2016年12月20日火曜日

習近平に共産党最後の皇帝役をおし付ける中国(3):中国危機は時間の問題、 一党制国家の宿命

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2016.12.20(火)  Financial Times
(英フィナンシャル・タイムズ紙 2016年12月14日付)
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/48700

習近平主席の改革が成功し得ない理由
中国危機は時間の問題、
レーニン主義が強すぎる一党制国家の宿命

 中国の指導部の「核心」という称号を手にした習近平国家主席は、2つの任務を負っている。
 1つは、中国共産党から腐敗を一掃すること。
 もう1つは、経済の改革だ。

 しかし、このレーニン主義政党が支配する腐敗した独裁国家の純化と強化に習氏が力を入れ続けていくと、2つの任務は互いに相いれないことが明らかになるだろう。

 習氏は2014年、中国が直面している困難を次のように表現していた。
 「地方と産業界における腐敗は密接に関係している。
 結託して汚職をはたらく事例が増えている。
 人事における権限の乱用と行政権限の乱用は重なり合っている。
 権力と権力を交換したり、権力をカネと交換したり、権力をセックスと交換したりすることが頻繁に行われている。
 公務員とビジネスマンとの結託、そして上司と部下の結託も絡み合っている。
 お互いに利益を供与し合う方法は秘密にされており、多種多様である」

 この容赦ない告発は、自分を利するためのものかもしれない。
 裴敏欣(ペイ・ミンシン)教授が『China’s Crony Capitalism(中国の縁故資本主義、邦訳未刊)』というよくできた著作で指摘しているように、
 ストロングマン(強権的な指導者)になりたがっている人物は、ライバルを叩きつぶす手段として汚職の嫌疑をよく利用する。
 この手法は非常に効果的だ。
 汚職に手を染めているという指摘は、いかにもありそうな話だからだ。

 裴敏欣教授は中国当局が公表した資料を用いて、なれ合いの汚職がはびこっていることを明らかにしている。
 こうした腐敗は経済をゆがめ、当局を堕落させ、中国共産党から社会的正統性をはぎ取ってしまっている。
 確かに、腐敗はガンだ。とはいえ、何かの偶然でできたわけではない。

 1990年代初め以降の腐敗の爆発的な拡大は、成功している改革の負の側面だった。
 「中国の政治経済における縁故資本主義の台頭と確立は、
 今にして思えば、鄧小平による独裁主義的な経済近代化モデルの論理的な帰結である」
と裴敏欣教授は論じている。
 「なぜなら、何者にも縛られない権力を手にしたエリートは、経済成長によってもたらされた富を、その権力を使って略奪するという誘惑に抗えないからだ」
 腐敗とは、一党制国家と市場の結婚によって生まれる産物だ。
 誘惑、威圧、模倣によって広まっていき、ひとたびそれが常態になってしまうと、システム全体が大きな転換点に達してしまうリスクが生じる。
 習氏が恐れているのは、まさにそうした事態だ。

中国の腐敗に見られる特徴のうち特異なのは、
 富の急増と同時に発生したことだ。
 腐敗が富の急増を妨げることはなかった。
 それどころか、経済成長と腐敗は足並みをそろえて伸びてきた。
 しばらくの間お互いを補完していた可能性もある。
 腐敗が経済成長に燃料を供給し、
 実現した経済成長が汚職の原資を作り出すといった具合だ。

 この時期に中国がとっていた政策の特徴は主に3つある。
 市場の自由化、
 権限の委譲、
 異議を申し立てられる不確かな財産権
の3点だ。
 中央政府がすべての財産を支配する時代は終わったが、安定的な所有権が国民に配分されたわけではなかった。

 中国のように、財産に対する支配力が権利ではなく特権である場合、政治力を持つ人間は自分自身(そして自分がひいきする取り巻き)をとてつもなく裕福にすることができる。
 中国で行われたのは、まさにそういうことだった。
 共産党の役人たちが、自国の政府から貴重な資産(土地、鉱物資源など)を没収し、勝手に自分の懐に入れてしまったのだ。

 その過程では結託する必要があった。
 経済活動に必要な手段――財産と許認可――を1人で支配している例はなかったからだ。
 結託の輪が姿を現すのは必然だった。
 上級幹部(「一把手」と称されるトップのリーダー)が管理する「垂直的結託」もあれば、
 同程度の地位の役人が管理する「水平的結託」もあった。
 民間の起業家が運営するものもあったし、ギャングが運営するものまであった。

 一部の地方では、このギャングの結託により一種の「マフィア国家」が生まれている。
 腐敗は中国共産党の規律維持を担うメカニズム、警護部門、人民解放軍でさえ見つかっている。
 いずれも、一党制国家自体の中核機関だ。

