ロシアがクナシリにミサイルを配置したことにより、日本・ロシアの平和交渉は挫折に終わった。
領土問題が終了しなければ平和条約は締結されない。
領土問題とは国境線の画定である。
クナシリにミサイルが配備されたことにより、「三島返還」で手打ちされるという思惑は破たんした。
状況は元のままだということである。
日本にとっては現在の状況が今後も続くということである。
変化はない。
ロシアにとっては日本との交渉の断念は何をもたらすのであろうか。
ロシアには産業がない。
あるものといえば石油・天然ガスの輸出と、武器の輸出という2本だけである。
プーチンの時代は原油高騰の時代であり、ロシアが潤った時代でもある。
しかし、今石油価格は低迷している。
なぜか。
アメリカ国内でシェールガスが産出されたことによる。
この結果、オバマは「アメリカは世界の警察官をやめる」というなんとなくもっともらしい名目で中東からの足抜きを実行した。
アメリカは中東での警察官でもなんでもなかった。
ただ中東の石油がほしかっただけのことである。
だから中東に介入した。
警察官という態度で。
しかし、国内で石油が獲れれば中東のような金食い虫はいらない。
さっさと引き上げるのが上策ということになった。
さらにこの結果何が起こったか。
アメリカの利益のために軍事力をもって抑えられていた中東の圧力蓋が抜けた、ということになる。
これまで中東はユダヤ対アラブの対立図式で語られてきた。
しかし、アメリカが抜けたことで、アラブすなわちイスラムの内ゲバが発生した。
イスラム国の誕生になる。
アメリカがいれば、これを抑え込んだであろう。
しかし、アメリカはさっさと抜け出てしまった。
内ゲバは難民を生み出し、これがヨーロッパを脅かすことになる。
つまり、シェールガスはアメリカを内政化させ、中東をイスラム内ゲバを誘発し、ヨーロッパを難民の渦に巻き込んだ。
さらには、石油の暴落によって豊かだったロシア経済が下降線をたどることになった。
さて、ここから見える未来はどのうようになるのであろうか。
イギリスのEU離脱は、ドイツの難民受け入れは、ロシアはどう動くのが正解か。
日本とロシア、この果てしない闘争にプーチンは終止符を打てるのか。
日本にとって北方領土はすでにないものであるが、ロシアにとっては今所有している資産である。
それをどうするか。
小を捨てて、大をとるか。
小を抱え込んで、大かもしれない明日を失うか。
難しいところである。
ロシアには産業がない。
日本には産業しかない。
小を捨てる気にプーチンはなるだろうか。
まずは無理だろう。
『
毎日新聞2016年11月22日 23時14分(最終更新 11月22日 23時14分)
http://mainichi.jp/articles/20161123/k00/00m/030/127000c
北方領土に最新鋭ミサイル配備 国後と択捉に
【モスクワ杉尾直哉】インタファクス通信は22日、ロシア軍が北方領土の国後島と択捉島に沿岸防衛のための最新鋭ミサイルシステムを導入したと報じた。
露太平洋艦隊の機関紙の情報を引用して伝えた。
ショイグ国防相は今年3月、千島列島にこうしたミサイルを導入する計画を表明したが、北方領土への配備が明らかになったのは初めて。
日露間では12月のプーチン大統領訪日へ向けた平和条約交渉が活発化。
北方領土を自国領と位置づけるロシアには、国後・択捉両島の戦略的重要性を改めて強調する狙いがありそうだ。
報道によると、択捉島には短距離ミサイルシステム「バスチオン」(射程350キロ)、国後島には「バル」(同120~260キロ)が配備された。
バスチオンの部隊は現在、発射演習の準備を進めているという。
ショイグ国防相は今月15日、シリアのロシア軍駐留基地を守るため、バスチオンを配備したとプーチン大統領に報告していた。
』
『
オピニオン 2016年11月24日 23:55(アップデート 2016年11月26日 03:39) 短縮 URL
https://jp.sputniknews.com/opinion/201611243045889/
なぜロシアは択捉・国後にミサイルシステムを配備した?
