2016年11月12日土曜日

トランプ大統領とは(6):『トランプ維新』とは上位階層で決まる選挙を下位階層で決まる形に作り替えた、ということである

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 オバマは黒人層とヒスパニック層の底辺階層を掘り起こすことで大統領の座を勝ち取った。
 次にトランプは白人底辺層をオバマの作戦と同じように掘り起こすことで大統領になった。
 「スーパー・チューズ」とは「火曜日選挙」ということである。
 火曜日は底辺層は働いている。
 つまり貧乏人は働いていろ、
 お金持ちが選挙をして政治をしてやるからそれを黙って受け取ればいい、
というのがスーパー・チューズデイの基本理念である。
 政治はエグゼクテイブがやることでプアがやることではない、ということである。
 よって大統領候補とはいかに膨大な寄付を集め、それによって主にテレビメデイアの時間放送権を買うか、によって勝利が決まるものである。
 テレビ放送権を買えないものはそれで脱落する。
 つまり、単純化すればアメリカ政治とは超金権政治だということである。
 金権政治のことはここでは横においておいて、
 オバマとトランプのやったこととは、上位層すなわちエグゼクテイブによって支えられた選挙を下位層の票で決まるような形に作り直した、
ということである。
 選挙民層の構造改革をやった、ということである。
 オバマは黒人のエグゼクテイブである。
 トランプは全米150位ほど億万長者である。
 彼らがやったこととは全く同じで、所属する民族層の下層を掘り起こしたということである。
 この2人の行動の形によって、アメリカの選挙は大きく変わる可能性をもつ。
 底辺パワーが自分の力に自信を持ち始めたということである。
 これまで上層階層のいいなりになっていた下位層が、その力に目覚めたということである。
 スーパー・チューズデイという火曜日選挙のシステムによって選挙から遠ざけられていたプア層が自分の力を感じはじめた、ということである。
 『ビーテイフル・サンデイ』すなわち「美しきアメリカを創る日曜日」が押し出されてくることだろう。
 この動き出すキッカケを与えたのがオバマでありトランプだったというわけである。
 これがいわゆる『トランプ維新』ということになる。
 正しくは『オバマ・トランプ改革』である。
 これからのアメリカ大統領選挙はこの改革から逃れられないのではないだろうか。
 つまり、『一人一票選挙』によって、プア層の票がアメリカの未来を決めることになっていくだろう、ということである。
 ちなみにロシアのプーチンはこの形で選ばれている。


ロイター 2016年 11月 11日 13:37 JST  Bill Schneider
http://jp.reuters.com/article/column-us-voters-trump-idJPKBN1360AV?sp=true

コラム:米国民が不適格と思う「トランプ大統領」を選んだ訳

[9日 ロイター] -
 「支配階級を倒せ」──。
 これは次期大統領に共和党のドナルド・トランプ候補を選んだ米国の有権者が送ったメッセージだ。
 怒りと不満、そして反逆がこのメッセージに込められている。
 米大統領選におけるトランプ氏の勝利は、
 従来のあらゆる政治支配を拒否することを意味している。

 各出口調査によると、有権者の60%がトランプ氏に対して批判的な意見をもっていた。
 これは、民主党ヒラリー・クリントン候補の54%よりも高い。
 それでもトランプ氏が勝った。
 また、63%がトランプ氏は誠実でなく信頼できないと答え、クリントン氏の61%を上回っていながら、それでもトランプ氏が勝った。
 トランプ氏が大統領にふさわしいと答えた有権者はわずか38%。
 一方、クリントン氏の場合は52%だった。
 それでもトランプ氏が勝った。
 米国民は大統領にふさわしいとは思わない候補者を選んだのだ。


●米国民の心理

 大接戦となった今回の大統領選では、有権者の半数が現状に激しい拒絶反応を示した。一般投票で両候補は接戦を演じた。
 トランプ氏に一票を投じた有権者の多くは、オバマ政権のリベラリズムに怒りを感じる共和党支持者だった。
 トランプ氏に対し、多くの共和党支持者は不安を抱いており、真の保守主義とは認めていなかった。
 だが最終的には、クリントン氏率いる新たなリベラル政権の誕生を警戒し、トランプ氏に票を投じた。
 結局、共和党支持者の9割がトランプ氏に投票したのだ。

