。
http://tv.cntv.cn/video/VSET100252386413/cbc3eec6a4034849b202cfa3639a72fa
以下、8話分の内容の要旨をお伝えする。
■:第1話 人心が背を向ける
習近平総書記は、2015年の国民向け新年祝賀メッセージで、異例のスピーチをした。
「腐敗分子は発見し次第、処分する。腐敗あるところに懲罰あり、汚職あるところに粛清ありだ!」。
1945年に延安で、毛沢東主席が似たようなスピーチをした。
元全国人大(国会)環境資源委員会主任の白恩培は、10年間務めた雲南省で、自分の王国を築いた。
自家用ジェット、豪華マンション、高級車・・・賄賂漬けの日々だった。
習近平時代に入った2013年、中央第五巡視組が雲南省に入り、調査を開始。
2016年10月9日、2年の執行猶予つき死刑判決を受けた。
獄中から白恩培が語る。
「自分は幹部として、年収数十万元で生活は事足りたのに、2005年還暦の時に病を患ってから金銭欲が抑えきれなくなった。
党と人民に心からの深いお詫びを申し上げる」
2015年7月24日、習近平時代に入って初の現役の省トップとして、周本順河北省党委書記が失脚した。
周は河北省党委書記になるや、軍事施設だった16部屋、800㎡の招待所を勝手に改装し、湖南省から連れてきた二人のコック、二人のお手伝い(うち一人はペット用)、運転手、秘書に百万元(約1500万円)以上の年俸を払い、彼らと贅沢三昧の生活を始めた。
また息子を溺愛し、「息子に1千万元(約1.5億円)賄賂を渡したら、すぐに土地開発の許可が下りた」(獄中の元湖南省の不動産会社社長)。
周本順本人が獄中で述懐する。
私は赤貧の中で育ち、若い頃は腐敗した幹部に強い恨みを抱いてきた。
だが後年、自分も同じ人間に成り下がってしまったことに、強い悲哀を感じる・・・」
四川省のナンバー2(副党委書記)として13年間君臨し、発覚しただけで3979万元(約7.3億円)を着服した李春城も、獄中で泣きながら語る。
「10代の頃から共産党に憧れていて、入党して社会の進歩に役立ちたかった。
それがいつのまにか思想が変わってしまった。
党にごめんなさい、人民にごめんなさい・・・」
習近平政権の原則は、「禁止区域なし、全部をカバー、容認ゼロ」だ。
周永康、薄煕来、郭伯雄、徐才厚、令計画、蘇栄・・・どんな最高幹部だろうが容赦なく入獄させてきた。
今年7月1日の共産党創建95周年で、習近平総書記はこうスピーチした。
「執政党である共産党が直面している最大のリスクが腐敗だ。
腐敗分子は党内に隠れる場所がないと思え!」
■:第2話 上司が部下の範を垂れる
2012年11月に共産党総書記になった習近平は、翌月初めての視察先に広東省を選んだ。
ただのライトバンが、深圳の道路を走っている。
白バイの警官隊はなく、赤信号になれば停まり、何の道路規制もない。
普通の部屋に泊まり、普通のものを食べる。
これが「習近平スタイル」で、直前に発令した「八項規定」(贅沢禁止令)の範を垂れたのだ。
「あんなの一時のことだろうと思っていた・・・。
私の人生で最大の失敗は、『清』の字がなかったことだ」
谷春立・元吉林省副省長は、獄中で回想する。
毎夜毎夜、大宴会を繰り返し、数千万元の賄賂を受け取っていた谷春立のところに、2015年8月に調査のメスが入った。
現在の巴音朝魯・吉林省党委書記が語る。
「谷春立のせいで、吉林省は上から下まで賄賂漬けになっていた。
一罰百戒によって、皆が清らかになった」
毛沢東主席は、1927年に井崗山で、「三大紀律・八項注意」を発令した。
この清廉潔白な精神によって、共産党軍は全国統一を成し遂げた。
その伝統は、「八項規定」に受け継がれている。
広州市内を一望のもとに見渡せる白雲山のレストラン。
いまは庶民が楽しげにランチを楽しんでいるが、2014年6月に万慶良・広州市党委書記(市トップ)が調査を受けるまでは、一般人は近寄れない高級料亭だった。
ウエイトレスが証言する。
「万慶良は70回以上ここへ来て、水晶のシャンデリアの席で山海珍味を味わい、深夜まで麻雀、カラオケ、ダンスに興じていました。
