習近平は腐敗撲滅運動をやめられなくなってしまっている。
小組なるものを作って、あらゆる権力を自分のものにしようとし、政敵は腐敗撲滅運動で叩き潰してきた。
しかし、経済・外交は失敗のほうが大きく、経済は低落の度を深め、不動産は完全にバブル化している。
もはや為すべき手段が見当たらないというところまできている。
お手上げで時の解決にゆだねざるを得なくなってきている。
それに加えて外交は失敗続きである。
ドウテルテ大統領をお金で懐柔したのはいいが、トランプ次期大統領は彼を招待するといい、彼はそれに応えてアメリカと喧嘩する必要はなくなった、ともいっている。
韓国はサード配備を俎上にあげ、ベトナムはミサイルを設置した。
インドネシアは中国漁船の爆破を敢行し、モンゴルとはダライラマ問題でぎくしゃくしはじめた。
マレーシアとタイは何とか親中派にとりこんでいるが、これもアメリカの動き次第ではどうなるかはわからない。
台湾とアメリカは電話会談を行い、1月にでも会談がもたれるという。
日本は相変わらず、中国との対決姿勢を崩していない。
習近平としてはわずかに腐敗撲滅運動を継続することによってのみ、自己の権威化をはかり、権力把握という幻想に浸れることになる。
もし、この動きをやめたら最後、恨みを買い続けている習近平は即座に抹殺されてしまう。
習近平が生き残れる唯一の方法は、果てしなく将来に向かってこの運動を進めていくしかなくなってきている。
やめたくてもやめられない状況に自ら陥ってしまっている、ということである。
やめらた即、死が待っている、というわけである。
腐敗撲滅運動という恐怖で支配するしか、習近平自身の身が保全されない
という形になってしまっている。
つまり、戦い続ける永久運動になってしまったのがこの腐敗撲滅である。
この運動が行われているかぎり、経済は零落の道をたどる。
役人は恐れで何もできなくなる。
いまは構造改革が求められるときだが、何か特別なことをして目立てば摘発の対象にされかねない。
何もせず、目立たず、これまでのままが、もっとも有効な生き方になる。
経済零落をおしとどめる施策は何ら行われず、逆に以前と同じ方式だ採用されることでさらに悪化の道をたどる。
バブルは放置され、過剰在庫は増え続け、高速鉄道は造るだけのために造られ、赤字を垂れ流していく。
環境汚染は更に進行し、都市はスモッグの下に沈む。
永久運動になった腐敗撲滅は同時に経済の低迷に拍車をかける。
もうここからは成長の気配は見えてこない。
誰も中国の未来に語れなくなってきている。
責任をとろうとはしなくなっている。
すべてを習近平に押し付け、「核心」という甘い言葉を与えてヨイショして、最後の皇帝に押し上げている。
3年で1%ずつおちていくというGDPは2020年で5%台に入り、2035年には0%になるという。
もちろん、そこまで習近平は政権を保つわけではない。
落ち続けるGDP、永久運動を始めた腐敗撲滅運動という名の権力闘争、資金は海外に規制の目をぬって出ていく。
習近平にはあと6年残っている。
最後の共産党皇帝として命脈を保てるのか、歴史の手はどんな技をもっているのか。
『
Wedge 岡崎研究所 2016年11月24日
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/8262
習近平が戦う二つの敵の正体
鄧小平以来最強の指導者と言われる習近平だが、広大で多様な中国を変えるのは容易ではなく、特に手強いのが地方政府だ、と10月22日付の英エコノミスト誌が言っています。要旨は、以下の通りです。
指導部人事が発表される5年毎の党大会を来年に控え、習近平は二つの敵と戦っている。
★.一つは北京にいる政敵、
★.もう一つは、独自に動きたい地方政府だ。
時には、習が重要と宣言した政策でさえ実行されない。
習は、今年の経済の重点課題は鉄鋼と石炭産業の縮小だと言明したと言われ、実際、政府は2月に5年間で鉄鋼1~1.5億トン、石炭5億トンの減産を発表した。
ところが、2月以降も鉄鋼生産量は前年同月を上回り、結局、7月時点で計画は半分しか達成されなかった。
地方企業は政府の指令よりも市場を重視しがちであり、地方政府は鉄鋼産業がもたらす税収に関心があるからだ。