 トランプ氏はまた、白人労働者階級に属する人々を大勢引きつけた。
 彼らの多くはかつて民主党に投票していたが、グローバル化、失業、移民、政治的な公正さといった、自分の国で起きている変化を脅威と感じた。
 トランプ氏の支持者は、同氏が米政府やメディア、共和党指導部に反抗を示したことに感銘を受け、考えを受け入れた。
 例えば、トランプ氏は気候変動を「でっち上げの、金もうけのための業界」だとし、科学にまで食ってかかった。

 「アメリカを再び偉大にする」
というトランプ氏のスローガンは支持者の心に響いた。
 賃金は高く、移民はほとんどおらず、白人男性が社会を回し、世界における米国の地位が揺るぎなかった古き良きアメリカを取り戻したいと望んでいるからだ。
 同氏が勝利宣言を行おうと会場に姿を現すと、支持者は勝利に酔いしれながら「USA! USA!」と叫んだ。

 白人有権者の学歴による投票行動の違いは、今回の大統領選ではとりわけ大きかった。
 2012年の大統領選では、共和党のミット・ロムニー候補への投票は、大卒の白人有権者よりも、非大卒の白人有権者の方が5ポイント多かった。
 それに対し今年の選挙では、その差は18ポイントに拡大し、
 トランプ氏に投票した非大卒者と大卒者の割合は3対1(67%対28%)となった。

 今年の大統領選で何が起きたかは地図を見れば一目瞭然だ。
 民主党は北東部と西海岸の州を制したが、オハイオ、ペンシルベニア、ウィスコンシン、アイオワの4州では、今回は共和党のトランプ氏が勝利した。
 これら「ラストベルト(さびついた工業地帯)」と呼ばれる中西部・北東部地域の州には、労働者階級の白人有権者が多い。

 トランプ氏の勝利は、まさにポピュリズムだと言える。
 その中核には反エリート意識がある。
 クリントン氏がトランプ氏の支持者を「みじめな人たちの集まり」と呼ぶと、彼らは立ち上がり、怒りを表した。

 トランプ氏の勝利を衝撃をもって受け止めた他国に対しても、彼らは同様の態度を示した。
 ある英国のラジオコメンテーターは、母国でのトランプ評を聞かれると「むかつく」と答えた。
 大統領選の各世論調査はなぜ外れたのか。
 その主な原因として、トランプ氏の支持者はクリントン氏の支持者よりも熱心であったことが挙げられる。

 トランプ氏の支持者を駆り立てたのは変化への渇望だった。
 大統領候補に何を望むかについての調査では、
 39%の有権者が「変化をもたらすことができる人」と答え、最も多かった。
 そして、変化を望むとした有権者の実に83%がトランプ氏に一票を投じたのだ。

 トランプ氏が変化の象徴である理由はいたってシンプルだ。
 同氏がオバマ大統領と正反対であるからだ。
 トランプ氏ほど、オバマ大統領と異なる人物を他に思いつくのは難しい。
 オバマ氏は慎重で、熟考し、知識豊かで、政治的公正さを兼ね備えている。
 一方のトランプ氏は品位に欠け、自慢好き、無知で、傲慢(ごうまん)である。
 オバマ氏は多方面から称賛を集めている。
 だが同時に、無力だと見られてもいる。
 支持者の多くは、同氏が約束した「希望と変化」をもたらすことに失敗したことを不満に思っている。
 故に、現行の体制側の候補と見なされたクリントン氏に熱狂するのは困難であった。
 スキャンダルに悩まされたことも痛手だった。
 トランプ氏の支持者にとって、同氏は実行力のある強いリーダーとして映る。