私たちは皆、万を嫌っていました」
万本人も獄中で語る。
「すべて企業に払わせていた。
あのような生活が普通のことと思っていた・・・」
■:第3話 石を踏んで印を留める
清の時代から茅台(マオタイ)酒で有名な貴州省茅台鎮。
2012年末に習近平総書記が「八項規定」を発令するまで、茅台酒は高級贈答品の代表格だった。
それまでは生産品の3割以上を「公務用」として出荷し、残りを市場に出していた。
売り場では毎日行列ができ、一人2本までに制限していた。
ところが「八項規定」によって「公務用」は1%未満となった。
茅台酒の袁仁国会長は、
「すばらしい『八項規定』のおかげで、長期的に見て白酒産業の健全な発展につながる」
と感謝する。
「茅台腐敗」の典型が、天津市にある年商300億元(約4500億円)の国有企業、天津市医薬集団会長の張建津だった。
年代ものの茅台酒の収集が趣味で、賄賂には高級茅台酒が欠かせなかった。
獄中の張が語る。
「高級茅台酒を飲みながら、活きた伊勢えび、アワビ、ナマコ、スジアラ(高級白身魚)を食べるのが最高だった。
顧客からミラノ旅行をプレゼントされた時は、誕生日の夜、1万ユーロの食事をしたし、香港では体長1mのワニを調理させた」
張は調査を受けてからも、自社の会議室を改装して夜な夜な大宴会を繰り返していた。
巡視組が調査した55の国有企業中、91%で似たような問題が起こっていた。
中国石油化工集団の王天普社長は、1回で4万元(約60万円)の食事をしていたし、中国中投証券の竜増来会長は、3万元(約45万円)以上のゴルフ接待漬けの日々だった。
2015年1月に調査のメスが入った楊衛沢・南京市党委書記が獄中で語る。
「私はもともと下戸で、海鮮料理も好きではなかった。
でもだんだんと賄賂漬けの日々に慣れてきた・・・」
中央紀律検査委員会は、「群衆監督」と題して、2013年3月19日より、インターネットで国民が幹部の腐敗を通報できるシステムを始めた。
これが効果を発揮し、今年1月から8月までの通報は1万9302回。
このうち966件調査を行った。
同じ期間で「八項規定」違反者は2万6609人に上った。
■:第4話 常に戦場
面積は全国の60分の1ながら、全国の4分の1の石炭産出量を誇る山西省。
2014年夏、任潤厚副省長以下、「幹部7人組」が、次々にひっ捕らえられた。
省都・太原市の党委書記(市トップ)は3人連続で捕えられ、
2014年だけで省内の幹部1万5450人、副市長級幹部が45人も捕えられた。
まさに腐敗まみれの省だったのだ。
4458万元(6.9億円)を着服して懲役15年を科せられた元山西省党委常務委員の聂春玉が獄中で語る。
「山西省は、上から下までピラミッド式の腐敗構造になっていた。
例えば春節の前になると、省内の部下たちから石炭会社の社長まで、私のオフィスに挨拶に訪れ、一人2万ドルから3万ドルを置いていった。
そのため誰が賄賂をくれたかではなくて、誰がくれなかったかをチェックしていた」
山西省呂梁市離石区党委書記だった蘭剛平も、獄中で語る。
「2002年の幹部選抜試験で抜群の成績を取ったのに、10人中6人が選抜された中に、自分が入れなかった。
その時に、『金で官位を買う』という『潜規則』(不文律)を知った。
それで2006年に初めて金を使ったら、あっさり幹部に選抜された。
金を使わないと何十年経っても出世できないので、仕方なかった」
東漢と西晋は腐敗で滅んだ。
逆に文景の治と貞観の治の時は腐敗に厳格だった。
山西省と同様、江西省もひどいことになっていた。
2007年に江西省党委書記に就任した蘇栄は、江西省の腐敗大王と化した。
南昌鋼鉄(国有企業)の資金を10億元(約150億円)流出させたのを皮切りに、陶器の産地で世界的に有名な景徳鎮を私物化し、百万元(約1500万円)以上の賄賂を各地から取っていた。
妻が深圳の病院で手術した時には、江西省の幹部たちが皆、大金を抱えて飛行機で見舞いに行った。
獄中の蘇栄の弁。
「党の先輩たちに合わせる顔がない。
私が省のトップでなければ、妻も息子も金の亡者になっていなかっただろう。