 汚職や腐敗は中国による並外れた経済パフォーマンスを妨げることはなかったという主張を展開することは可能であり、正しくもある。
 だが、そうした自己満足に対する反論が4つある。

★.第1に、腐敗は次第に広がりを見せ、多大なコストをもたらすことが多かった。
★.第2に、国民の教育水準が高まっていろいろな要求が政府に寄せられるようになると、腐敗やそれによる当局の失敗に対して国民は寛容でなくなっていく。
★.第3に、経済成長は減速しており、一部の者が富を掠(かす)め取ることによってその他全員が被る損害はその分だけ大きくなる
★.第4に、経済成長は革新的な起業家精神への依存度を次第に高めつつあるが、縁故資本主義はこの起業家精神を圧迫する公算が大きい。

 しかし、最大の問題は、大変な数の人々を投獄するだけにとどまることなく大きな成果を上げることができるか、だ。
 習氏はこの問いに対し、レーニン主義を強化しながら市場ももっと利用するという答えを示しているように見えるが、これはかなり問題のある組み合わせだ。
 鄧小平が意思決定の権限委譲を推進したのは、それ以外の方法を取るには中国という国が大きすぎるからだった。

経済がさらに複雑化した今、中央集権的な支配はますます機能しなくなっている。
 実際、中央が全政府職員の行動を管理することなどできはしない。
 さりとて、全政府職員に国民への説明責任を負わせるわけにもいかない。
 そんなことをしたら、共産党による権力の独占が崩れ去ってしまうだろう。

 レーニン主義の一党制国家である中国は、ガバナンス(統治)の問題に解決策を提示することができない。
 とはいえ、経済問題に解決策を示すこともできない。
 市場経済と、腐敗がないと見なせる政府を共存させるのであれば、経済主体には、独立した司法機関に守られた法的権利が必要になる。
 だが、これこそ、レーニン主義の一党制国家には提供できないものにほかならない。
 定義上、この国家は法を超越するからだ。

一党制国家は法律を使って統治を行うかもしれないが、法律によって統治されることはあり得ない。
 従って政府の職員は、民間人による法的手段の手が及ばないところにいるのだ。

 その可能性が高く思えるように、レーニン主義の規律の回復と市場の自由化を統合しようという習氏の取り組みがうまくいかないことが判明したら、習氏の体制はこれまで以上に深刻な危機に直面することになる。
 すぐにはそうならないかもしれない。
 だが、最終的には間違いなくそうなるように思われる。

 習氏が今の手法に取り組んだのは、もっともな理由があってのことだった。
 しかし、もっともな解決策を習氏が持っているか否かは、全く別の話だ。

By Martin Wolf
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ウオールストリート ジャーナル  2016 年 12 月 28 日 11:07 JST  By JEREMY PAGE AND LINGLING WEI
http://jp.wsj.com/articles/SB10878553558812384085704582523713150620898

習氏の権力闘争、歴史的転換の前兆(前編)

中国最高指導者は「プーチン式」指導体制を目指すか
習近平中国国家主席は2期目の任期が切れる22年以降も続投するのか。

 【北京】2012年に習近平氏を最高指導者に選んだ中国共産党のエリートは、力強い手綱を切望していた。
  それまでの10年間、胡錦濤国家主席が権力を共有する手法を採ったことで政策は漂流し、派閥争いや汚職を生んでいたからだ。
 そうした共産党の陰の権力者たちは望み通りの、そしてそれ以上のものを手に入れた。

 その後、習氏は4年にわたり自ら経済や軍の指揮を執り、他の権力も掌握。
 1976年の毛沢東死去を受けて独裁防止のために導入された集団統治体制を覆した。
 古いタブーを打ち破り、習氏は党の長老やその親族を反汚職運動の標的にし、8900万人の党員全てに忠誠を求め、「習大大(習おじさん)」の愛称に象徴される父親的なイメージに磨きをかけた。

【習氏は中国で数十年続いた党の集団統治体制をより硬直的な独裁体制に移行できるのか(英語音声、英語字幕あり) Photo: Xinhua News Agency】

 現在、1期目の5年の任期が終わりに近づくなか、習氏が来年の後継者候補の昇格を阻止しようとしているとの声が党内には多い。
 これは、習氏が69歳となる22年に2期目の任期が切れた後も続投したがっていることを示唆する。
 首脳陣と日常的に接触している党幹部によれば、国家主席であり、党総書記であり、中央軍事委員会主席である習氏は、22年以降も「続投し」、「まさにプーチン式の」指導体制を探ろうとしている。