 あまりに予想外の勝利であったため、トランプ氏は議会から多くを引き出せるかもしれない。
 同氏のおかげで、共和党は上院・下院の両方で過半数を死守することができたのだ。
 その結果、ある負託が生まれた。
 どのような負託かというと、オバマ大統領が行ってきた、医療保険制度改革法(オバマケア)や移民制度改革、環境規制やイランとの核合意といった数々の政策を全て廃止するという約束を、トランプ氏が果たすことである。

 有権者は「反オバマ」を選択した。
 そしてそれはオバマ氏を取り消してそれ以前に戻すための負託として受け取られることになるだろう。

*筆者は米ジョージ・メイソン大学政治学部の教授、カリフォルニア大学ロサンゼルス校のコミュニケーション研究分野の客員教授を務める。
*本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。



ロイター | 2016年 11月 12日 14:17 JST  Peter Apps
http://jp.reuters.com/article/trump-world-column-peter-apps-idJPKBN1360FG?sp=true

コラム:ようこそ「ドナルド・トランプ」の世界へ

[9日 ロイター] -
 もう私たちにもわかっている。1月20日の大統領就任式後まもなく、アメリカの新たな最高司令官が、初めて大統領執務室の椅子に座ることになる。
 ドナルド・トランプ氏はふんぞり返り、多くの歴史が刻まれた室内を見渡し、そして何らかの形で、自分の痕跡を世界に残すだろう。
 第45代合衆国大統領はこれまでとは少し違う、と言うだけでは、ひどく遠慮がちな表現になってしまう。

 共和党のトランプ氏は、アイゼンハワー以来となる、選挙による公職を経験したことのない大統領である。
 しかも、米軍におけるアイゼンハワーの経歴は、トランプ氏の不動産開発やテレビのリアリティ番組での経験とは大きく異なっている。
 トランプ氏は、近年の米国史のなかでも最も分断された国を引き継ぐことになる。
 しかも、彼がトップの座に就くのは、グローバル規模で地政学的緊張が高まっている時期なのだ。

 民主党のヒラリー・クリントン氏は、大統領の座をめざすに当たって、選挙運動の大半をトランプ氏のこうした問題点を指摘することに費やした。
 これほどリスクが大きい時期に、
 米国が必要としているのは、連邦政府と国際外交がどのように動いているのか、その機微を熟知した専門家である、
と彼女は主張した。
 しかし米国の有権者はそうは考えず、舵取り役はトランプ氏に託された。

 では、彼はどのように采配を振るうのだろうか。
 その手掛りは、今のところ、控えめに言っても混乱している。
 明らかに彼は自分の能力に相当の自信を持っている人間であり、「自分こそが大統領である」という実感を味わいたがるのは確かだ。
 だが、そのように行動するためには、かなり唐突なスタイル変更が必要になるだろう。
 他国の首脳たちと協議する間でも、これまで通り、思うことを何でもツイートし続けるのだろうか。
 もちろんそれも可能だが、トランプ氏はもっと伝統的なアプローチを選ぶ可能性がある。

 世界各国の首脳の多くが、今後数週間のうちにトランプ氏との接触を求め始めるだろう。
 ほとんどの首脳は選挙期間中はできるだけ距離を置くようにしていた。
 一部の首脳は今後もトランプ氏のことを政治的に有害であると考えるだろう。
 しかしこういう結果になった以上、トランプ氏と関わっていく以外の選択肢はない。
 世界各国の権力中枢では、当局者たちが懸命に今後の米国政治のゆくえを解明しようと試みるだろう。

 ロシアのプーチン大統領でさえ、状況がどこに向かうのかを、はっきりと把握していないかもしれない。
 米当局者が信用に値するならば、プーチン政権下の情報組織がトランプ氏を支援しようと、より正確にはクリントン氏の当選を阻止しようと、積極的に選挙戦に介入していた可能性がある。
 しかしだからと言って、いまや政治家に転じた予測困難なことで知られる大物実業家との関係が最終的にうまく行くかどうか、プーチン氏にわかっているとは限らない。
 トランプ氏とプーチン氏の「親密な関係」(あるいは少なくとも、利害と自己愛の重なり)からすれば、米ロ関係の本当の「リセット」があるかもしれない。
 とはいえトランプ氏は、友人やパートナーと仲違いし、深刻な遺恨を抱く例が多いことでも有名だ。
 事態がどのような方向に進んだとしても不思議はない。