私は夫として父として、家族をダメにした」
上司に渡した賄賂は、すなわち部下や企業から巻き上げたものだ。
まさに悪貨が良貨を駆逐するがごとく、中国の地方は上から下まで汚職まみれとなっていったのである。
■:第5話 紀律を前面に掲げる
天津市麻薬管理局長の馮力女史は、2015年12月、天津市司法局の幹部から呼び出しを受けた。
馮力が回想する。
「私が多額の隠し財産をこしらえていると、内部通報があったというのです。
これまで真面目に働いてきて、違法行為など一度も行ったことはないので、心が動揺しました」
結局、馮力に関する内部通報は虚偽だったことが判明した。
このため、中央紀律検査委員会が出動せずに済んだ。
2015年9月、王岐山・中央紀律検査委員会書記は、福建省を視察した際、4つの監督・紀律執行形態を指示した。
罪の軽い順から、
①自己批判、
②党規軽処分、
③重処分、
④司法機関による立件捜査
である。
その後、1年間で、
①が60%、②が28%、③が8%、④が4%
となった。
つまり、党・政府内の自浄能力が増しているということだ。
1921年7月、浙江省嘉興の南湖の紅船上で、「中国共産党綱領」が採択された。
15条からなる900字ほどの綱領だったが、「法律違反は規律違反から始まる」とするその精神は、現在の中国共産党の党規に生かされている。
腐敗は、小さいところから始まる。
2015年11月に調査を受けた呂錫文・北京市党委副書記(女性)もそうしたケースだった。
獄中の呂が語る。
「北京市西城区の金融街に国有企業が高級マンションを建てた時、西城区の責任者だった私は、『内部価格です』と言われて、格安で1軒もらった。
家族や親族も欲しがったのでそれを告げたら、計5軒くれた。
それが初めてもらった賄賂だった。
以後、出世に伴って、賄賂漬けの日々となっていった。
見ているのは上だけ、求めるのは賄賂だけ、一般庶民とはあまりにかけ離れてしまった。
ある時、貧困時代の知り合いと偶然街で会ったが、自分は別世界の人間なのだと思い無視した。
いまとなってはすべて、後悔する思い出だ」
2012年12月に「八項規定」が出されてから、2016年8月までで、紀律検査委員会は18万7409件を処理し、9万1913人を処分した。
賄賂は社会の潤滑油だという人がいるが、最後は経済発展を毀損することになる。
そして世界中の人が言うのは、
「絶対権力は絶対的な腐敗を生む」
ということだ。
■:第6話 ハエをはたき汚職を懲罰する
2014年7月、中央巡視組は、ある問題を指摘した――
基層腐敗、
蠅式腐敗、
小官巨腐、
微腐敗、
蠅貪・・・。
つまりトラ(大幹部)でなくハエ(小役人)であっても、抜き差しならない巨悪が多々存在するということだった。
西安市のある社区居民委員会主任だった於凡は、1.2億元(約18億円)も着服していた。
北京市の朝陽区孫河郷の一介の党委書記だった紀海義も、9000万元(約14億円)着服していた。
「小官巨腐」の温床地と言えば、北京市を取り囲む河北省である。
河北省紀律検査委員会書記の陳超英が語る。
「この1年で、9000件以上を立件し、6000人以上を調査してきた。
うち100万元(約1500万円)以上着服していた者が190人、1000万元(約1.5億円)以上着服していた者が31人もいた。
誰もが小役人なのに、巨悪だった」
安徽省烈山村の党委書記だった劉大偉は、村の財産1.5億元(約23億円)以上を持って村から消えたため、村は存亡の危機に陥った。
貴州省沿河県大木旁村は、2012年に豪雨に見舞われ、甚大な被害を受けたため、民政部が村に2万元(約30万円)の見舞金を出した。
だが村の党支部書記と二人の党委員で山分けしてしまい、村人には内緒にしていた。
貴州省は、「天に三日の晴れなく、地に三尺の平地なく、人に三分の銀なし」と言われる中国最貧困地域である。
同省の陳敏爾党委書記は、省内に「民生監督組」と呼ばれる民間による監督組織を1487個作った。
調査した地域の3分の2で、大木旁村のようなケースが見つかっている。
■:第7話 天網が逃亡を追いかける
