2016年11月1日火曜日

なぜヒラリーは嫌われるのか(2):ヒラリーが、しぶとく嫌われ続ける根本理由

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東洋経済オンライン 2016年10月31日 岡本 純子 :コミュニケーション・ストラテジスト
http://toyokeizai.net/articles/-/142890

ヒラリーが、しぶとく嫌われ続ける根本理由
女性リーダーが陥る致命的な落とし穴

 いよいよ、米大統領選まで約一週間に迫った。
 ヒラリー・クリントン候補の勝利で決着するとの見方が大勢だったところに、10月28日、クリントンの私用電子メールサーバー使用問題で、FBI(米連邦捜査局)が調査を再開することを発表し、選挙戦に大きな衝撃が走っている。

 そもそも、ドナルド・トランプのような「とんでもない」候補者がここまで粘ることができた理由として、稀代のペテン師的コミュ力や一部のアメリカ国民の間に巣食う根深い怒りや不満などが挙げられるが、もう一つ、大きな要因となったのが、相手候補クリントンの圧倒的な不人気である。
 なぜ、彼女はそこまで嫌われるのか。
 そこには、日本におけるこれからの女性のリーダーシップ向上の大きな課題も隠されている。

■史上最も人気のない候補者同士の戦い

 8月31日付のワシントンポストとABC Newsの共同調査によれば、クリントンを好ましくないと考える人の割合は56%(好ましいは41%)に上った。
 トランプの63%(好ましいは35%)と比べてもさほど差がない水準であり、史上最も人気のない候補者同士の戦いとなっている。
 支持率についても、クリントンとトランプとの差は6ポイント程度(10月末の時点でのニューヨークタイムズ紙調べ)。
 ほとんど広がっていないばかりか、1ポイント(ワシントンポストとABC News調べ)と肉迫しているとのデータもある。
 今回のFBIの調査再開の影響はまだわからないが、勝負がかかるフロリダ州でトランプの支持率がクリントンを上回るなど、予断を許さない展開となっている。

 もし、共和党候補がトランプでなく、あともう少しまともな候補者であったのなら、クリントンの勝ち目はほとんどなかったろうし、逆に民主党候補がクリントンでなければ、トランプがここまで躍進することはなかったのではないか。
 それほどまでに不人気の理由とは何か。
クリントン嫌いの国民が理由として掲げる最も大きなものは
「信頼できない」ということだ。

 FBIは以前にも国務長官時代のクリントンの私用メール問題を調査していたが、今年7月、違法行為の証拠はないとして、調査の終了を発表していた。
 今回は、これまで見つかっていなかった、新たな証拠となるかもしれないメールを見つけ、調査の再開に至った、と説明している。
 その新しいメールに国家機密となるものが含まれているのかは全く分からない、としている。

 トランプ陣営は、こうしたスキャンダルを背景に、クリントンに対し、「Corrupt(腐敗した)」などという言葉を使い、ウォールストリートなどの富裕層などから多額の寄付を受け続けていることを非難材料にしている。
 実際、大手投資銀行のゴールドマンサックスからは、クリントンが行った3回の講演に対し、67万5000ドル(約7000万円)が支払われたことも明らかになっている。
 これを追求されたクリントンは「だって、彼らがそれだけ払う、って言うんだから」と答え、全く悪びれた様子をみせなかった。
 このようなエピソードが権威主義的で計算高いイメージを増幅している。

 イェール大学ロースクールを卒業し、弁護士、大統領夫人(ファーストレディー)、国務長官、上院議員というきら星のような要職を歴任してきたバリキャリエリートである。
 それだけに、どうしても官僚的なイメージが抜けず、「上から目線」な物言いが反感を買うことも少なくなかった。
 かつて、「私は家でクッキーを焼いて、お茶を入れるようなそんな女じゃないわ」と啖呵を切り、物議を醸したこともあった。