それに、工場が閉鎖になれば、地方銀行は多額の貸付が回収不能になり、労働者は仕事や住む家を失い、社会不安が生じかねない。
国民が強く求める食品安全も、政府の改善の約束にも拘らず、進展していない。
地方当局には改善の能力や意思、あるいは規制を行う財政的インセンティブがないからだ。
5月に発表された土壌汚染除去の全国計画も、地方が実行するのは無理だと北京の当局者が内輪で認めている。
この問題には、党の自業自得という面もある。
1970年代後半以降、北京政府は意図的に意思決定を地方政府に大幅に委譲し、大規模プロジェクトは地方が始めるよう促した。
おかげで経済の機動性と適応力は高まったが、反面、トップダウンの意思決定が難しくなり、改革の足を引っ張る「細分化された独裁制」が出現した。
その上、地方では、政府の意思決定は、社会の安定が脅かされない限り、次第に政治よりも市場原理に左右されるようになってきた。
一方、多くの国営企業が崩壊し、民間企業が興隆する中、かつて全能だった党下部組織が弱体化した。
だからこそ習は政治に主導権を戻したい。
反腐敗運動も、習が自らの支配を固め、党の規律を強化することが目的で、何万もの役人が汚職で罰せられた。
また、習は地方役人に説明責任の観念も植え付けようとしている。
最新の五ヵ年計画では、環境破壊を引き起こした役人が初めて責任を問われることになった。
今、政府は、裁判所の判決を無視し、あるいは党の政策を守らない役人は罰すると言い始めている。
しかし忠誠心は法律で確保できない。
習は、公然と反対はしないが行動もしない、という地方エリートの「ソフトな抵抗」に遭っていると言われる。
来年の党大会を準備する六中全会は、少なくとも中南海での習の立場を強化してくれる可能性はある。
党大会後は7人の党政治局常務委員の内5人、その他の政治局員18人の内6人が引退する予定だ。党大会は、習が自分の味方を政治局に入れるチャンスだ。
その中の誰が習の後継者になるのか、それについても様々な臆測がなされるだろう。
一部の専門家は、習の念頭には後継者の事はなく、この党大会軽視の姿勢は習の自信の表れだと見る。
しかし、あるいは習はまだ後継者の育成を始めたくないのかもしれない。
だとすると、習は中央でも省レベルでもまだ自らの支配力に不安を抱いており、従って、彼の「中国の夢」は他の誰にも託せないということかもしれない。
出 典:Economist ‘Chairman of everything, master of nothing’ (October 22, 2016)
http://www.economist.com/news/china/21709005-changing-china-tough-even-man-xis-powers-xi-jinping-strongman-does-not
マスコミの通例として、自分の論点を際立たせるために、それに合った事実だけを集めている嫌いはありますが、一面の真理を突いている社説です。
確かに鉄鋼業をとっても大企業同士の合併を進めているくらいで、結果を出すのに苦戦しています。
しかし、習近平の目下の最大の関心は、自分の意向に沿って動く党に再建することにあります。
共産党は、伝統的に、まず上を変え、それを下に及ぼします。
習は、まだ中央委員レベル(大臣・省長クラス)の掌握にとどまっています。
同時に、地方の書記、省長の責任制を強化しています。
ここに地方の権力を集中させて地方を統治しようとしています。
中央の意向に沿わなければ、ここを替えれば良いわけです。
そのためには、権力が必要です。
習は、その力を持つ必要があります。
また、何度も指摘したように、反腐敗は「党建設」と呼ばれ、「法治」と並んでルール通りに動く党を作る努力の一環でもあります。
これは着々と進め、放棄する気配は一切ありません。
それでも地方の末端まで党中央の意向通りに動くようにすることは至難の業です。
だから、権力をさらに集中させ、じっくり時間をかけざるを得ません。
習は、一族郎党の身の安全のためにも権力の完全掌握に成功しないと辞められませんが、トップに権力が集中しないと、そういう効率的な党になれないという事情もあります。
これは、習近平政権を長期に続ける大義名分にもなり得ます。
』
『
JB Preess 2016.11.29(火) 阿部 純一