2014年12月22日、それまで2年半にわたってアメリカに逃亡していた元遼寧省鳳城市党委書記の王強国が帰国した。
過去十数年で初めて、外国から戻ってきた腐敗犯罪容疑者だった。
2012年4月24日火曜日の午後、丹東で省の会議があったが、王強国は現れず、妻とともに瀋陽桃仙空港にいた。
獄中の王が語る。
「アメリカへ逃げたけれども、身を隠して不安で仕方なかった。
病院へも行けない、交通機関にも乗れない。
ホテルへも泊まれない。外へ出れば狙われると思い、借りたアパートにずっと隠れていた。
何ヵ月か経って、ボストンに留学中の娘に電話した。
娘から『党の幹部なのに、金に困ることはなかったでしょう?』と質され、言葉に詰まってしまった。
その後、バスを乗り継いでシアトルからロスに移った。
人に見つからないようにと希望していたが、それは絶望の旅だった・・・」
マイケル・チェン(程慕陽)は、バンクーバーで不動産王となり、娘はカナダ青年自由党の支部主席となった。
2015年4月22日、中国当局は「紅色指名手配百人リスト」を世界に向けて発表した。
仏リヨンにあるインターポール本部は7種類の指名手配を出しているが、紅色は最も重要な指名手配だ。
百年の歴史を誇るインターポールでも、百人もの指名手配が同時に出したのは初めてだった。
マイケル・チェンは、多額の国有資産を持ち逃げした容疑で、「百名紅色指名手配」の69番目に名前が出ていた。
この指名手配が出てすぐに、マイケル・チェンはバンクーバーから姿を消し、会社も潰れた。
「外逃貪官」は、1990年代末から本格化した。
1999年に福建省の脱税王・頼昌星が逃亡し、2001年には中国銀行開平支店長だった余振東が逃亡した。
2015年4月25日、「百人リスト」の中で戴学民が、第一号として帰国した。
5月9日には、同じく李華波がシンガポールから戻ってきた。
江西省の小役人だった李は、勤めていた地方自治体の収入の4分の1にあたる9400万元(約15億円)を着服して、中国と犯人引き渡し条約のないシンガポールに逃亡した。
獄中の李が語る。
「弁護士は、シンガポールは中国と法律が違うから大丈夫だと言ったが、いきなり移民書類偽造罪で捕まり、ロクなことはなかった。
故郷の父親が死んだことも知らなかった」
2014年、中央紀律検査委員会、最高法院、最高検察院、外交部、公安部、国家安全部、司法部、人民銀行の8機関が集まり、中央反腐敗協調小グループを作って、国際追逃追脏工作協調規制を始めた。
この小グループが翌2015年3月27日に定めたのが、「天網行動」(天に網をかけて国外逃亡犯を捕まえるアクション)だった。
国内は腐敗防止の第一の戦場、国外は第二の戦場だ。
「百人リスト」の中で、今年8月までに33人が帰国している。
いまや海外は法外ではなく、世界のどこにも「避罪天堂」はない。
(注:ということは2/3は今も逃亡を続けていることになる、避罪天堂は世界中にあるということにもなる)
■:第8話 腐敗とその根源を同時に断つ
2016年7月1日、共産党創建95周年のスピーチで、習近平総書記は「初心を忘れることなく、継続して前進する」(不忘初心、継続前進)を10回も強調した。
1949年に北平(北京)に入った毛沢東は、「今日は終わりでなく道は続いている」と述べた。われわれは建国以来の歴史を教訓として、前へ進んで行くべきだ。
重慶市人大常務委員会副主任(市会副議長)だった譚栖偉が、獄中で述懐する。
「私は重慶郊外の赤貧の山林地区で育った。
地元の官吏だったが、43歳で重慶市南岸区の責任者に抜擢され、人生が狂った。
それまでは人に会う時は出かけていたが、以後は誰もが頭を下げてやって来るようになった。
1998年に南岸区に南浜路の目抜き通りを整備した時は、建設業者を自分で決めてしこたま賄賂をもらい、路上の広告までも広告代の半額をピンハネした。
南岸区は私の思うがままで、私とのコネはクレジットカードのようなものだった。
そのくせ、会議のたびに清廉潔白に努める講話を述べていたのだから、いま思えば笑ってしまう。
捕まる少し前、故郷の母のところへ行ったら、母の家にも贈答品が山積みされていた。