 まさにプロの政治家であり、経験が豊富であることが逆に、現状の政治に不満を持つ人に、「彼女のせいで、ここまで状況が悪くなった」と思い込ませてしまっている。
 その男顔負けの強さは、長年、女性差別に対して、最前線で戦ってきた闘士そのもの。
 ただ、その姿が、トランプのような古いタイプの男性の目には「傲慢」で「脅威的」に映る。
 第三回討論会で、トランプが「Such a nasty woman」(なんてやらしい女だ)と言い捨てたのは、まさに「マチズモ(machismo 、男性優位主義)タイプ」の男性からすると最も苦手なタイプの女性だということだろう。
 筆者のアメリカ人の友人も「(夫である)ビル・クリントンの方がfeminine(女らしい)」と皮肉るほどだ。

 テレビ討論会では、1回目は赤、2回目は青、3回目は白、つまりアメリカの国旗色のラルフ・ローレンのパワースーツに身を包んだ。とにかく、自分を強く見せ、有能さをアピールする。
 長年、様々な性差別や偏見と闘ってきた彼女ならではの、武装術なのだろう。
 その鎧があまりに堅苦しく、ぶ厚すぎて、まさに超仕事ができるワーカホリック上司のように、権力志向が強く、ロボット的に見えてしまう。
 あまりの「用意周到ぶり」が偽善的にとらえられることも多い。
 トランプ支持者は「トランプは偽悪的なだけでクリントンよりもずっと正直」と思い込んでしまっている。

 オバマ大統領が、ティーンエージャーの父親として、ミシェル夫人の夫としての「素の顔」を所々で魅せ、子供と無邪気に遊び、バスケットボールに興じて、国民を魅了したのとは全く異なり、プライベートの顔もあまり見えない。
 要するに徹頭徹尾、共感を覚えにくいキャラなのだ。

 そもそもリーダーには2つの資質が必要だと言われている。
「Competence」(有能であること)
「Warmth」(人間としての温かみ)
である。
 この二つがバランスよく高いことが求められるが、どちらにも秀でるのはなかなか難しいものだ。
 結局、「できる」けれども、温かみがなく、「冷たい」、であるとか、「温かい」人だけれども、「できる」感じではない、などというように、どちらかが突出してしまうことが多い。
 クリントンは非常に「有能」で「できる」ことは誰もが認めるところだが、とにかく「冷たい」印象がまとわりついている。
 これが彼女の最大にして、致命的な欠点となっている。

 なぜなら、「人が温かく見えるか、冷たく見えるか」は、人の印象を形作る上で、最も大切な要因であるからだ。
 人の印象形成に関する研究の権威で、実験心理学者の開拓者といわれるソロモン・アッシュによれば、
 「人の印象は様々な特徴の総体として形作られるものではなく、
 『その人が温かいか、冷たいか』というたった一つの特徴によって、かなりの部分が決定づけられる」
という。

■女性候補としての難しさ

 「温かいか、冷たいか」という特徴は、例えば、賢そうか、真面目そうか、といった他のあらゆる特徴を超えて、人の印象結成に決定的な影響を与えるということなのだ。
 ここに、女性候補クリントンの難しさがある。
 女性は、母親らしさ、女性らしさを暗黙のうちに社会的に求められてきた。
 しかし、そうしたイメージが「有能だ」「できる」という印象を打ち消す働きをする場合もある。
 クリントンは、このジレンマの中で、「できる」姿を、優先的に見せるような戦略を取ってきた。
 強い調子で話し、大げさなジェスチャーを用い、有能な様をアピールする中で、「温かみ」が陰に隠れるようになってしまったのだろう。

 さらに、不幸なのは、「冷たい」上に、「ヒステリック」というイメージもまとわりついてしまったことだ。
 彼女の力を込めた話し方に、「なんで彼女はいつもそんなに叫んでいるんだ」と揶揄する声もある。
 男性が、熱を入れて話していても、「情熱的」「真剣だ」と思われることはあっても、「叫んでいる」とは見られないだろう。
 「できる」女性は、冷たく、エラそうで、怒っているように見えてしまう危険性があるということだ。
 これがリーダーを目指す女性のジレンマだ。