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/48505
共産党の「核心」になっても続く習近平の権力闘争
“誰も挑戦できない権威の象徴”ではなくなった核心の座
習近平政権は来年秋の第19回党大会に向け、内政・外交ともに正念場を迎える。
内政では10月に開かれた「6中全会」(中国共産党第18期中央委員会第6回全体会議)で党における「領導核心」の座を手に入れ、権力基盤をさらに固めた。
とはいえ、党大会で自分の裁量による指導体制を作り上げるために、やるべきことはまだ多い。
外交では、米国で誕生するトランプ新政権への対応が重要な課題となる。
習近平政権にとっては、トランプ新政権の外交・安全保障政策がどう変化するかを見極め、トランプ新政権とどう折り合いをつけていくかが問われることになる。
(参考・関連記事)「習近平がどうしても『核心』の座が欲しかった理由」
■トランプ新政権への期待
米大統領選挙でのトランプ候補の当選は、中国でも予想外の事態であった。
しかし、同候補の掲げた「アメリカ・ファースト」に基づくTPP(環太平洋パートナーシップ協定)の否定や、同盟関係の見直しといった政策が中国にとって好ましい部分があることは確かであり、トランプ政権の誕生は中国で好意的に受け止められている。
たしかに、TPPや「アジア・リバランス」といったオバマ政権の政策は、中国の台頭を経済と軍事の両面から封じ込めようとするものだった。
それを否定するトランプへの期待が中国で湧き上がったとしても不思議ではない。
しかし、トランプ新政権が中国の都合のいいように動く保証はない。
オバマ政権の政策の逆を目指すにしても、トランプ政権がオバマ政権よりもむしろ中国に厳しい対応を取る可能性は排除できないからだ。
習近平政権が求心力を高めるために「愛国主義」というナショナリズムを称揚しているように、トランプ新政権も「米国を再び偉大な国にしよう」というナショナリズムを表面に押し出してきた。
トランプのナショナリズムが「孤立主義」とイコールであるとは限らないのである。
トランプ政権の対中外交がどのようなものになるかは、時間が経つにつれて明らかになっていくだろう。
しかし、それがどのようなものであれ、習近平政権は、オバマ政権に提示してきた、米中が対等の立場に立つ「新型大国関係」の構築を目指すことになろう。
■主席制の復活を画策か?
習近平政権にとって、むしろ問題なのは内政である。
習近平は10月の6中全会で、党における「核心」の座を手に入れ、1980年に鄧小平が主導して作られた「党内政治生活に関する若干の準則」(以下「準則」)を大きく書き換えた。
1980年の「準則」のキーワードは「集団指導(集体領導)」であった。
毛沢東の個人独裁がもたらした「文化大革命」の過ちを繰り返すことのないよう、「集団指導体制」が謳われたのである。
これに沿って、翌1982年に開催された第12回党大会では、「党中央委員会主席」が廃止され「党中央委員会総書記」となった。
中国では1949年の建国以来、「党中央委員会主席」が党における最終的な意思決定者だった。
毛沢東は、まさにその役割を担ってきた。
しかし、「党中央委員会総書記」は党中央委員会の最高指導者と位置づけられるものの、意思決定は党中央政治局常務委員会における多数決に委ねられる。
主席制を廃止することによって、党中央で毛沢東のような独裁を再現できないようにする工夫であった。
習近平は、10月の6中全会で新たに採択された「新情勢下の党内政治生活に関する若干の準則」で、この個人独裁回避のための「集団指導」を大きくトーンダウンさせてしまった。
より正確に言えば、1980年の準則では独立した項目として「集団指導」を取り上げていたのが、新しい準則では「集団指導」を「民主集中制」を構成する要素の1つとしている。
この書き換えは、「領導核心」を「集団指導」よりも優先したと受け止めることもできる。
それをもって、習近平が主席制の復活を画策していることは十分に考えられる。
領導核心に位置づけられた以上、自分が党における最終意思決定者であることの制度的保証として、総書記ではなく主席の呼称こそがふさわしいと判断しても不思議ではないからである。
■江沢民派を一掃したい習近平