 米国の同盟国はすでにはっきりと神経を尖らせている。
 欧州・アジアでは、トランプ氏が域内の主要国について「自国防衛を米国に依存しすぎている」と批判しているだけになおさらだ。
 トランプ政権がロシア・中国政府と新たな協定を締結する可能性も残されており、それは両国の地域的な野心をこれまでより許容するものになりかねない。
 だが、タフな指導者として見られたいという欲求もあろう。
 彼は予測不可能な人間であることを誇りにしている。
 ただしこれは、競合する超大国間の核戦争のリスクが浮上している時期にあっては、必ずしもポジティブに評価すべき性質とは言えない。

 伝統的に、貿易に対して開放的であることが、主要国どうしが争いを回避する重要な安全弁の1つとされてきた。
 だがトランプ氏としては、
 中国からの輸入を抑制し、
 彼の言う「通貨操作」をやめさせるという公約を守る以外には、ほとんど選択肢がないかもしれない。
 これでは対中関係の改善は厳しいだろう。

 米国は中東における多くの紛争に深く関与している。
 トランプ氏がこれにどう対応するかはまったく不透明である。
 過激派組織「イスラム国」に対する軍事行動強化には好意的だが、国家構築の方法については関心を示さない。
 その一方で、拷問やテロリスト家族の殺害に関する発言は、明らかに軍関係者の動揺を誘った。
 こうした問題は就任初日から処理しなければならず、どう対応するか迅速に判断する必要があるだろう。
 優先課題のトップに来るのはシリア問題だろう。
 トランプ氏は恐らく、少なくとも当面は、ロシア、そしてシリアのアサド大統領の行動を黙認する可能性が高い。
 だが長期的には、多くの歴代大統領と同様に、結局のところ中東問題に引きずり込まれる可能性もある。

 クリントン氏が大統領選挙に勝利していたとすれば、彼女にとっての難題の1つは、選挙戦のあいだ新政権におけるポストを求めて群がっていた多数の大統領顧問志望者を絞り込んでいくことだっただろう。
 だがトランプ氏は、正反対の難題を抱えている。
 もっとも、いまや大統領の座を獲得した以上、これまでよりも積極的に彼の呼びかけに応じてくれる共和党関係者は見つかるかもしれないが。
 とはいえ、こうした党関係者とうまくやっていくためには、やはりスタイルの変更が必要になってくるだろう。
 トランプ氏は、ごく少数のアドバイザーや信奉者とともにやっていくスタイルで知られている。
 ホワイトハウスにおいても、そのスタイルで執務することも不可能ではないが、必然的に、多くの問題があっさり無視されることを意味する。

 さらに、残念ながら米国民の約半数と、世界各国のほとんどの人々が、トランプ氏に対してきわめてネガティブな印象を抱いているという無視できない問題がある。
 自己愛の強いガキ大将と思ってもらえるならいい方で、最悪の場合、きわめて危険な人物と見られている。
 勝利演説では「すべての米国民にとっての」大統領として行動すると約束したことが、こうした溝を埋める手始めだったかもしれないが、より多くの努力が必要だろう。

 トランプ氏に投票した人々は、彼が各コミュニティの直面する複雑きわまりない多くの問題を解決できるものと期待している。
 特に白人労働者階級の有権者は、米国のこれまでの変化、特に民族構成の変化がとにかく気に入らない。
 これまで以上に社会の亀裂を深めることなく、彼らの懸念を認めていくことは困難だろう。
 何しろトランプ氏の選挙運動が、そうした亀裂を深めてしまったのだから。