リュドミラ サーキャン 104676335 ロシア大統領府のペスコフ報道官はクリル諸島へのミサイルシステム配備について、露日間の関係発展に影響が出てはならない、と述べた。
日本の菅官房長官は、プーチン大統領の訪日準備にも日露間交渉にも影響は出ない、との考えを示した。
一方、防衛省防衛政策局長の前田哲氏は、クリル南部への地対艦ミサイルシステム配備はロシア艦隊の太平洋への展開を確実化するものであり、極東におけるロシア戦略潜水艦部隊の行動圏を確保するためのものである、という見解を示している。
22日、太平洋艦隊の公式新聞「軍事当直」の報道で、沿岸用ミサイル複合体「バル」と「バスチオン」がクリル諸島のイトゥルプ(択捉島)、クナシル(国後島)両島に配備されたことが明らかにされた。
配備の正確な日時は明らかにされていないが、これが2011年に始まった一連の配備計画の一部であるのは明らかだ。
それは、極東に、沿海地方南岸から北極に至る統一沿岸防衛システムを創設するという計画である。
23日には岸田外務大臣が声明を出し、日本は事情を調べてしかるべき措置をとる、と述べた。
来月プーチン大統領が訪日することを考えると、南クリル岩礁の二島に現代兵器を配備するというのはあまり時宜を得た行動とは言えない、と一部のメディアは報じている。
が、高等経済学院・総合ヨーロッパ及び国際研究センターのシニア研究員で、極東研究所の主任研究員でもあるワシーリー・カーシン氏は
「これは計画通りのことであり、単に諸島における軍事ポテンシャルを低下させないために行われることである。
日本はもう長いこと、ロシアを潜在的な敵国と見なしてはいないし、今、日本との関係は非常に良好に推移している。
しかし南クリルはやはり係争領土であり、そこに軍部隊は保持されるのだ。
次世代兵器は計画通り、南クリル全域に配備されていくことになる」
と話している。
また、極東研究所日本研究センター長ワレリー・キスタノフ氏も、北東アジアの安全保障環境について語った。
「今、軍拡競争が起きており、緊張が高まっている。領土問題を含め、大量の二国間係争があり、それぞれ緊迫化している。
北朝鮮の核実験は日米韓の三角形による軍事協力の強化の口実になっている。
韓国に次いで日本にも米国の対ミサイルシステムTHAADが配備されるという話もある。
ロシアが極東における防衛ポテンシャルを強化するのは、主に米国のこうした計画を警戒してのことだ。」
極東研究所日本研究センター上級研究員ヴィクトル・パヴリャチェンコ氏はスプートニクに対し、日本は今回のことをあまり心配しなくてよい、と語った。
「なぜ他ならぬ今、このような騒ぎが突如持ち上がったのか。
ロシアの東の国境付近における安全保障について決定が下されたのは1年前のことで、公式にも発表されていた。
二島へのミサイルシステム配備は、ロシア軍の再装備及び国防ポテンシャル強化戦略の枠内で行われていることだ。
1990年代から現在まで、ほとんど本格的な兵器はなかった。
今問題になっているミサイルは防衛的なもので、これを攻撃用に作り変えることはできない。
もちろん国境強化の意向は主権強化の願望を意味する。
しかし、それは、1956年にソ連と日本の間で結ばれた条約をはじめとする国際条約の枠内で、我々が日本と交渉を行えない、ということではない。」
日本の専門家の見解はどうか。東京財団研究員で、ロシア政治に詳しい畔蒜泰助氏は次のように指摘している。
「この計画そのものはロシア国防省によって今年3月に発表されており、『年内には実施する』ということも併せてオープンになっていた。
その意味では、事前の計画が実施されたにすぎないと言える。
一部の日本の報道にあるように、プーチン大統領の訪日を目前にしたタイミングで、ロシア側がミサイル配備をぶつけてきた、というわけではないし、日本政府はこの点を理解している。
ただし、日本の世論は別だ。