しかし、主席制の復活には当然のことながら党内に強い抵抗が予想される。
おそらく、そこまで露骨な権力の集中を進めることはないと考えるのが自然である。
党内で権威を増した習近平が目指すものは、他にあるはずだ。
それは第1に、個人の権限強化による「内規の改定」であろう。
内外の報道によると、「七上八下」という内規(いわゆる「潜規則」)、すなわち党中央政治局常務委員に選任される人物は「67歳以下ならOKだが68歳はダメ」という原則を見直すべきだとの声があがっているという。
たとえ68歳を超えていてもその人物が余人を持って代えがたい能力があるなら、任務を継続できるという論理である。
その「余人を持って代えがたい能力」を持つ人物とは、習近平のもとで反腐敗に辣腕を揮う王岐山である。
もう1つ目指すものがあるとすれば、党中央政治局常務委員会の人事刷新であろう。
胡錦濤時代は9名の常務委員がいたが、習近平時代になって7名に減った。
理由は明示されていないが、裏で画策したのが「第3世代の核心」であった江沢民だとすれば、江沢民派のための多数派工作で人事を動かした可能性が高い。
胡錦濤時代、常務委員の中で純然たる「非江沢民派」は、胡錦濤総書記と温家宝総理だけだった。
習近平時代にしても、江沢民の息のかかっていないのは共青団出身の李克強総理だけである。
次期党大会で2期目を迎える習近平にとって都合のいい常務委員会人事とは何かといえば、まずは江沢民派を一掃することであり、反腐敗で辣腕を揮った王岐山の留任であろう。
王岐山の留任が実現すれば、「次の次」である2022年の第20回党大会を69歳で迎える習近平自身の「3期続投」の可能性も出てくる。
習近平は3期続投を現実のものとするために、かつて鄧小平が1982年に現行憲法を決めたように国家主席の「2期10年」という憲法の定めを書き換えるかもしれない。
■後継者を決めなければ求心力を保てる
もし「3期続投」を目指すとすれば、習近平はさらなる権威確立のために、“次期常務委員会で後継者を指名しない”ということも考えられる。
胡錦濤や習近平は、ともに総書記の後継者として国家副主席と中央党校の校長を兼務する形で常務委員会入りし、4中全会ないしは5中全会で中央軍事委副主席となり、総書記に就任するための研鑽を積んだ。
もし習近平が後継者を決めるなら、同様の処遇で対応することになる。
しかし、後継者を決めれば習近平への求心力が徐々に低下するのは間違いない。
そこで、あえて後継者を決めないままにしておき、求心力を保つというわけである。
しかも、それはきわめて簡単にできる。
政治局常務委員のポストを5つに絞り、総書記、国務院総理、全人代常務委員長、全国政協主席、紀律検査委書記に限定することによって、後継者の入る余地をなくしてしまえばいいのだ。
同時に、習近平、李克強、王岐山が留任するとして、残りの2ポストの1つを習近平の側近である栗戦書・党中央弁公庁主任にあてがえば、それで習近平側が3名となり過半数を占めることになる。
そうすることによって、習近平は「領導核心」の権威を振りかざすことなく、従来の「集団指導体制」を維持して多数決で意思決定をすることが可能になる。
「個人独裁」を批判されることなく、自分の思うような政権運営が可能になるというメリットもある。
■誰かに剥奪されても不思議ではない核心の座
しかし、このようなシナリオ通りに物事が進むかどうかは分からない。
そもそも習近平自身が、「領導核心」の座を江沢民から奪い取っているからである。
具体的に言えば、習近平は領導核心の座を得るために、「腐敗撲滅」を理由に周永康や徐才厚、郭伯雄といった江沢民につながる人脈を摘発することで江沢民の権力に挑戦し、ついに核心の座を奪い取った。
だが、このことによって、中国共産党の指導における核心の位置づけは「絶対的」なものから「相対的」なものになってしまった。
もはや、核心は、誰も挑戦できない権威の象徴ではなくなっている。
これは習近平が想定していなかった現実だろう。
振り返ってみれば、江沢民の核心の座も自らが絶対的な権力を行使して手に入れたものではなかった。
鄧小平が「毛沢東が第1世代の核心であり、第2世代は自分が核心なのだろう」と言ったとき、その「核心」は、誰もが挑戦することをはばかる権威の象徴だった。
