『
Wedge 中村繁夫 (アドバンスト マテリアル ジャパン社長)
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/7852
中国人は幸せか? 不幸せか?
チャイナドリームの行方
北京では25年以上のお付き合いのある老朋友の新居に招待された。
今回は古い友人のチャイナドリームについて書いてみたい。
■チャイナドリームの象徴は何か?
老朋友の李先生は国営企業で最高峰の研究機関の教授だが、今や関連子会社を上場させた中国一流の企業経営者でもある。
今回訪問した先生の新居マンションの価値は今や5億円以上ではないだろうか。
まさにチャイナドリームの象徴であるが国から安く払い下げられた自宅のマンションは北京の中心部にあり東京でいえば青山のようなロケーションにある。
仕事場はすぐ近くで職住接近の恵まれた場所である。
部屋は5LDKで250平米の広さで寝室が4つあって、広いリビングにキッチンもキラキラ光って素晴らしい。
トイレが3つあって、最上階の7階にあるから眺望も最高だ。
先生のマンション棟は研究所の一握りの幹部専用である。
李先生は今年60歳の還暦を迎えるので、通常ならば今年一杯で退職して後は年金生活者になる予定だったが特別栄誉教授として、さらに5年間は研究機関の経営を行うことになった。
こうした待遇は一般職員ではありえないのだが李先生の評価は学術面だけではなく経営者としての実績が評価されたものである。
昔の国営企業幹部の官舎と云えば狭くて国際比較をすると日本の公務員宿舎と同様に「ウサギ小屋」と形容されても仕方のない代物だった。
それが今や様変わりである。
政府の指導もあって10年ほど前から福利厚生のために職員の賃貸住宅を次々と建設したのである。
その後、長年勤めて一定の条件を満たした職員にはその住宅を格安で払い下げられるようになった。
その住宅価格もこの10年で5倍から6倍くらいに値上がりして住宅バブルの結果、幹部職員は全員の資産は膨れ上がったのである。
これは日本でも高度成長期には資産インフレで住宅価格がバブルで数倍になったのと同じ現象である。
■豪華マンションが支給された背景
●幹部マンションの外観
同時にこの1年ほどの間に定年が近くなった幹部職員には特別に恩給の一部として新築の豪華マンションを払い下げることになったのだ。
聞くところによると市中相場の8割引きの格安価格で払い下げされたのだから、まさに「濡れ手に粟」とはこのことである。
李先生は国営の新材料研究機関の指導者であり特にレアアースの開発技術では中国No.1である。
5年ほど前に上海株式市場に子会社を上場させて株価が上昇して企業価値が上がった結果、上場企業としての含み益は等比級数的に膨れ上がった。
ところが給与については国営企業であるから国家ルールに従って給与水準を欧米並みに引き上げる訳にはいかない。
そこで、福利厚生について「お手盛り」の大盤振る舞いをすることになったのである。
日本のように会計監査院のような組織が横やりを入れる訳でもなく、長年の貢献に対して応分の配慮がなされたのである。
私の多くの中国の国営企業の友人たちは社会主義経済だから残念ながら給料は欧米並みという訳には行かないが、住宅資産に関しては明らかに国際水準を超えていることは間違いない。
■中国の金持ちと貧乏人の収入格差は?
スイスの銀行「クレディ・スイス」の報告2015年によると
★.中国の富裕層の保有資産総額は
アメリカに次いで世界第2位の22兆8000億ドル
となったらしい。
★.日本は世界第3位に転落し、19兆8000億ドル
と僅差だが中国の後塵を拝したことになる。
昔の友人がチャイナドリームを実現したことはご同慶の至りだが、僕にとってみるとそのスピードが速すぎることが気がかりである。
なぜならば大半の中国人の生活は貧困で一部の富裕層だけがますます金持ちになって行くからだ。
僕がこれまで取引してきた中国の友人達は都市部に生活しており特別に選ばれたエリート層である。
一方、地方では年間に20万件にも及ぶ紛争や暴動が発生していると聞く。
その原因は格差社会に対する不平と不満が渦巻いているからだ。
中国人民大学の国民の収入差に関する調査によると
★.中国の10%の富裕層が何と80%の財を占めており
★.富裕層と貧困層の収入格差は「40倍」
になっているという。
■ピョンピョン、パチパチ、ドンドンで儲けた配慮貿易とは?