 新大統領は、就任初日から以上のような問題に取り組んでいかなければならない。
 彼がうまくやっていくことは、すべての人の利益である。
 彼の勝利が何かを示唆しているとすれば、他でもない、この不安定な現代において、本当に考えられない事態など1つもないということなのだ。

*筆者はロイターのコラムニスト。元ロイターの防衛担当記者で、現在はシンクタンク「Project for Study of the 21st Century(PS21)」を立ち上げ、理事を務める。



NEWS ポストセブン 11/13(日) 7:00配信
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20161113-00000007-pseven-int

中国紙 トランプ当選に「アメリカの文化大革命」
 トランプ大統領誕生を中国はどう報じたか

 中国共産党機関紙、人民日報系の環球時報(電子版)は社説で、ドナルド・トランプ氏が大方の予想を裏切って当選した米大統領選について言及。
 「これは『政治的な造反』である、米国の『文化大革命』だと言う人もいる」などとして、米大統領選でサプライズが現実化したことの衝撃の大きさを中国の政治的な大動乱である「文化大革命」と表現した。

 同紙の社説は、「米国の『文化大革命だ』」としたうえで、
 「誇張表現だが米国政治の一側面を表している」
と指摘。
 米中関係の焦点が
 「地政学上の争いから経済利益の衝突へと変わるかもしれない」
と予測している。

 これに関連して、ネット上の書き込みでは、
 「今回の大統領選挙は、中国からみれば、まさに面白い映画のようなものだった。
 選挙期間中、アメリカが分裂し、国内の争いが絶えず、もはや今後は破滅していくさまがリアルに見えてきた。
 これからは中国の時代だ」
という河南省鄭州市在住の読者の声もある。

 また、トランプ氏については
 「世界でも最も成功した人生の勝者だ。
 本人は富豪の2代目で、貧しい生活をしたことがないが、自らもコツコツと努力して数億ドルを稼いだ。
 3回も結婚し、美人の妻を持ち、きれいな娘と可愛い息子がいる。
 さらに、世界でもっとも発達した国の大統領となるなど、これ以上ないほどのラッキーな人物だ」
との黒竜江省チチハル市在住の読者の書き込みが紹介されている。

 一方、敗れたヒラリー・クリントン氏については、
 「ヒラリーの疑惑については徹底的に調査して、逮捕してしまえ」
との広東省仏山市の読者の声が書き込まれている。

 中国人にとって、アメリカンドリームの実現を主張するトランプ氏は「中国の夢」を呼びかける習近平国家主席とオーバーラップしているようで、それなりに共感の声が寄せられている。
 一方、ヒラリー氏の場合、日ごろの中国に対する姿勢が厳しいことから、中国の人々にとって好感度は低いようだ。



THE PAGE 11/13(日) 16:00配信
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20161113-00000004-wordleaf-int&p=1

トランプ氏勝利で抗議デモ 
民主主義は機能不全なのか?

 米大統領選が10月8日(現地時間)に行われ、共和党のトランプ候補が当選したというニュースが世界を駆け巡りました。
 トランプ氏の失言・暴言だけでなく、その過去の女性スキャンダル、そしてクリントン氏の私用メール問題や健康不安など、今回の米国大統領選挙は史上まれにみるほどのスキャンダルとネガティブキャンペーンに彩られたものでした。
 さらに、トランプ氏の当選には、私自身を含めて「まさか」という感想を抱いた人が少なくなく、米国では選挙後も反トランプの抗議デモが頻発しています。
 今回の米大統領選をみれば、民主主義が機能不全に陥っているという見方が生まれても不思議ではありません。
 今回の選挙から、民主主義の意味をあらためて考えてみます。
(国際政治学者・六辻彰二)