 元々、大統領選直前の10月には、「オクトーバーサプライズ」と呼ばれる候補者のスキャンダル暴露が相次ぐことが多い。
 古くはロナルド・レーガンのイランとの密約、
 ジョージ・W・ブッシュの飲酒運転歴の暴露などもあった。
 今選挙でも、トランプの税金逃れ、クリントン陣営のメール流出騒ぎなど、様々なスキャンダルが噴出したが、トランプの破廉恥会話のテープ事件以外は、それほど、支持率への影響はなかったと言われている。
 そういうことから、選挙戦自体にはあまり影響がない、という見方もある。

 前回の記事でもご紹介したように、多くの人は、政策うんぬんよりも、自らの信条や候補者の印象など、本能的な、直感的な「好き」「嫌い」によって投票行動を決めている。
 クリントンやトランプに対する嫌悪感はもはや動物的直感であり、ディベートの結果や、スキャンダルなどはそもそもの支持者の考え方には大きな影響を及ぼさないようだ。
 結局はどちらにするのかを決めかねている有権者次第ということになりそうだが、不人気者同士の戦いは、どちらが勝っても、大きな禍根を残すことになる。波乱の時代の幕開けとなりそうだ。



現代ビジネス 2016/10/31 髙橋 洋一経済学者
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/50087

最新予測!トランプ「大逆転」の可能性はこのぐらいの確率
まさかのハプニングは本当にないか?
 
■大統領選は「筋書きのないドラマ」か?

 日本シリーズは波瀾の末、日本ハムファイターズが広島カープに勝った。
 第1、2戦に広島カープが圧勝したので、そのまま広島カープが優勝かとも思った。
 しかし、第3戦で10回の裏にサヨナラ勝ちすると日ハムに流れが傾いた。
 日ハムは、第4戦で8回裏に勝ち越し、第5戦でまさかの9回裏のサヨナラ満塁ホームランで、連勝した。
 第6戦も8回表に、押し出し、その後満塁ホームランで勝負あった。
 野球は「筋書きのないドラマ」というが、まさにその通りだった。

 はたして、米大統領選は野球のような予想外の展開になるのだろうか。
 それとも大方の世論調査どおりの結果になるのだろうか。

 米大統領選の予測に関しては、統計モデルを使ったもの、専業分析家によるもの、メディアによるものなど十数種類もある。例えば、2016 Presidential Election Forecasts というサイトもある(http://www.270towin.com/2016-election-forecast-predictions/)。

 最新時点(多くは10月26日)では、
 それらのすべてにおいて、クリントン氏が優勢と予想されている。
 全米の各州選挙人538人の過半数である270人を獲得すれば勝利するが、統計モデル分析では、クリントン氏が少なくとも320人以上を獲得すると予想されている。

 筆者は米プリンストン大学に留学していたので、プリンストン大学の予測モデル(http://election.princeton.edu/electoral-college-map/)をしばしば参考にしている。
 このモデルは統計的な手法であり、手法・中身はわかりやすいから、使いやすいものだ。
 全米の各州選挙人538人の過半数である270人を獲得すれば勝利するが、プリンストン大モデルでは、クリントン氏323人、トランプ氏209人、未定等6人。
 トランプ氏が現時点より獲得投票率が2%高くなったとしても、クリントン氏288人、トランプ氏215人、未定等35人となり、クリントン氏の優位は動かない。
 逆にクリントン氏の獲得投票率が2%高くなれば、クリントン氏356人、トランプ氏182人、未定なしとクリントン氏が圧勝する。
 クリントン氏が大統領になる確率は97%という。

■驚くほどの一致

 他の統計モデルも紹介しよう。
 2012年11月12日付け本コラム「政治評論はいまだ『マネーボール以前』の世界!」(http://gendai.ismedia.jp/articles/-/34022)で紹介した、NYタイムズのFiveThirtyEight(http://projects.fivethirtyeight.com/2016-election-forecast/)の予測だ。

 それによれば、クリントン氏324人、トランプ氏212人、未定等2人である。
 クリントン氏が大統領になる確率は81%となっている。
 もっとも、統計モデルを使うと似たような結果になりがちだ。
 そこで、その他の分析で、結果の違うものを二つ紹介しよう。
 これで、ほぼすべての米大統領選の予測をカバーすることができる(下図)。