こうした中国の国営企業の富裕層だけが儲かる仕組みを見ていると、僕が中国貿易を始めた1970年代の中国の配慮貿易で大儲けした友好貿易商社の存在が思い出される。
中国共産党と深い関係のあった日本の友好貿易商社さんたちは「ピョンピョン、パチパチ、ドンドン」を特別価格で輸入していたのである。
この「ピョン、パチ、ドン」を知っている人はかなりの中国通であるが何のことか判るだろうか?
「ピョンピョン」とはウサギ肉の輸入、
「パチパチ」とは天津甘栗の輸入、
「ドンドン」とは花火の輸入
のことである。
どうやら当時は日本の友好貿易商社が配慮物資で大儲けした利益を社会党に献金していたのではないかと勝手な想像をしている。
僕の前職の蝶理は友好商社ではあったが、当時の社会党系の友好商社ほどのぼろ儲けをした訳ではなかったので、ひとこと言い訳はしておきたい。
それでも古典的中国食品の輸入などでは配慮物資の輸入枠の配分を貰っていた。
「魚ごころあれば、水ごころ」が中国的な社会習慣だから、それに対して誰も不公平だとは言わないのが中国のおおらかなところである。
さて、話が横道にそれたので元に戻したい。
■中国人の海外出張の予算は少なかった
25年前の国営企業の出張予算は国家の規定があったので客先訪問をするにしてもタクシーの利用すらできなかった。
宴会の時に李先生の宿泊予算が限られていたので安いビジネスホテルを探したが、なかなか見つからなかった昔話が出てきた。
今は懐かしい古き良き思い出である。
それでも海外出張に行けるのは一握りのエリートだけだった。
当時の中国は貿易を振興して外貨を稼ぐために中国元を安くコントロールする必要があった。
中国元の為替レートを国家が安く誘導していたので、日本人にとっては中国出張時のコストは何でも安かったが、中国人の海外出張は厳しく管理されていたそうだ。
今や中国人の「爆買いツアー」が有名になって海外不動産まで「爆買い」が流行っているというから隔世の感がある。
でも、考えてみると昔はみんなが貧困だったから別に恥ずかしくもなんともなかった。
我々、日本人商社マンだって同じ経験は沢山やっている。
国民の不満を助長しているのが一般の中国人が10%の金持ちとの格差がますます開いていくところにある。
農民戸籍しか持てない地方の貧困層は大都市で豊かな生活をしている富裕層の暮らしぶりを毎日テレビで見るのだから暴動が起こるのも当たり前だ。
しばらく前に尖閣諸島を日本政府が国営化した時に中国全土で暴動が発生した。
ところが暴動が一段落した後には共産党政府に対する不平不満が爆発した。
政府が国民の不満の目を外に向けさせるために日本を目の敵にした反日報道を繰り返しても、
最終的には大衆の不満と怒りは格差社会に向かう
のである。
■資産バブルのメリットを享受しているのは一部の富裕層だけ?
★.ヨーロッパの調査機関のアンケートによると、中国人の幸福度(HPI)は世界150カ国中の128番目だったと云われている。
一方、
★.中国政府が行った「中国都市住民幸福感調査」によると75%の中国人が「幸福」である
との結果が出たらしい。
中国政府は都市戸籍を持てない農民層をこの調査の母数に含めていないのである。
この都市戸籍と農業戸籍の違いが中国の格差の原因であったが、今はかなり緩和策が進んでいるとの話も聞く。
北京や上海などの大都市には農業戸籍から都市戸籍への移動はいまだに制限が厳しいようだ。
一般的には農業戸籍者は全人口の6割以上と予想されるが、
★.現状を見る限りジニ係数(所得格差を測る指数)は「0.61」を示しており、
中国の所得格差は危険域をはるかに超えており不平等社会であることは間違いない。
■貧しきを憂えず、等しからずを憂う
中国人の幸福度の年代別の分析は面白い結果が出ている。
年代が上がれば上がるほど幸福感は増えているが、若者たちの幸福感は減少傾向になっている。
60代や50代は昔の貧困時代に比べ、今の生活水準は良くなったと感じているので不平感はなさそうだ。
逆に30代と40代は「大変幸福だ」という人は少ないようだ。
日本でも同じだが今から20年前と比べると金銭的には豊かになったが50代や60代の人々のような貧困は経験していないから比較問題だが「生活がより良くなった」とは考えないのかも知れない。
これには「一人っ子政策」も関係がある。
「貧しきを憂えず、等しからずを憂う」とは論語に出てくるが、
★.世界中どこでも「絶対的な貧しさ」よりも「相対的な不公平さ」が気になるのが一般的である。
中国の生活水準は20年前と比べてかなり向上しているとは云うが、10%の富裕層が目立ちすぎるために格差の問題が深刻になっているのだ。
鄧小平氏は天安門事件の後、民主化運動よりもみんながお金持ちになるべきだと言い始めた。
その時に全員がすぐにお金持ちにはなれないが、一部の人々がお金持ちになり、富裕層が経済をけん引して発展させてから一般人もお金持ちになるように指導した。
ところが、今になって振り返ってみると富裕層と貧困層の格差は益々拡大しているのが社会問題になっているのだ。
■富裕層の新たな悩みとは?