■もともと内包していた問題が表面化

 まず、重要なことは、「民主主義が決して万能でない」ということです。
 「多数者の意思を全体の意思として扱う」という民主主義の理念は、現代の西側先進国では「普遍的価値観」とみなされます。
 しかし、後の世に「世界の四聖人」のうちの二人に数えられるソクラテスやイエスが多数者の意見で処刑されたように、「多数者が常に正しいと限らない」ことは確かです。
 そのため、欧米諸国でも近代にいたるまで、民主主義は「多数者の暴政」を生むものと警戒されていました。
 フランス革命で、「多数者の意思」が優先された結果、革命に反対する人々の生命や権利が簡単に否定されたことは、これを象徴します。
 1933年、当時世界で最も民主的といわれたワイマール憲法のもとにあったドイツでの総選挙でナチスが勝利したことも、民主主義が「多数者の暴政」を生んだ点で共通します。
 これらに鑑みれば、今回の選挙で「二人の嫌われ者」が勝ち上がったこと自体、民主主義が抱える欠陥を示すといえます。
 つまり、今回の大統領選挙とその結果は、「民主主義がもともと内包している問題が表面化しただけ」ともいえるのです。

■期待が高かった「チェンジ」への失望

 それでは、なぜ米国の有権者はトランプ候補を選んだのでしょうか。
 移民排斥など排外主義的な主張を展開し、保護貿易を認める発言を繰り返したトランプ氏の躍進の最大の原因としてよく取り上げられるのは、「白人の中間層や低所得層の不満」です。
 ただし、クリントン氏が勝利した州が、所得水準が総じて高く、エスタブリッシュメントが集中する東部諸州や、西海岸諸州にほぼ限られていたことから、
 「不満」は白人の中間層や低所得層だけでなく、米国社会全体に広がっている
とみた方がよいでしょう。


●[図]米国経済のパフォーマンス

 オバマ政権が誕生した時、米国の有権者の多くは「チェンジ」を期待しました。
 上図で示すように、2008年のリーマンショックを挟んで、オバマ政権誕生の直前の時期と比べると、その後の米国の経済パフォーマンスは総じて改善してきました。
 しかし、「チェンジ」への期待が大きかっただけに、「そこそこの」パフォーマンスは米国市民の失望を招いたとみられます。
 また、世界銀行の統計によると、2007年に41.75だったジニ係数は2013年には41.06で、格差が高い水準で維持されたことも、これに拍車をかけたといえるでしょう。

■現状を「リセット」のメッセージ

 それだけでなく、オバマ政権時代には、米国のこれまでのあり方を大きく「チェンジ」させる施策も相次いで導入されましたが、それが国内から反発を招くことも少なくありませんでした。
 同性婚の合法化や国民皆保険を目指した医療制度改革は、その典型です。

 さらに、オバマ政権は一国主義的なブッシュ政権への批判から国際協調を重視する外交を展開しましたが、中ロの台頭を受けて、シリア情勢などをめぐる対応で米国がリーダーシップを発揮することはできず、「弱腰」という批判も招きました。

 経済パフォーマンスや国民生活が期待ほどには改善されず、その一方で価値観が多様化して社会のあり方が大きく変容し、さらに国外で米国がかつてもっていたリーダーシップが衰退する状況は、米国市民に現状への「不満」を増幅させたとみられます。

 その中で勢力を広げたトランプ氏の主張には、イスラム教徒、不法移民の代表格であるメキシコ人、「不公正な貿易を行う」日本や中国をスケープゴートとする、排外主義的、保護主義的なトーンが強いものでした。
 これに加えて、トランプ氏はワシントンとウォール街を「現状を生み出したエリート層」として描き出し、自らを「普通の人々の代弁者」と位置付けました。
 その「一般の感覚」によって現状を「リセット」し、かつて米国がもっていた軍事的、経済的、政治的な優位を回復するというメッセージが、多くの米国市民を引き付けたといえるでしょう。

 閉塞感が漂うなかで、既存のエリート層を批判し、かつての栄光のイメージを理想化して現状の「リセット」を求める機運は、英国のEU離脱をめぐる国民投票にも共通するものです。
 また、日本をはじめ、多くの西側先進国で既存の政党への不信感が高まるとともに、ナショナリズムが高揚する状況も、これに通じます。

■爆発した「不満」が最善の結果もたらすか?

