イギリスから中国に返還されたときに、香港の自治なるものは有名無実になっている。
誰も中国の言葉など信用していない。
しかし中には、中国との関係のなかで稼げると思った連中もいたであろう。
そして20年間稼いだ人もいた。
命か金か、である。
しかし、やはり来るものは来る。
そして、これから香港は中国に収奪されはじめ、明日を失っていく。
中国という手の内で騒いでいるだけ、である。
台湾のように、手の外なら救いはある。
だが、香港には救いがない。
あえて救いを夢想するなら、現在の経済状況からすると近い将来中国国内に混乱が起きそうな気配があるが、これがどう影響するかであろう。
台湾,チベット、ウイグルなどには力がある。
しかし、香港にはそれがない。
アメリカの姿が薄くなっている今、支援する国・組織ない。
もと宗主国のイギリスも手を出さない。
まず、香港の未来はない、と見たほうがいい。
消えゆく都市である。
『
Wedge 2016年11月18日 野嶋 剛 (ジャーナリスト)
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/8246
「香港司法の独立」終わりの始まり
「独立派」2議員資格取り消し
香港に「高度な自治」を50年間は認める。
それが、1997年の香港返還における中国のコミットメント(約束)だった。
そして、自由貿易都市・香港が香港であり続けるための重要な柱の一つが、英国統治以来の高い信頼を得ている司法の独立性であり、香港で多国籍企業や外国人がビジネスを営むための支えでもあった。
だが、香港に対して締め付けを強める中国・習近平指導部の介入の刃は次第に香港司法の牙城にも食い込みつつある――
16日、香港立法会(議会)の宣誓式で反中的な言動があったことで香港基本法(憲法に相当)や宣誓方法を定めた法律に違反していることを理由に、新人議員2人の議員資格が取り消されるとの審査結果が、香港高等法院(高裁)から出された。
このことは1997年の香港返還から20年近くにして、香港司法の独立性の「終わりの始まり」を、多くの人に予感させた。
この判断は、中国の全国人民代表大会(全人代)が直前に出した基本法解釈に沿った内容であり、中国の干渉に香港の司法当局が影響されたと受けとめられかねない。
9月に行なわれた香港立法会(議会)選挙では、雨傘運動後に生まれた「本土派」政党が躍進し、6人の本土派議員が当選を果たした。
彼らは基本的に雨傘運動を契機に政治運動に関わるようになり、街頭から議会に入ることに成功した。
必ずしも全員が、中国が「分離独立勢力」という最高級の警戒を示す香港独立を主張しているわけではないが、香港の民主や主体性を徹底的に守り、中国とは一線を画すべきだとする点では共通している。
そのなかで、比較的過激な「香港ナショナリズム」思想を掲げながら当選した政党「青年新政」の游蕙禎(25)と梁頌恒(30)の2人は、10月12日の宣誓の際に、「香港は中国ではない」という横断幕を掲げたり、英文での宣誓のなかで「ピープル・リパブリック・オブ・チャイナ(中華人民共和国)」と言うべきところを「ピープル・リファッキング・オブ・シナ(支那)」と述べたりして、中国への敵意をあからさまにする行動を取った。
当初、立法会では2人に再宣誓させようとしたが、次第に問題視する声が大きくなり、香港政府は2人の議員資格の喪失審査を高等法院に申し立てた。
そして、今月7日、基本法の最終解釈権を持っている全人代の常務委員会が、基本法に定めた通りの宣誓を行なわなければ公職に就任する資格を失うとの判断を示していた。
今回、香港の司法界では、裁判所には政治に関与することができず、議員資格は無効とはされないとの観測も根強く、事前の見方は割れていた。
また、元裁判官や弁護士ら司法関係者が強い懸念を示して抗議の大規模な街頭デモも行っていた。だが、結果は香港の司法が中国の政治的意向によって左右されたと受けとめられかねない判断が示され、その信頼性に大きな痛手となった。
2人の宣誓方法については、あまりにも過激で幼稚な方法だったという見方は親中派以外にも少なくなく、そこまで強い同情を集めているとも言えない。
2人は最高裁にあたる終審法院に上訴する見通しだが、そこで敗訴しても、即、雨傘運動のような大規模な抗議デモが起きるとは考えにくい。
しかし、宣誓方法について、ほかの本土派議員や民主派議員でも規定通りの宣誓が行なわれていなかったとして、裁判所による議員資格の無効審査を求める訴えが総勢10人以上に対して親中派の団体から提起されている。
今回の司法判断がそのまま通用するのであれば、ほかの議員も大量の失格となってしまい、香港政治自体に大きな混乱を及ぼすことになりかねない。
■口実を与える結果に
今回の審査結果について、高等法院は「全人代の判断がなくても、結果は同じだった」と述べているが、もともと9月の選挙でも、立候補時に「香港は中国の一部である」ことを認めない候補者に対し、立候補の段階から排除する措置が取られた。
これは、本土派=独立勢力を議会には入れないという習近平政権の固い意向を反映したものとされた。
しかし、その選挙を勝ち抜いて6人の本土派が当選したことで、今度は司法の力を借りて、本土派排除に動いたとの見方が合理的に思える。
その意味では「青年新政」の2人が宣誓式で中国による排除について格好の理由を与えてしまったのかもしれない。
しかしながら、香港の若者の間では「香港と中国は違う」「我々は中国人ではなく、香港である」とするような「本土思想」が雨傘運動以降、外部からは想像もつかない勢いで広がっている。
そのなかで、本土思想や香港独立思想を攻撃すればするほど、彼らの勢力はますます中国に反発を強め、その反中姿勢を強固にしていってしまうという悪循環にも陥りかねない。
■香港はもう一つのチベット、ウイグル
英エコノミスト誌は、最新号で香港情勢について中国共産党指導部によって「中国から香港は動乱地区と見なされ、もう一つのチベット、あるいはウイグルになっている」と指摘し、香港の中国からの離脱志向を緩めるためには、香港市民が望んでいるもの、つまり完全な民主を与えるしかないが、本土派が香港の権力を掌握することを恐れた中国政府はその決断ができないと分析している。
かつて、香港は、台湾問題解決のため、中国の一部となった地域がいかに寛容に取り扱われ、一国二制度が正しく機能しているかを示すためのショウケースの役割を負っていたが、
いまの香港はまったく逆の役割、つまり、中国に逆らったらどうなるかの「見せしめの場」となっているようだ。
そのなかでは、従来から完全に中国の影響下に置かれていた行政(香港政府)と、過半数を親中派が制するような制度設計にされた議会(立法会)の立法会に続き、今度は司法の場にも、その中国の「長い手」が巻きつき始めた現実を、今回の2議員の資格取り消しのプロセスから、我々は見て取るべきだろう。
』