その富裕層も確かに経済的には満足はしているのだが、政府が贅沢禁止令を出して賄賂を受け取った幹部職員を逮捕して公職追放にした結果、肩身が狭くなって海外に逃亡する富裕層が増え始めている。
習近平政権は腐敗防止のために富裕層の幹部職員を見せしめのために粛清し始めてかなりの時が経つが、今や中国企業の組織の中では幹部は何時、従業員にタレこみさせられるかビクビクしている。
元々、個人主義的な国民性がさらに疑心暗鬼になっているので富裕層は別の意味で幸福感を失くしつつある。
もともと、中国人には愛国心は少なく個人主義的で自分の家族さえが幸せなら国家はどうでも良いと考える傾向がある。
上手く海外に資産フライトさせる事が出来れば良いのだがそうもいかない大半の富裕層は今や戦々恐々としているのである。
■格差は解消されるのか?
それでも富裕層の比率はまだ10%とまだ多くはないので格差をなくして行けば中国の社会問題は緩和するのだろうか?
◆ 去年より今年が良くなって、
来年は多分今年よりよくなるだろうと思わせる限り中国のチャイナドリームは維持できる
と思われる。
一般の中国人にとって一番、幸福感を感じるのは自分の家を所有できることである。
しかも資産バブルが安定すれば所有欲が満足できるのだ。
若者が結婚できる条件とは持ち家が大前提である。
50代の親は一人っ子に家を持たせるために働き借金をしてでも息子に嫁を持たせれば最大の幸福感に包まれるのである。
中国社会では欧米に比べて社会福祉は整ってはいない。
従って企業の中で福利厚生の名目で「チャイナドリーム」を達成させようとするのは悪いことではない。
■チャイナドリームが弾けるとき
組織の中の就労年数に応じて「自宅の取得を配慮する」のは中国の文化そのものである。
組織に貢献した幹部社員が「お手盛り」で豪華マンションを手に入れても40代の社員はあと10年も経てば自分の順番が来ると信じている。
30代の社員たちも今は給料が安くても国営企業に勤めている限りいずれは自分もチャイナドリームが待っていると信じさせる限り、社会主義自由経済は何とか維持できるとみんなが信じているのだ。
そのためにも
中国経済にとっては次から次へと国中にマンション建設を自転車操業でも良いから継続させることでGDPの成長率は維持できると思いこまずにはいられないのではなかろうか。
これが中国のチャイナドリームの本質だと言い切ったら僕の老朋友からお叱りを受けるだろうか?
』
『
ダイヤモンドオンライン 2016年10月11日 加藤嘉一
http://diamond.jp/articles/-/104146
中国当局が国慶節に不動産購入制限を打ち出した理由
■国慶節を跨いで中国世論を騒がせた不動産物件購入制限のニュース
中国社会が国慶節休暇(10月1~7日)に面するなかで本稿を書いている。
中国国家観光局データセンターは、休暇期間中に観光に出かける本国国民の数は延べ5.89億人(前年同期比+12%)で、それがもたらす観光収入は4781.8億元(前年同期比+13.5%)に上ると見積もっている。
減速、低迷、停滞、衰退、崩壊――。
近年あらゆる言葉で修飾される“中国経済”であるが、人民たちの表情や行動を眺める限り、彼ら・彼女らの消費、生活、余暇に対する欲望は時を追うごとに膨張しつつあると実感する今日この頃である。
そんな私にとって、中国人の生き様を再考する一つの機会である国慶節を跨いで、中国世論を騒がせた一つの、あるいは一連のニュースがある。
9月30日~10月4日の5日間で、北京、天津、蘇州、成都、合肥、済南、鄭州、無錫、武漢、深セン、広州など10以上の地方自治体が新たな不動産市場への政策を打ち出し、その多くが市民らの不動産物件購入を制限するというものであった。
中国社会において、国慶節期間中に家族で新しい住宅を購入するために不動産物件を下見する、それをホリデーレジャーとする市民は少なくない。
私の周りだけを見渡しても少なからずいる。
そんな市民たちは、今回の不動産購入制限政策を複雑な心境で、しかも当事者意識を持って眺めたであろう。