それでなくても、先日のペルー・リマにおける安倍首相とプーチン大統領の会談で、特に領土問題に関しては、日本国民は『あまり期待している通りの方向には進んでいないようだ』という感触を受けている。
そのタイミングでミサイル配備の報道があったために、さらに世論が過敏に反応する可能性がある。
ぺスコフ大統領報道官も発言していたが、ミサイル複合体の配備が日露関係進展の流れに水を差すべきではない。
日本の世論に影響が出ているのは確かだが、日露政府の間でちゃんとしたコミュニケーションがなされていれば、悪影響は最小限にとどめられるだろうし、そのように努力すべきであると考えている。」
ペルー・リマにおけるAPECでプーチン大統領は、ロシアと日本の間に平和条約がないことは時代錯誤であり、それが両国の前進を妨げている、との見解を示した。
「ロシアも日本も平和条約締結を誠実に望み、どうすればそれが叶うか、方法を探している。
ひとつ確かなことは、この志向をあらゆる手を尽くして支持しなければならない、ということだ」
とプーチン大統領は述べた。
興味深いことに、南クリル諸島におけるミサイルシステム配備のニュースは今日に至っても、ロシア国防省公式サイトに掲載されていない。
』
『
JB Press 2016.12.2(金) 渡部 悦和
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/48550
ソ連崩壊と同じ道を再び歩み始めたロシア
ロシアとの安易な提携は禁物、経済制裁の維持強化を
●ロシア・モスクワの「赤の広場」上空を飛行するツポレフTU-160型爆撃機〔AFPBB News〕
■「大国ロシアの存在誇示戦略」を展開してきたプーチン大統領
米国にとって死活的に重要な地域は、欧州、西太平洋、ペルシャ湾であるが、この3つの地域においてロシア、中国、イランおよびイスラム過激主義集団などがルールに基づく秩序を無視した行動を繰り返していて、米国は困難な対応を余儀なくされている。
本稿においては、欧州や中東においてトラブルメーカーとなっているロシアで起こっている大きな変化に焦点を当てた考察を実施したい。
ウラジーミル・プーチン大統領は、攻撃的な対外政策―私の表現としては「大国ロシアの存在誇示戦略」―を展開してきた。
プーチン大統領の決断や行動の根底には、ソ連崩壊直後から味わってきた欧米諸国に対する屈辱感がある。
冷戦時代におけるソ連は、米国とソ連の2極構造の中で大国としての存在感を思う存分発揮してきた。
しかし、冷戦に敗北し、ソ連の崩壊を受けてロシアが誕生したが、そのロシアは、欧米諸国から軽く見られ、かつて存在感のあった大国ロシアの面影をなくしてしまった。
愛国者プーチン氏にとっては、大国ロシアの復活は最優先の課題であった。
彼が選択したのは強いロシアの復活であり、2012年の大統領再選以降、急速に国防費を増加させ、軍の増強を図ってきた。
当時の原油価格上昇の追い風にも助けられ、ロシア軍の増強には目を見張るものがあり、その軍事力を背景として彼の「大国ロシアの存在誇示戦略」が展開されてきた。
例えば、2008年のジョージア侵攻、2014年のクリミア併合に引き続き、ロシア周辺地域(バルト3国、ポーランドなど)でNATO(北大西洋条約機構)加盟国に脅威を与えている。
また、シリアにまで戦力を派遣し、中東におけるロシアの権益を保護するとともに大国としての存在感を誇示している。
しかしながら、次々と攻撃的な対外政策をとってきたプーチン大統領の戦略にも限界が見えてきた。
ロシアの軍事力は、2015年をピークとして右肩下がりの可能性が高くなってきたのだ。
冷戦時代のソ連は、その経済規模に不釣り合いな軍事力の増強を推進し、国家自体が崩壊してしまったが、現在のロシアも似たような道を歩んでいるように思えてならない。