●画像表示

 一つは、バージニア大学の専門家による分析で、Sabato's Crystal Ball(http://www.centerforpolitics.org/crystalball/)として知られているものだ。
 それによれば、クリントン氏352人、トランプ氏173人、未定等13人となっている。

 もう一つは、AP通信の分析である
(http://interactives.ap.org/2016/road-to-270/#Election2016)。
 それによれば クリントン氏278人、トランプ氏173人、未定等87人である。

 これらの4つの分析で、各州がどうなるかをみてみよう。

 おどろくほど、ほとんどの州の結果は一致しており、わずか4州、アリゾナ(選挙人11人)、オハイオ(選挙人18人)、ノースカロライナ(選挙人15人)、フロリダ(選挙人29人)を接戦州とみるか、トランプ優勢州とみるかで違っているだけだ。
 そして、どこの分析でもアイオア(選挙人4人)が接戦州であることは変わりない。

 それでも、クリントン氏の優位は動かない。
 プリンストン大分析では、トランプ氏の投票率が2%高くなるという感応度分析を行っているが、クリントン氏288人なので、クリントン氏の勝ちだ。
 その中身を見ると、上の5州すべてがクリントン勝利とはならないが、それらを落としてもクリントン氏が勝つとなっている。
 要するに、クリントン氏が盤石と思われる州をトランプ氏が奪い取って、さらに接戦5州をすべてトランプ氏が勝利するという、奇跡的な状況でないと、トランプ氏の勝利はないわけだ。
 それには、トランプ氏はさらに2%を超える投票率の上乗せが必要というわけだ。

■ハプニングはゼロではない

 オハイオ州はしばしば大統領選を決定する州といわれている。
 米大統領選の勝敗を分けるのは、選挙のたびに民主、共和両党に振れる「スイング・ステート」である。
 例えば、大票田であるフロリダ、オハイオ、ノースカロライナ各州が最激戦区とされる。
 このうち、オハイオ州については、1900年以降の28回の大統領選で同州を制した候補が大統領に当選したケースは26回になる。
 2回の例外は、1944年民主党ルーズベルトと1960年民主党ケネディだけだ。
 今回もオハイオ州は大接戦であり、今のところトランプ氏がクリントン氏を若干リードしている。
 ただし、仮にクリントン氏がオハイオ州を落としても、上に書いたように大統領になる公算は高い。

 筆者は一応統計分析者なので、トランプ氏の2%を超える投票率の上乗せがまったくあり得ないとはいえないが、かなり確率は低いだろうと考えている。
 9月末からの3回に及ぶテレビ討論の結果、トランプ氏は大統領にふさわしくないと米国民に判断されたようだ。
 ただし、10月28日にFBIが、クリントン氏のメール問題を再調査すると発表したことの影響は不明である。
 もし、この問題で、トランプ氏が投票率で2%を超えてアップできれば、奇跡の大逆転ということなる。
 その可能性は高いとはいえないが、ゼロではない。

 大統領選挙は野球のようなハプニングは起こりにくいが、それでもハプニングはゼロでない。
 日本シリーズの第6戦、10対4となった8回裏と9回裏に、広島は逆転のチャンスはゼロでなかった。
 しかし、結果としては逆転できなかった。
 6点差を2回で逆転できる確率はゼロでないが、かなり低い。
 クリントンのメール問題があっても、トランプ氏が逆転できる確率は、そのくらいに低いだろう。

 市場も政府もそう見込んでいるだろう。
 安倍首相は、9月に訪米した際、クリントン氏と会談をしている。
 過去の日本の首相で、大統領選挙中に次期大統領になる人物と会談したことは例がまずない。
 そこでどのような話が行われたかは定かでないが、日米安保、TPP、日ソ交渉などの重要課題も話され、日米関係の先取り的なものだろう。
 もしクリントン氏が勝てば、これは安倍政権の隠れた外交のヒットになるだろう。



ロイター 2016年 11月 2日 07:21
http://jp.reuters.com/article/us-election-poll-idJPKBN12W55N