だが、「第3世代の核心」はそうではない。
鄧小平は、1989年の天安門事件後、軍歴も権威もない江沢民を党中央の指導者に祭り上げるため「第3世代指導部の核心」に任じた。
江沢民が核心に値する指導者であるかどうか以前に、天安門事件で大きく動揺した中国共産党の指導体制に求心力をもたせる必要があったからであろう。
習近平は、その江沢民から核心の座を剥奪し、自分が取って代わった。
その核心の座を、また他の誰かが剥奪してもけっして不思議ではない。
その意味で言えば、習近平の権力闘争はまだまだ続くことになる。
』
『
ダイヤモンド・オンライン 12/6(火) 6:00配信 加藤嘉一
http://diamond.jp/articles/-/110229
習近平と王岐山の苛烈な“反腐敗闘争”はいつまで続くのか
● 機関雑誌に掲載された 王岐山の談話
共産党の第19回全国代表大会まで1年を切った。
この段階、そしてこれから約1年の間、共産党指導部として何よりも率先して徹底しようと考えていることが、「共産党体制内部における安定と団結の強化」であるように見える。
10月下旬に開催された六中全会において、党員、特に高級幹部に対して党の紀律を徹底して守ること、党への忠誠を断固として誓うことを要求し、習近平総書記を共産党中央の“核心”に据えたことは、19回党大会を平穏に迎え、円満に行うための布石であるとも言えた(過去記事参照:天安門直後と似た情勢!? 習近平自ら権力を集中させる理由、2016年11月8日)
六中全会閉幕後、全国政治協商会議が王岐山中央規律検査委員会書記を招待し、報告会を主催したこと(2016年10月31日)は上記の過去記事でも述べた。
それから約1ヵ月が経過した12月2日、党中央が発行する機関雑誌《求是》に、同報告会における王岐山談話が約6000字で掲載された。国家指導者の談話を《求是》が少し間を空けて掲載することは珍しくない。
例えば、昨年10月29日に習近平総書記が第18期五中全会第2次全体会議で発表した談話を、同誌が2016年1月1日に掲載している。私から見て、「談話発表」→「雑誌掲載」の対象になる談話の共通点は、党指導部がその内容を党内部で浸透させ、外部に対して宣伝したいという政治的意図を抱いていることである。
本稿では、習近平総書記と二人三脚で“反腐敗闘争”を引率してきた王岐山書記による上記談話から、私から見て共産党がいま何を考えているのか、そして共産党の安定と団結にも直結する“闘争”の内側にある実情や展望を知りうる上で有益と思われる部分をピックアップし、読み解いていきたい。
● 習近平が名実ともに “核心”になったことを強調
「習近平同志を党中央の核心、全党の核心と明確化し、実が名へとつながった。
党の心と民の意に順応したものだ。今回の全会が必ずや中国共産党史にとって重要なマイルストーンになることを歴史は証明するだろう」
“核心”が意味することについては上記過去記事で扱ったためここでは繰り返さないが、党指導部として、19回党大会を約1年後に控えた時期に行われた六中全会で、習近平が名実ともに党中央の“核心”になったことを強調している。
実から名への帰結という政治論理は、習近平がそれだけの権力基盤を固めたという“結果”であり、と同時に、そうすることを以って党の安定と団結が初めて確保されるという“過程”を示している。
「より深刻なのは、政治的野心を抱いて党と国家の権力を奪取することを実現するために、党を分裂させるような活動を企み、国家の政治的安全に深刻な脅威を与えようとする人間がいることである。
第18期の中共中央は周永康、薄煕来、郭伯雄、徐才厚、令計画など党の紀律や法律に深刻な違反をした案件を厳粛に調査・処分し、党内における“陰謀家”や“野心家”を排除した」
この部分は、指導部が、党内の安定や団結どころか、安全や路線にまで影響を与えうる政治事件が“再発”することを警戒している現状を示している。
5人の大物政治家が具体例として挙げられているが、そのような事件がいつから計画・実行されたのかはさておき、一つのピークは疑いなく2012年11月に開催された第18回党大会の前後であった。
薄煕来の“落馬”が明るみになったのは大会の前、周永康のそれは大会の後である。
● 党大会前後に不穏な動きが “再発”しないための予防策!?