プーチン大統領の急速な国防費の増大を背景とした戦略により、ロシアが軍事大国であることを世界に誇示することができたし、世界の諸問題の解決にロシアは無視することができない存在であることも世界が受け入れたと思う。
しかし、ロシアのGDP(国内総生産)は、各種資料によると、米国、中国、日本に劣るのみならず、世界10位前後にまで落ちてしまった。
経済力で米国や中国に圧倒的に劣るロシアが、大国としての存在感を誇示し得たのは、急速な軍事力の増強とその軍事力を効果的に使うプーチン大統領の巧みな戦略に負うところが大きい。
しかしロシア経済の低迷のために、ロシア軍事力の低下は始まっているのだ。プーチン氏の「大国ロシアの存在誇示戦略」の限界が見えてきた。
■2015年をピークにロシアの軍事費の減少が始まる
豪州戦略政策研究所(ASPI*1)の研究者であるジャメス・マグ(James Mugg)は、ロシアの国防費に関するリポート*2の中で図1「ロシアの国防支出」を提示し、ロシアの国防費が2015年をピークとして右肩下がりになると予想している。
●図1「ロシアの国防支出」 出典:脚注2と同じ
今年10月、ロシアの財務大臣は、国防費を2018年までに12%削減すると発表した。
その発表を受けて作成されたのが図1である。
折れ線グラフは国防費の額で棒グラフは国防費の対GDP比である。
ロシアの国防費はジョージア侵攻を開始した2012年頃から急激に増加し、2014年のクリミア併合を受けて2015年にピークを迎えた。
しかし、国防費も対GDP比も2015年をピークに徐々に低下する予想である。
*1=ASPI(Australian Strategic Policy Institute)
*2=“Russian defence spending: it’s the ekonomika, stupid” https://www.aspistrategist.org.au/russian-defence-spending-ekonomika-stupid/
この事実は、プーチン大統領が行ってきた「大国ロシアの存在誇示戦略」の先細りを意味し、今後の国際情勢を占ううえで、また日本の対ロシア政策を考える際に様々な示唆を与えてくれる。
ロシア軍事費の削減は、ロシアが陥っている経済的苦境の当然の結果である。
米国のバラク・オバマ大統領の対外政策には数々の失敗例があるが、ロシアに対する経済制裁(クリミア併合を契機として発動された)は数少ない成功例だと言える。
この経済制裁は、原油価格の暴落と相まって、確実にロシア経済にダメージを与えてきた。ロシアにとって、この経済制裁の早期解除は優先度の高い懸案事項である。
ここで指摘したいのは、対ロ経済制裁を安易に解除してはならないということである。
民主党政権が継続していれば、対ロ経済制裁の早期解除はあり得なかったが、次期大統領のドナルド・トランプ氏は、この経済制裁を解除するかもしれない。
ロシアのクリミア併合が継続したまま、ウクライナ東部における親ロシア派の占領が継続している状況下における経済政策の解除は極めて不適切である。
また、米大統領選挙の結果に影響を与える目的で実施されたロシアによるサイバー作戦は、完全に米国を見くびった作戦であった。
ロシアに対する経済制裁の問題はトランプ次期大統領を評価する試金石になる。
トランプ氏のプーチン大統領を高く評価する発言やロシアのサイバー攻撃を擁護するかのような発言は米国の多くの有識者の懸念事項である。
■ロシアの武器輸出の動向
ロシアの経済にとって重要な要素である武器輸出の動向も紹介する。
クリミア併合やウクライナ東部におけるロシア軍の活動、シリアにおける空爆などの軍事行動は、中国や中東諸国向けのロシア製兵器の輸出には大きな宣伝効果を発揮した。
ただし、欧州諸国はロシアとの武器売買から手を引いていてマイナス要素となっている。
国防産業がロシアの経済にとって不可欠な産業であることを考えれば、ロシア経済に大きな波及効果があったと思われる。