米大統領選、トランプ氏支持率がクリントン氏を逆転=WP/ABC


[1日 ロイター] - 
米ワシントン・ポスト(WP)/ABCの最新の世論調査によると、
 米大統領選の共和党候補ドナルド・トランプ氏と民主党候補ヒラリー・クリントン氏の支持率が逆転した。

10月27日─30日に実施された調査によると、
 トランプ氏の支持率が46%、
 クリントン氏は45%
でわずかながらトランプ氏が上回った。



日本経済新聞 2016/11/2 10:49
http://www.nikkei.com/article/DGXLASGM02H15_S6A101C1EAF000/

トランプ氏が支持率上回る ワシントン・ポスト調査 

  米紙ワシントン・ポストとABCテレビは1日、世論調査結果を発表した。
 支持率は共和党候補ドナルド・トランプ氏(70)が46%、民主党候補ヒラリー・クリントン前国務長官(69)が45%で、トランプ氏がクリントン氏を1ポイント上回った。

 調査は米連邦捜査局(FBI)がクリントン氏の私用メール問題の再捜査を明らかにした10月28日を挟み27~30日に実施した。
 10月下旬にはクリントン氏が一時、12ポイントリードしていた。
 FBIによるクリントン氏の私用メール問題を巡る再捜査が支持率に響いている。

 米政治専門サイト「リアル・クリア・ポリティクス」が集計した主要世論調査の平均によると、直近の支持率はクリントン氏47.5%に対し、トランプ氏は45.3%で、クリントン氏がなお優勢だ。


現代ビジネス 2016/11/03 安達 誠司エコノミスト
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/50119

経済政策ではトランプに軍配!? 
混沌としてきた米大統領選のゆくえ
最後の1週間に何が起こるのか
 
■最後の最後で思わぬ展開

  米大統領選は、3度の公開討論会(そのうち1回は副大統領候補によるもの)を無難に切り抜けたことから、民主党のヒラリー・クリントン候補の優勢で終盤戦を迎えたかのように見えた。
 だが、大統領選まで残り1週間を切った最終コーナーで、思わぬ展開となっている。

 FBIが、ヒラリー・クリントン候補が国務長官時代に私的メールアドレスを公務に使用していた問題で、新たな証拠が出た(正確にいえば、いったんは終了した捜査に関する新たな電子メールを発見した)と議会に伝えたためである。
 ニュースなどを見る限り、それ以上の情報はないのだが、これが、FBIによる捜査再開、ひいては、クリントン女史の国家反逆罪での逮捕につながるリスクとしてマーケットに意識され始めた。
 これによって、いくぶん調整気味に推移していたニューヨークの株式市場が大幅な下げを記録した。

 国務長官時代のヒラリー・クリントン女史は、いくつかの案件について、自分の信頼する閣外のスタッフにアドバイスを受けるために、メールを送ったらしいが、これは明らかな「コンプライアンス意識」の欠如である。
 想像するに、私的アドレスのメールサーバーは、ホワイトハウスのサーバーよりもセキュリティが甘いと思われるため、安易な私的メールの使用は、重大な国家機密の漏洩につながりかねない。
 また、いくら信頼しているとはいえ、閣外のスタッフは、政治的な経験を生かして、コンサルタントやロビイストを行っていた可能性があるが、もし、そうであるならば、国家機密が金儲けの手段として利用されてしまうリスクもある。
 しかも、これが安全保障上のイシューであれば、テロなどにもつながりかねない。まさにドラマ「24」の世界である。

 この私的メール事件の再燃によって、ヒラリー・クリントン女史の大統領としての資質に重大な疑問が生じたことが、支持率の低下につながった。

■経済政策に変化をもたらすのは…

 おりしも、韓国では、女性大統領である朴槿恵女史が民間人である友人に国家機密を漏洩した疑いが浮上しており、支持率が急低下、進退問題に発展しかねない状況になっている。
 両者には何のつながりもないが、米国初の女性大統領候補と、韓国の現役の女性大統領が同じタイミングで国家機密の漏洩疑惑の渦中にいるということで、これもヒラリー陣営からすると、非常に都合の悪い話であるかもしれない。
 だが、この問題は、少数だが、「今回の米大統領選ではトランプ氏が当選する可能性が高い」と考える論者によって、ずいぶん前から指摘されていた。
 筆者は特にこのような「トランプ推し」ではないが、この事件がなかなかクローズアップされないため、不思議に思っていた。