 時代を特徴付ける経済ブームが陰り始めるなか、権力拡大を目指す習氏の動きは短期的には政治の安定をもたらすかもしれない。
 ただ、毛沢東の死去以降に育まれ、政府の柔軟性と定期的かつ秩序だった権力移行を保証してきた慣習を覆す恐れがある。
 中国は複雑な経済の運営に適さない硬直的な独裁体制に向かいつつあるとの懸念が、同国エリート層の間で高まっている。
 同国は債務に依存した刺激策からの脱却、国営独占企業の解体、環境汚染対策など、さまざまな課題を抱えている。

 シンガポール国立大学の中国政治専門家、ファン・ジン氏は
 「彼(習氏)のジレンマは、権力がなければ物事を進められないことだ」
と話す。
 同氏は
 「(習氏が)権力集中の必要性を感じているが、そうすれば非常に強力なリーダーによる独裁化を防ぐ機関を骨抜きにするリスクを負う」
という。
 支持者によると、習氏は依然として党内で抵抗を受けており、経済減速と敵対的な欧米に対峙(たいじ)するために指導体制を近代化する必要がある。
 党幹部348人が出席した10月の会議で「核心」の指導者という肩書を得た習氏は、規律の乱れを批判するとともに、
 「権力を渇望し、従順を装い、派閥やグループを形成した」高官
らについて警告した。
 その後、多くの党員が「絶対的な忠誠」を誓う文書に署名した。
 河南省の党委員会を率いる謝伏瞻氏は10月の演説で、習氏を「偉大な指導者」とたたえた。
 この言葉は通常、毛沢東にのみ用いられる。

■次期指導部 の人選プロセス開始

 米国の大統領選でドナルド・トランプ氏が勝つ数時間前に、中国は複雑な次期指導部の人選プロセスを正式に開始した。
 結果は来年秋に開催される5年に1度の共産党全国代表大会で明らかになる見通しだ。
 最高指導部である政治局常務委員については、7人のうち5人が退任することになっている。
 02年に設けられた規則では、68歳以上の委員は引退する決まりだ。
 党がこれに従うとすれば、残るのは習氏と李克強首相だけだ。
 後任は通常、辞任する委員や引退した委員が選ぶ。
 07年以降は、党総書記が2期目を満了した時に後継者になれる若い人物を2人選ぶのが慣例だ。

 ある共産党の幹部は全国党大会に向けた正式な準備が始まる少し前の記者会見で、最高指導層に年齢制限を設けるとのアイデアが「俗説」であり「信頼に値しない」と述べ、そうした慣例に疑問を投げかけた。
 党内には、習氏が次期常務委員を味方で固め、自分以外の者がお気に入りを昇進させないようにしているとの見方がある。
 汚職撲滅運動を指揮する王岐山氏は既に68歳だが、留任し、さらには首相に就任することを習氏が望んでいるともささやかれている。

 常務委員を縮小や格下げ、あるいは撤廃し、ロシアの大統領制に近い体制を導入するとのうわさまである。
 現在3期目を務める同国のウラジーミル・プーチン大統領は広範な執行権限を持ち、24年まで在任できる。
 最高指導部と日常的に会っている党幹部は最近の内部の議論から、来年は常務委員の「後継者が指名されない」とみている。
 習氏は「長老たちの過剰な介入を是が非でも防ごうとしている」という。
 こうした観測を背景に、党全国代表大会に先立つ交渉で習氏が影響力を強めるかもしれない。

 ライバルが習氏の目標を妨害したり、習氏が2期目に方向転換したりする可能性があるとの考えもある。
 だがあからさまな抵抗の兆しがないことから、指導部と会ったり彼らの動向を注視したりしている多くの人は、強力な独裁体制の新時代が始まったかもしれないと感じている。

 ある元高官は
 「中国最強の指導者たちが結果を出すのに少なくとも20年必要だった。
 習近平も同じだろう」
と述べ、
 「毛(沢東)は国を造った。
 鄧小平はそれを豊かにした。
 現在は習の時代だ。
 国を強力にするだろう」
と説明した。

 習氏の目標は、同氏個人に忠実な規律ある組織に党を改造し、党に社会と経済で支配的な力を取り戻すことのようだ。
 党関係者は、習氏が少数の顧問団によるトップダウン型の意思決定がいいと考えていると話す。
 顧問らは現在、習氏が率いる10余りの委員会を通じて指示を出している。

 党内で習氏は、回ってくる多くの書類について頻繁にメモする細かい上司だとされている。
 同氏が率いる委員会の1つ、「中央全面深化改革指導小組」が今年これまでに交付した政令は96件と、昨年の65件、一昨年の37件を上回っている。






【身勝手な大国・中国】



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