確かに、共産党内における既存の権力関係や政治秩序に不満を持ち、それを覆したい、変えたいと考える人間からすれば、党指導部が最も切実に安定と団結を渇望する党大会前後に“暴れる”のが最も強烈なインパクトと圧力を与えることができる。
少なくとも理論上はそうなる。とりわけ、政治局常務委員の出入りに関わる人事調整は党内の権力闘争を必然的に激化させる。
18回大会前後の出来事を教訓としているからこそ、19回大会に向けて、党内で不穏な動きが“再発”しないように予防策を講じようとしているのであろう。
「中国共産党の長期的執政にとって、最大の挑戦は権力に対する有効な監督である
…これまで、党内には監督制度が不健全で、監督が行き届かず、責任が不明確で、執行が足りないなどの問題が存在してきた。
18党大会以来、中共中央は党内監督を不断に強化、特に巡視(筆者注:中央規律委員会が党・政府・国有企業などの公的機関を対象に汚職や腐敗が起こっていないかどうか順番に、定期的に、ピンポイントで捜査をしていく事業。
一般的に“専項巡視”と呼ばれ、第十九回党大会までにすべての機関を捜査すると規定している。
以下の80%という数字は、いまだ捜査できていない機関が残り20%に達したことを指している)が効力を発揮し、目覚ましい成果を得た。
現在に至るまで、中共中央は10回の巡視を行い、達成率は80%に達している。
また8つの省に対しては2回目の巡視を行っている。
これから11回目の巡視に入る」
私はこの“巡視”がまだ5分の1残っているという現状から、有力機関の幹部や国有企業の経営陣の“落馬”は継続され、随時公表されるものと見ている。
公的機関、およびそこで働くスタッフらは、引き続き中央規律委員会からの捜査や監視に怯える日常を送ることになるであろう。
それに関連して、次の段落を見てみよう。
「全面的に、厳しく党を治めるためには断固として清廉な党の建設と反腐敗闘争を推進していかなければならない
…18回党大会以来、中央規律委員会は中級幹部222人を審査し、うち212人に処分を与えた。
面会による調査は延べ896人、手紙による調査は延べ1863人、結着が付いたのが延べ2753人である」
また、全国各地の紀律検査・監査機関は合計100万以上を立件し、100万人以上に対して党紀律に基づいた何らかの処罰を下したという。
その他、王岐山が談話で言及した以下のセンテンスは興味深い。
「中央規律委員会が領導幹部に対して立件・審査する際、ほぼすべての案件で対象が組織として決定した審査に対抗する状況が生じている。
党に対する忠誠は何処へいったのか!? 」
「六中全会において、2人の領導幹部が、自らが所属する部門で組織的腐敗が起こったことを理由に“休暇”を要請してきた。
中央は彼らに問責を行うことを決定した」
● 注目される王岐山の去就 “反腐敗闘争”の今後
革命世代の2代目として共産党に忠誠を誓う王岐山にも相当ストレスと鬱憤が溜まっているようである。
これから第19回党大会まで、最後の最後まで手を緩めることなく、書記としての役割を全うしていくであろう。
年齢的な理由により(筆者注:68歳以上で政治局常務委員に就いてはならないという“慣例”がこれまで敷かれてきた)、王岐山は2017年の秋で政治局常務委員から退くというのが慣例に符合する原則である。
一方で、「王岐山は続投」、「王岐山が総理に転身」といったあらゆる憶測的議論が世界各地で展開されている。
実際のところは私には分からない。
ただ本稿の文脈から少なくとも言えることは、仮に王岐山が中央規律検査委員会書記として続投する場合には、習近平総書記による“反腐敗闘争”は19回大会を経て一段落を迎えるどころか、最低限現状維持、あわよくばより一層の強化と徹底が見込まれる可能性すらある。
そうなれば、中国の政治・経済・社会・教育・言論・軍事、そして我々日本人にとっても無関係ではない外交などあらゆる分野への確かな影響が必至になると言える。
外交に関して、12月1日、王岐山書記が北京にある釣魚台迎賓館でヘンリー・キッシンジャー米元国務長官と会談をした。
同氏は習近平総書記にも会っている。
会談の席で、王岐山は共産党として党内部を厳しく治めようとしてきたこと、六中全会はそのための再動員・再配置・再出発であったなどと成果を主張した。
キッシンジャー博士はそれに対して、中国共産党は党建設と反腐敗の分野で目覚ましい業績を収めてきたとコメントした。