プーチン大統領は、2015年のロシアの武器輸出は140億ドルを超え、外国からの武器購入希望額は560億ドルを超えていると主張している。
図2は「ロシアの各年の武器輸出額」であるが、ルーブル換算では2014年から2015年にかけて1.5倍に急上昇していてシリアにおける空爆などの宣伝効果がみてとれるが、ドル換算では横ばいである(これはルーブルの対ドル安を反映している)。
いずれにしてもプーチン大統領の「大国ロシアの存在誇示戦略」は、この点のみを見れば効果を発揮していると言える。
しかし、新たな問題がロシアの国防産業にも存在することが明らかになっているので紹介する。
●図2「ロシアの各年の武器輸出額」 出典:脚注2と同じ
インターファクス社が8月15日に流した噂―ウクライナ全土の占領を狙ったロシア軍の攻撃が始まるのではないか―という噂は、現実のものにならなかった。
この噂はロシア得意の相手に対する脅威を煽る広報戦の一環である。
既に説明してきたように現在のロシアの経済状況ではウクライナ全土の占領を狙った攻撃は難しいし、欧米諸国の厳しい批判や追加的な経済制裁も覚悟しなければいけない。
戦争を遂行するためには優秀な武器が必要であるが、将来の戦闘に備えた武器の近代化計画が、軍事費の削減傾向の影響で進捗していない。
その典型例が、軍が取得しようとしている中核武器である
「T-14アルマータ戦車」と
「T-50 (PAK FA)第5世代戦闘機」
である。
両方の中核武器のプロトタイプ(原型)のみは存在するが、量産品を取得するまでにはかなりの期間がかかると予想されている。
これは、国防費の削減がロシアの中長期的な軍事力増強計画にも大きな影響を及ぼしている証左である。
例えば、ロシア軍の中長期の戦力増強計画である「国家軍備計画2020」(総額20兆ルーブル、3100億ドルの計画)は、厳しい経済状況や国防費を反映して、5年間延期され、2016年から始まる「国家軍備計画2025」に衣替えした。
ところが、プーチン大統領は、「国家軍備計画2025」を採用するか否かの決定を2018年に延期してしまった。
長期にわたる軍の近代化計画の資金をいかに賄うかという根本的問題がその背景にある。
軍の質的近代化は、2015年の国家安全保障戦略などで宣言されてきたが、その達成は大幅に遅延しそうである。
計画遅延の主たる原因は、国防省と財務省の予算をめぐる対立が大きい。
財務省は「国家軍備計画2025」の予算を20兆ルーブルから12兆ルーブルへの減額を求め、国防省は20兆ルーブルから3兆ルーブル増の23兆ルーブルを要求している。
両者の主張の開きはあまりにも大きい。
国防産業の状況も苦しく、政府からの財政援助を求めている。
ロシアの銀行は、政府からの財政援助を獲得するために、国防産業に破産を要求している。
つまり、破産を脅しとして、政府からの財政援助を獲得せよということである。
ちなみに、T-14アルマータを開発する会社は8月に政府からの財政援助をもらったが、アルマータの部隊への配備は大幅に遅れる模様である。
また、国防産業の構造的な問題、例えば、本来実施すべき改革がなされないで残っている古い体質、腐敗、透明性の欠如、国防産業への査察の欠如などが指摘されている。
つまり、ロシア経済の悪化、国防費の削減、中長期の軍事力整備計画の延期、国防産業への悪影響が連鎖的に生起しているのである。
*3=Roger McDermott, “Moscow Postpones Decisions on State Armameents Program 2025”
■米国のロシアへの対処戦略
以上のようなロシアに対して米国はいかに対処すべきか。
共和党の有力な議員で下院軍事委員長マック・ソーンベリー(Mac Thornberry*4)と戦略の大家である米戦略予算評価センター前会長アンドリュー・クレピネビッチ(Andrew F. Krepinevich Jr*5)の共著による“Preserving Primacy(卓越の維持)”がフォーリン・アフェアーズに発表された。