 ただ、大統領選の直前になって出てくるとはさすがに驚きを隠すことができない。
 クリントン女史は、閣僚経験があるため、トランプ候補と比較すると、政策運営に安定感があるというのがこれまで支持を集めてきた大きな理由であろう。
 経済政策についても、TPPに対して慎重な見方をしている以外は、現オバマ政権のそれから大きく転換するような提案はない。
 TPPについても、大統領選勝利のためにある程度は産業界の支持を得る必要があるとの考えで、実際に大統領になれば、いくつかの修正案を提示するものの、最終的には合意するだろうという見方が多数のようだ。

 また、クリントン女史はかつては、「親中」派だった印象が強いが、現在の中国政府の行動については、安全保障や外交政策を中心に批判的な立場をとっているようだ。
 さらにいえば、夫であるビル・クリントン元大統領の時代は、アメリカ経済が金融危機(S&L危機)から強さ(高成長)を取り戻した時代(ITブームが実現した)であったので、その「幸福なアメリカ」の再来を求める声があるのかもしれない。

 一方、トランプ候補は、数々の過激な問題発言から、大統領としての資質を著しく欠くとの印象が一般人には強いのであろう。
 だが、当コラムでも指摘したことがあるように、経済政策に関する筆者の第一印象は、「レーガノミックスの再来」というものであった(http://gendai.ismedia.jp/articles/-/49775)。
 極端な言動ばかりに注目するマスコミにはあまりクローズアップされていないが、
 大胆な減税と財政支出による経済の建て直しと、
 「世界の警察官」としての役割をやめて
 「米国経済圏」にフォーカスした貿易、及び、外交・安全保障政策は、
 筆者にとっては、「ネオコン」が席巻する前の経済低迷をなんとか克服したいと考える80年代半ばから90年代前半のアメリカ政治をほうふつとさせるものであった。

 また、蛇足かもしれないが、夫のクリントン大統領時代に開花したIT革命も、レーガン時代の対ソ連の軍事開発の副産物であった。

■いよいよ最後の1週間

 したがって、筆者の印象では、「アメリカの復活」という点では、
 「(まともな方向に)大化けしたトランプ大統領」の方が、期待が持てるのではないかと考える。
 ただし、注意すべきは、「まともな方向に」という点である。ここは読みにくい。

「トランプ大統領」はまさしく「ハイリスク・ハイリターン」型で、自分の思うように政策運営ができない場合には、やる気を失って、極めて早いタイミングでレームダック化するリスクがあると考える。
 よって、筆者は、「トランプ大統領」が暴走して、手がつけられないという、多くの人が抱いているようなリスクは意外と小さいのではないかと考える。

 一方の「ヒラリー・クリントン大統領」の場合は、手堅い政策運営で、現状の極めて緩やかなトレンドを踏襲する形での「アメリカの復活」ではないかと考える。
 多くの人はこちらを望むだろうが、この手の政策運営は、外的ショックに対して脆弱ではなかろうかと懸念する。
 例えば、中国経済が崩壊し、地政学的リスクが高まる場合、もしくは、中東問題のこじれが欧州に波及し、欧州で経済危機が起きるというような外的ショックが発生すれば、米国経済も巻き込まれる可能性が高く、これを粉砕するようなバイタリティはヒラリー・クリントン女史には感じられない。

 かつて、日本の政治家を評して、「平時の○○、乱世の○○」と例えられることがあったが、クリントン女史は、平時に、国内の改革を進める場合に大統領になるのには適しているように、筆者には思える。

 この最後の1週間でどのような展開になるかはわからないが、大統領選の行方は依然としてヒラリー・クリントン女史が優勢ながらも、混沌としてきた。
 最後にどのようなドラマが待っているのだろうか。