共産党指導部としては、六中全会や《求是》といった内政の場だけでなく、特にキッシンジャー博士のような中国と関わりの深い、共産党として親しくつき合ってきた海外の要人に戦略的に働きかけることで、外交の場も利用しつつ反腐敗闘争という今期政権の目玉政策の成果をアピールしていきたいのだろう。
私自身、胡錦濤政権から中国共産党政治を見てきたが、いまほど党指導部にとっての内政と外交が近い距離・関係にあり、指導者たちが両者を相互補完的に活用しながら、「党の正統性」を確保すべく奔走する局面はなかったように思う。
』
『
Record china配信日時:2016年12月8日(木) 5時10分
http://www.recordchina.co.jp/a156595.html
中国はサービス・消費主導で「中高進国」に移行、
「バブル崩壊」論は杞憂
=AIIBはライバルではない―アジア開銀総裁
2016年12月1日、中尾武彦アジア開発銀行(ADB)総裁は日本記者クラブで会見し、中国経済について、「サービスと消費が主導する経済に移行し、中高進国の構造になりつつある」と分析した上で、日本の1990年代のような「バブル崩壊」はないとの見方を示した。
またインフラ資金需要が膨大なアジアにおいて、「ADBは中国主導のアジアインフラ投資銀行(AIIB)とは補完的関係にあり、ライバルではない」と強調した。
発言要旨は次の通り。
アジアの開発途上国は全体として堅調な成長ペースを維持、GDP成長率は2016年、2017年ともに5.7%となる。
中国経済はやや減速するものの6%台半ばを維持。
自動車販売台数が2000万台と高水準を保つなど、サービスと消費が主導する経済に移行しつつある。
都市化が進行する一方、宇宙や高速鉄道など競争力が強い分野も出現しつつあり、中高進国の構造になりつつある。日
本の1990年代のようなバブル崩壊はない。
人口増加が著しいインドはモディ政権の経済重視志向もあって7%台の成長を堅持。
インドネシア、パキスタン、バングディッシュ、フィリピン、ベトナム、ミャンマーなども5〜6%の成長が続く。
2008年に欧米を襲ったリーマンショック不況の際、欧米市場との経済取引に依存しているアジア開発途上国にも打撃となり、成長も急減するとの見方が有力だった。
ところがアジア域内での取引が活発化したため杞憂に終わった。
アジアの成長の要因は、インフラへの投資、教育や保健など人的資本への投資、マクロ経済の安定、開放的な貿易・投資体制、民間セクターの促進、政府のガバナンス(統治)、将来ビジョン・戦略、政治や治安の安定など。アフリカや中南米など他の開発途上地域に比べ、これらの長所が際立っている。
アジアは19世紀の初めまで世界のGDPの半分以上を占めていた。
その後欧米の台頭によって凋落したが、現在3割程度に回復した。
ADBの委託研究「Asia2050」によると、「アジアの世紀」が実現した場合、2050年には52%に達する見通しだ。
ADBは中国主導のアジアインフラ投資銀行(AIIB)とは補完的関係にあり、ライバルではない。
ADBはアジア諸国と援助(ドナー)国に限定しているため加盟67カ国・地域にとどまっている、
AIIBは域外途上国にも広げ、100カ国近くに達した。
融資額も増え、成功したと思う。
ADBとAIIBは国際協調融資などで協力できる。
パキスタン、バングラディッシュ向けで実績も上がっている。
職員数はADBの約3000人に対し、AIIBは約100人とまだ少数なので、ADBの支援を求めている。
今後とも両者が協力していきたい。
世界で突出した成長を続けるアジアにはインフラ関連だけでも膨大な資金需要がある。
豊かになったとはいえ、貧困率が10%で貧困人口も多い。
主な非加盟国は日米だけになったが、ADBとAIIBはライバルのような対立構造ではなく、アジアでは補完し合える。
世界におけるアジアの存在は高まっている。
ADBは税制、気候変動などのセミナーも開催。
来年5月に、50周年記念総会を横浜で開催するのを機に「発展するアジア」のけん引役としての役割を果たしていきたい。
(八牧浩行)
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2016/11/09 に公開
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