この論文は、「新政権の国防戦略」として提示されていて、トランプ新政権の国防戦略を占ううえでも重要なので、その概要を簡単に紹介する。
●主たる脅威は中国とロシアであり、イランの脅威は2次的である
過激なイスラム主義が米国の直面する最も切迫した危機ではあるが、中国とロシアは米国の安全保障にとってはるかに大きな潜在的脅威である。
急速に台頭する中国は、米国以外では最大の通常戦力を構築した。
ロシアは、明らかな没落の兆候を示すが、世界最大の核戦力を維持している。
米国は、中国とロシアの脅威に主として備え、2次的にイランの膨張主義をチェックし、過激なイスラム主義グループを抑止するために友好国と支援すべきである。
米国の採用すべき態勢は1.5個戦争態勢であり、
1.5個の「1」は中国への対処を意味し、中国を抑止すること、抑止が失敗した時はこれに対処することである。
「0.5」個は欧州または中東への対処であり、遠征部隊を派遣して対処する。
西太平洋においては第1列島線における前方防衛戦略を追求すべきである。
この際、日本、台湾、フィリピンが安全保障のコミットメント上から大切である。
決して採用してはいけないのは、
★.中国に対する遠距離の封鎖を中心とした戦略や
失った領土を奪還するための動員である。
これらは、同盟国や友好国を侵略や威圧にさらすのと同じである。
そうではなく、十分な戦力(日本とフィリピンへの地上戦力の配置を含む)を前方展開させることにより、米国は、同盟国と一緒に中国の軍事的増強を相殺し、平和を維持すべきだ。
日本、フィリピン、ベトナムにおいては米国の軍事的プレゼンスと支援にますます門戸を開くべきである。
米国が前方防衛態勢を構築するには時間がかかるので、遅滞なく迅速に開始すべきである。
ロシアに対しては、さらなる地上部隊と空軍戦力を東欧の国々に派遣すべきだ。
彼らの任務は、東欧諸国がロシアの代理人たちを使って紛争を引き起こそうとするロシアの試みを抑止することを手助けすることである。
そして、兵器、弾薬、補給品の事前集積を実施し、有事における迅速な対応が可能な状態にすべきだ。
●新たな核の時代(第2次核時代)
ロシアは、ロシアの通常兵器の劣勢を核兵器を使って相殺しようとしている。
そして、1987年のINF条約に違反する兵器を試験している。
ロシアの核兵器には対処が必要であり、米国は、強力な核態勢(究極の安全を保障するもの)を維持しなければいけない。
米国の核弾頭、投射手段、指揮統制システムは、すべてが一挙に陳腐化してしまう寸前まで無視されてきた。
米国は、国防費の5%で核抑止力の近代化を達成できる。
■結言
最後に、軍事費が低下するなど明らかに下り坂のロシアに対して、我が国はいかに対処すべきであろうか。
北方領土問題の解決が典型的だが、今後の対ロ交渉において日本側が拙速に交渉し、成果を求めるやり方は上策ではないと思う。
ロシアの経済は、原油価格の急速な回復でもない限り、長期低迷が続くであろう。
そして軍事費の伸び率0%以下の状況はしばらく続くであろう。
これは日本にとってチャンスであり、ロシアが日本の経済的な協力を真剣に求めてくるのを待ち、実利を取る熟柿作戦に徹するのが上策ではなかろうか。
トランプ新政権の対ロシア政策がいかなるものになるかは極めて重要であるが、私には懸念の方が大きい。
いずれにしろ我が国には、米国、ロシア、中国との複雑な関係を踏まえながら、生き残りをかけ、国益を中心としたしたたかな対応が求められる。
*4=テキサス州選出の共和党下院議員で米下院軍事委員長
*5=ソラリウム代表、戦略予算評価センター前会長で同センターの名誉シニア・フェロー
』
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