古参の共産党員である母は、『こんな狭い家にモノが多すぎて暮らせない』と怒り、私をひっぱたいた。
党と人民と父母にお詫びしたい」
権力自体に善悪はなく、ただの道具である。
その道具を善にずるか悪にするかは、それを使用する人間次第だ。
「権」の漢字の語源は、「杖を持った人が鳥のようにさえずる」という意味で、他人に影響を与える人間を象形化している。
2014年12月10日、官庁の中の官庁である国家発展改革委員会の副主任だった劉鉄男の裁判が行われた。
そこで無期懲役刑を受け、賄賂として受け取った3558万元(約5.5億円)を没収された。
獄中の劉が、泣きながら語る。
「国家プロジェクトを批准するかしないか、先にするか後にするかは、すべて私の胸先三寸だった。
それは息子の劉徳成の会社への賄賂の多寡で決めた。
出来の悪い息子で、私が助けてやるしかなかった・・・」
劉に賄賂を贈った化学工業会社社長の邱が、獄中で明かす。
「劉の息子に825万元(約1.3億円)の賄賂を渡したら、すんなり発展改革委員会の批准が下りた。
誰もが同じ手を使っていたようだった」
発展改革委員会は、2014年だけで11人も失脚し、うち6人が千万元(約1.5億円)以上の賄賂を受け取っていた。
魏鵬遠・石炭局副局長などは、自宅に2億元(約36億円)以上の現金を隠していた。
国有企業の経営者たちも、賄賂漬けになっていた。
武漢鉄鋼集団会長だった鄧崎琳は、2009年に本社内に、自分専用の豪華な屋内プールを作らせた。
獄中の鄧が語る。
「一介の工員として入社してから40年、社長になって人間が変わった。
企業管理、政策決定、主要人事など、自分の鶴の一声で決まるので、自分が誰なのか分からなくなっていった。
会社のすべてが自分の所有物のように思えた」
2013年9月1日、国有資産監督管理委員会の蒋潔敏主任(大臣級)が失脚した。
中国石油天然ガスのトップとして、9つの油田開発権に関してだけで、30億4696万元(約470億円)の賄賂を受け取っていて、
懲役16年を言い渡された。
獄中の蒋が語る。
「私が国家と人民に与えた損失は計り知れない。
私が行ったどんな決定にも、部下たちが口を差し挟むことはなかった。
一人がすべての権限を握っていることが、ほとんどすべての問題の根源なのだ」
■永遠に続くモグラ叩き
以上である。
本当に意味深な8回シリーズのドキュメンタリー番組だった。
「どうせ習近平政権の宣伝番組だろう」と思われるかもしれない。
それは確かにそうである。
だがその反面、単純な宣伝番組でもない。
前出の中国のメディア幹部によると、一部の共産党幹部は、
「共産党は腐敗政党だというイメージが定着する」
と言って、この番組の放映に反対したという。
また、この番組を見ると、「習近平総書記が中国で独裁的な権力を手にした」などとは、到底言えないことが分かる。
習近平政権は日々、日本の25倍もある国土でモグラ叩きをやっているようなもので、叩いても叩いても腐敗分子や政敵はなくならないのである。
私はこの番組の最後で、習近平総書記の最大の政敵である江沢民派のかつての大番頭、蒋潔敏が獄中で独白するシーンを見ていて、これは習近平総書記に対する警告ではないかとすら感じた。
「一人がすべての権限を握っていることが、ほとんどすべての問題の根源だ」
と、3回も繰り返すのだ。
番組では「監視と監督のない権力は必ず腐敗する」とも説いている。
習近平政権には、野党の追及もマスコミの監視も国民の審判(民主選挙)もない。
思えば、いまから2000年以上も前の漢の時代に、司馬遷は『史記』を書いた際、最悪の上司だった武帝を誉め殺しした(本紀第12)。
この番組も、習近平総書記に対する誉め殺し番組と言えないこともないのだ。
いずれにしても、中国において権力掌握は大変困難なことであると、改めて痛感した。
』
『
ダイヤモンドオンライン 2016年11月8日 加藤嘉一
http://diamond.jp/articles/-/107035
天安門直後と似た情勢!?習近平自ら権力を集中させる理由
■10月下旬に開催された六中全会
“反腐敗闘争”を内外に知らしめる!?