 ただし、「多数者の意思」を前面に掲げるこの「リセット」を求める機運は、既に認められている少数者の権利や立場を否定するものにも繋がります。
 米国の場合、イスラム教徒の入国制限が「移動の自由」を制限するものであることは確かです。
 また、トランプ氏がLGBTへの嫌悪感を隠さなかったことは、これら性的少数者への差別を助長することも懸念されています。

 また、トランプ氏は在日米軍の縮小をはじめ、海外での米軍の展開を控え、各国が自己責任で防衛を行うことや、TPP(環太平洋経済連携協定)からの離脱を主張しています。
 冷戦後、米国は圧倒的な軍事力と経済力をもって世界の秩序を形成してきました。
 しかし、トランプ氏の方針がもし実行されれば、それは米国が超大国の座を降りることに他ならず、国際的にも大きな動揺をもたらすとみられます。

 したがって、米国市民が日常的に感じている「不満」をそのまま投票行動に反映させた今回の大統領選の結果が、最善の結果をもたらすかは疑問です。
 「多数者が常に正しいと限らない」ことからすれば、それは当然ともいえます。
 一党制の中国は、今回の大統領選挙を「米国型のシステムの限界」と大々的に宣伝してきました。
 経済パフォーマンスだけを優先するなら、選挙や民主主義は不要ともいえます。

■トランプ氏を交代させられるのも民主主義

 しかし、それによって民主主義への懐疑を深めることは、生産的とはいえません。
 「不満」などの感情に左右されやすいなどの問題を抱えているとはいえ、民主主義には他の政治体制にはないアドバンテージがあります。
 それは、「行き詰ったときに軌道修正することが可能」なことです。

 一党制や軍事政権のもとでは、効率的に経済成長が実現できるかもしれませんが、一旦スランプに陥った時、政府が全権を握っているために、方向転換が困難です。
 そのため、政府への不満を力で抑え込んだり、無理な景気刺激策で財政赤字を膨らませたりしがちです。
 これに対して、定期的に選挙が実施される体制のもとでは、政府の決定や行動に問題がある場合、政府を交代させることができます。

 第二次世界大戦で英国を勝利に導きながら、大戦末期の選挙で敗北したチャーチルは、 
 「民主主義は最悪の政治形態だ。
 ただし、これまでに試された他の政治体制を除けば」
と述べました。
 民主主義の限界を見据えた、この割り切った感覚は、民主主義への過剰な期待や、期待が外れたときの反動を抑えることで、「現状のリセット」という単純な思考を生みにくくするといえます。
 それはむしろ、民主主義の持続性を高めることに結びつきます。

 トランプ氏が公約をどの程度実行するかは、未知数です。
 選挙中の公約の多くは実行すれば大きな混乱を生むであろうことは確かですが、何もしなければ自らの立場にもかかわります。
 ただし、その結果として問題が大きくなった際、彼を交代させられること自体に、民主主義の価値があります。
 「まだまし」という感覚がある限り、民主主義に全面的に失望するには早いといえるでしょう。

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■六辻彰二(むつじ・しょうじ) 国際政治学者。博士(国際関係)。アフリカをメインフィールドに、幅広く国際政治を分析。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、東京女子大学などで教鞭をとる。著書に『世界の独裁者』(幻冬社)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、『対立からわかる! 最新世界情勢』(成美堂出版)。その他、論文

 自分の意見が通らなかったからといって、横やりを入れて暴力的に行動を起こすヤカラの意見は民主主義とは言えない。
 単に自己への分け前の低さを行動のよりどころにしているだけだろう。
 完全なものなどないからこそ、民主主義があるのではないだろうか。
 もし、完全なものがあれば、人はそれを選択しているはずである。
 「まだ、まし」であるからこそ民主主義は機能する。
 「トランプ反対」よりも時代遅れになり国民とのギャップのい開いた「選挙制度改正」を目指した政治活動をすべきであろう。
 すくなくとも「まだましな選挙システム」を目指すべきではないだろうか。