10月24~27日、中国共産党の第18期中央委員会第6回総会(六中全会、以下“会議”)が北京で開催された。
約1年後の来秋に党の第19回全国代表大会を開催予定というタイミング。
共産党指導部として、この時期に何を求め、謳い、打ち出していくのかを占う上で、注視するに値する一つの政治会議であった。
197人の中央委員と151人の中央委員候補などが出席した会議では《新たな情勢下における党内政治生活に関する若干の準則》(以下“準則”)、《中国共産党党内監督条例》(以下“条例”)《党の第十九回全国人民代表大会開催に関する決議》(以下“決議”)という三つの公式文書が採択された。
決議は2017年下半期に党の第19回大会を北京で開催する旨を決定した。
会議はこれまで中央候補委員だった趙憲庚・中国工程院副院長と咸輝・寧夏回族自治区副書記の2人を中央委員に昇格し、中央政治局がすでに決定していた、王眠・遼寧省元書記(元中央委員)、呂錫文・北京市元副書記、範長秘・蘭州軍区元副政治委員、牛志忠・武装警察部隊元副司令員(以上、元中央委員候補)に対する党籍剥奪の処分を確認した。
処分を確認された4人のうち、王と呂に対しては中央規律検査委員会が、範と牛に対しては中央軍事委員会が党紀律違反に関する審査報告を作成し、中央政治局の决定、そして今回の会議における確認につながった。
今期共産党指導部を率いる習近平総書記が、王岐山中央規律検査委員会書記を右腕に大々的に展開してきた“反腐敗闘争”が、党・軍を跨いで着実に進んでいることを、このタイミングで内外に知らしめようとする政治的意図を感じさせた。
私は会議が北京で開催されていた期間、遼寧省と浙江省からその模様を観察していたが、三つの文書のうち、準則と条例はいずれも共産党の権威を誇示し、共産党体制内部における団結と安定を強化しようという“反腐敗闘争”の範疇を超えるものではなかった。
■党員・幹部に対して
模範的な政治生活を示せと要求
会議が採択した六中全会のコミュニケは、党内における幹部、特に高級幹部に対して厳しく自らを律し、決して党紀律に違反する行動をしてはならないことを要求すると同時に、党中央の権威を断固として擁護し、党中央による集中的・統一的な領導の堅持を呼び掛けた。』
次の段落などは現政権の色を鮮明に出しているように聴こえる。
「一つの国家、一つの政党にとって、領導の核心は極めて重要である。
全党はその思想、政治、行動において自覚的に党中央と高度な一致を保持しなければならない。
党の各レベル組織、党員全体、特に高級幹部は、党中央、党の理論・路線・方針、党中央による政策決定を右に倣えで見なければならない。
そして、党中央による提唱には断固として呼応し、党中央による决定を断固として執行し、党中央が禁止する事柄は断固として行ってはならない」
“高級幹部”に対する強調と要求は会議を象徴するメルクマールのように映った。
コミュニケが記す次の段落はいま現在、党指導部が何を考えているかをチェックするうえで参考になるだろう。
「党内における政治生活の強化と規範化の重点対象は各級の領導機関と領導幹部であり、
肝心なのは高級幹部、特に中央委員会、中央政治局、中央政治局常務委員会を構成する人員である」
コミュニケに記されている「党内監督に聖域はない。例外もない」の部分とも呼応しているように見えるこの部分であるが、興味深いのは、高い位にある幹部に対し、"特に"中央委員会、中央政治局、中央政治局常務委員会と特定する形で、厳しく自らを律し、断じて腐敗に手を染めず、自らよりも低い位にいる党員・幹部に対して模範的な政治生活を示せと要求している点である。
■状況次第では常務委員にまで手を伸ばす
これが何を意味しているのか。
私は三つのインプリケーションを見出す。
★.一つ目に、“反腐敗闘争”の主体機関、王岐山率いる中央規律検査委員会によって立件・捜査される、即ち政治的に失脚する(中国語で“落馬”)対象には政治局委員、そのなかの常務委員(トップセブン)も含まれるということを示している。
党内で極めて重要な地位にあり、特に公安や司法の分野で権力を誇っていた周永康政治局元常務委員が失脚したように、今後も引き続き、状況次第では常務委員(経験者含む)にまで手を伸ばすこともあり得るということだ。
もちろん、よほどのことがない限り、習近平総書記が対象になることはないだろうが、私の感覚では、それ以外の6人は“反腐敗闘争”の対象を逃れられないであろう(同闘争を習総書記と二人三脚で展開してきた王岐山書記も原則考えにくい)。
★.二つ目に、習近平・王岐山両書記が、高級幹部の腐敗、特に中央政治局をはじめとする政権中枢で起こる権力闘争に絡むような腐敗や混乱こそが、共産党の安定や権威を脅かし、それが引き金となって国家社会が不安定な状況に陥る政治リスクを内包すると考えていることである。
両書記が、父親の代が革命世代で、共産党だからこそ天下を獲り、国を造ったという認識を強く持つ“紅二代”だからこそ抱く危機感であると言えよう。
★.三つ目に、高級幹部から自らを律し、厳しく要求することで、非高級幹部、すなわち低中級幹部らを宥め、激励していく目的があるように思われる。
本連載でも扱ってきたが、“反腐敗闘争”の副作用・後遺症として、中央・地方における低中級幹部らが、「明日は我が身」と取り調べられるのを恐れるあまりに何もしなくなる事なかれ主義が蔓延し、
その過程で経済成長や構造改革に関わる政策やプロジェクトが進まなくなり、経済情勢全体にネガティブな影響をもたらし、結果的に共産党の正統性に傷がつくというシナリオは共産党指導部を悩ませてきた(過去記事参照:中国共産党の反腐敗闘争が経済改革にもたらす逆効果)。
■各地の幹部に「改革派たれ!」と
激を飛ばしてきた習近平や李克強
そんな危機意識の表れとして、習近平や李克強といった国家指導者は中央における会議や地方視察などの場面を利用して、各地の幹部に対し「改革派たれ!」と激を飛ばしてきた。
何もしない、自ら率先して動かない幹部も捜査・処分の対象になり得ると警告してきた。
私が“二重の恐怖政治”と呼んできた構造がここに横たわっている(過去記事参照:“二重の恐怖”に怯える中国官僚から“改革派”は生まれるか?)。
この流れを受けて、コミュニケも、各地の幹部に対し次のように檄を飛ばし、圧力をかけている。
「事実に基づいて党に対して状況を反映、報告せよ。
表裏のある“両面人”を演じることに反対せよ」
「指導者に関する宣伝は実質に即したものであるべきだ。
ごますりは禁物だ」
「人的・物的資源を浪費する、業績を残すための上辺だけの全ての工程・行為に対して、厳しい問責、責任追及を行い、紀律と法律に依って処理をする」
六中全会閉幕後、全国政治協商会議(主席は序列4位の兪正声)が王岐山書記を招待し、報告会を主催した。
六中全会の精神を全国各機関に普及させるための手配であると思われる。
この席で、王書記は全会を振り返りつつ、次のように言及した。
「信任は監督に取って代わることはできないという理念を、党内政治生活と党内監督の中に貫徹させなければならない」
この一節は、往々にして人間関係を含めた人為的要素によって内部の秩序や慣習が左右されやすい共産党体制であるが、それを打ち破り、監督を徹底化、常態化、制度化させることによってのみ、その体制は保たれていくという習・王の潜在意識を裏付けているように私には映った。
■習近平総書記自ら己を“核心”に
一層の権力集中は必至
「習近平同志を核心とする党中央」――。
この言葉以上に六中全会の“成果”を象徴している要素はないように私には思える。
2003~2012年の胡錦濤時代、そして党の第18回大会が行われた2012年秋からこれまでの4年間、政治の表舞台においては封印されていた概念こそが“核心”というものである。
“核心”とは1989年に勃発した天安門事件後、当時、中央政治において実績も知名度もなかった江沢民が、時の最高権力者・鄧小平に指名され、総書記の座に就く過程において台頭してきた一種の称号である。
天安門事件は共産党指導部に党内の団結や国家の安定という観点から世紀の危機感を与えた。
国際社会における孤立も懸念された。
そんな中、共産党の安定や権威を担保するためには“核心”を打ち出し、権力が分散し、求心力が低下するのを防ぐ必要がある、さもなければ、内憂外患の局面は乗り切れない。
鄧小平はそんな危機感を抱き、自らが指名した無名の江沢民に箔をつけようとしたのだろう。
毛沢東、鄧小平という最高権力者に続いて、“核心”としての称号的地位を得た江沢民は、1989年6月から2002年11月、13年半にわたって中共中央委員会総書記を務めた。
江沢民の後を継いだ胡錦濤前総書記もまた鄧小平によって後を託された国家指導者であった。
異なっていたのは、胡錦濤には“核心”という言葉は使われなかった。
その理由は定かではない。
胡錦濤が2002年に総書記に就任する際に鄧小平がすでに逝去していたからなのか。
前任者である江沢民が後任者に“核心”を使わせることに後ろ向きの姿勢を持っていたのか。
胡錦濤本人が拒絶したのか。
あるいは鄧小平が逝去する前に、胡錦濤が総書記に就く際には“核心”を使うべきでないという“遺言”を残したのか。
少なくとも私には真相を知る術がない。
なにはともあれ、六中全会を通じて“核心”が解禁された。
鄧小平はもういない。
習近平総書記自ら、己を“核心”へと位置づけたのである。
これによって、共産党指導部というよりは、体制内部における習近平総書記の権力強化、および体制内部において習近平により一層権力が集中するのは必至と言える。
■“核心”にふさわしい地位と権威を
公式に理論化するための手続き
党機関紙《人民日報》が2016年10月28日付の社論《堅定不移推進全面従厳治党》において次のように指摘しているのは解読に値する。
「習近平総書記は新しい偉大な闘争の実践のなかですでに党中央、全党の核心になっていた。
今回の全会が正式に“習近平同志を核心とする党中央”を提起したことは、全党・全軍・全国各民族・人民の共通の願いを反映しており、党と国家の根本的な利益がそこにあり、党による領導を堅持・強化していくための根本的な保証である。
それはまた、多くの新しい歴史的特徴を持つ偉大な闘争を行っていくことであり、中国の特色ある社会主義という偉大な事業を堅持・発展させていくための切迫した需要なのである」
この段落で私が注目したのは前半部分の「すでに~なっていた」と「今回の全会が正式に~」である。
これは、習近平が総書記に就任して以来約4年の月日が経ったが、この期間を通じて、習総書記が“核心”と呼ぶにふさわしい地位と権威を築いてきたこと、今回の全会はそれを公式に理論化するための手続きであったことを物語っている。
実際に、《人民日報》の同社論が「党中央、全党には一つの核心がなくてはならない」と主張しているように、近年の党中央内部・周辺の流れが“核心”に集約されていったということなのだろう。
習近平本人が“核心”を念頭に総書記に就任したのか、就任してからあらゆる政策を立案・実行する過程で“核心”が現実味を帯びてきたのかは定かではない。
私自身は後者に与するが、同時に思うことは、習近平総書記率いる指導部は“核心”を持ち出したくて封印を解いたというよりは、そうせざるを得なくなってそれを解禁したという側面もあるのではないかという点である。
■内憂外患で天安門事件直後に似た情勢
党内体制の引き締めが狙い?
習近平総書記からすれば、現状は内憂外患に覆われた天安門事件直後の情勢にある意味似通っているということなのかもしれない。
先行きが不透明な経済情勢や構造改革、
そしてそんな情勢と改革に負のインパクトを与えかねない、というよりも党指導部自身が実際に与えてしまっていると自覚している“反腐敗闘争”、
それに付随する幹部や役人の事なかれ主義、
高級幹部間、部署や領域を越えた権力闘争……、
朝鮮半島、東シナ海、南シナ海、台湾海峡…。
新疆ウイグル自治区問題とも絡んでくる“イスラム国”をはじめとしたテロリズムなどに対しても、昨今の党指導部はかつてないほどの警戒心を抱いているように見える。
この状況を打開していくためには、党内部の体制をいま一度きつく締め上げ、権力集中を習近平に一本化させることで、求心力を維持することが前提となる、さもなければ、党内がバラバラになり、その過程で経済政策が不安定化し、社会不安が蔓延し、結果的に…という思考回路で現状を視て、今後を睨んでいるのではないか。
だからこそ、内外で注目される党の第19回大会を1年後に控えたこのタイミングで、“核心”、そして党内政治生活や党内監督を厳しく要求する公式文書を採択したのではなかろうか。
習近平総書記の党の第19回大会に賭ける意気込みがそれだけ強く、深いことの前触れであるように、私には思われる。
』
『
●中国 崩壊 これが中国の実態。赤の暴君に反旗を翻す地方政府!忠誠を強要するも完膚なきまでにシカトされ権威主義が砕け散る
2016/11/04 に公開
』
『
●青山繫晴 中国は妄想の国となっている。それが南シナ海の根本的な要因だ
2016/10/24 に公開
』
『
●青山繁晴 【中国崩壊】中国共産党の実態…〇〇のリスクが増す習近平!! with石平
2016/10/27 に公開
』
【身勝手な大国・中国】
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