例として、国営新華社通信は、10月4日に配信した記事
『勝負に出るか、あるいはとりあえず様子を見るか:
ゴールデンウィーク不動産市場を巡る市民たちの心境をスキャンする』
において、同通信社の記者が河南省鄭州高新区恒大城で遭遇・取材した同省許昌出身の寧氏の状況を紹介している。
大学卒業後鄭州で就職した同氏は、これから2年以内に結婚すべく準備を進めており、両親もそのために早急にマイホームを購入するように催促しているという。
近年、鄭州の不動産価格の常識はずれな高騰ぶりに愛想を尽かしていた寧氏は制限策のニュースを聴いて喜んだが
(筆者注:2016年8月、鄭州市の不動産価格は前月比で5.6%上昇し、単月で見れば全国主要都市のなかで最大の上昇率を記録している。なお、前年同月比で見ると、最も高い上昇率を記録したのは福建省のアモイ市で+44.3%となっている)
、状況を打診するに連れて、喜びは薄れていったという。
「価格の上昇は緩やかになるが、それでも上がり続けるでしょう」。
政府によるマクロコントロール政策が住宅価格の急激な上昇の流れを抑制できるのであれば、メリットがあると考える寧氏であるが、「翡翠華庭」という物件が販売を始めた当初の価格は1平方メートル9000元であったが、現在では1.5万元にまで上がっており、更なる上昇を懸念する寧氏はこれ以上待つのは危険だと判断し、早急に購入する予定だという。
■不動産市場のバブルとその崩壊を警戒!?
アクセルとブレーキを踏み分ける中央政府
中国で半世紀以上続いた「農業戸籍」の廃止が中国経済社会にもたらし得るインパクトを扱った前回コラム(中国で「農業戸籍」廃止、経済社会はどう変わる?)において、
「あらゆる改革の中でもその難易度と進め方という観点から比較的難しい分類に入ると思われる戸籍制度改革であるが、現政権が重視する都市化政策、産業構造の転換、不動産政策などとも直接的にリンクしてくるため、改革のプロセスが複雑化するのは必至である」
という指摘をした。
不動産政策も戸籍政策と同様、他の分野と直接的にリンクしてくる複雑なテーマであると言える。
中央政府にとっては、経済成長の原動力や過剰生産能力の解消問題などを占い、地方政府にとっては自らの財政基盤を左右しかねない要素である。
一方、企業家にとっては、本業が不振に陥ったときの損失や倒産リスクを軽減するため、できる限り持っておこうとする保険であり、一定以上の資産を持つ“有産階級”にとっては自らの資産を管理するための拠り所である。
安定した生活、幸福な人生を送ることを何より祈願する“無産階級”としての一般大衆にとっては、自らが生活の最大基盤とし、家族が一つになるための“家”を持てるかどうかという要素である。
私がここで挙げた例だけからしても、不動産市場というファクターが、中国政治社会・経済社会で生きるあらゆるプレイヤーの運命を左右しかねない複合的産物であることが容易に見て取れるだろう。
今回、複数の地方自治体が同時期に不動産購入制限政策を打ち出した背景には、不動産バブルの過熱化という前提的情勢が存在する。
私の理解によれば、李克強首相を首長とする国務院(中央政府)は近年、不動産市場を、国民が求める実需に応える役割を果たし、中国経済の安定的成長を下支えする重要なファクターであると見なしつつも、「同市場の行き過ぎた過熱化はバブルを招きかねない」と懸念している。
仮にそのバブルが“崩壊”すれば、中国経済に致命的な打撃を与えるのは明白であり、その観点から、同市場の成長は促しつつも、過熱を警戒し、バブルを抑制するために、マクロコントロールが不可欠というスタンスを堅持してきた。
中央政府は各地方自治体、特に経済規模の大きい主要都市に対して、このスタンスを繰り返し伝えると同時に、各地の実情に基づいて、適切な政策を実施するよう促してきた。
中国経済社会全体としての不動産政策は、いまだにアクセルとブレーキをどう踏み分けるか、すなわち、情勢によって緩めたり、引き締めたりする段階にあるといえるだろう。
今回の集団的な引き締め策実施は、中国の不動産市場が全体的な流れとして過熱化の傾向にある。
少なくとも「バブルが懸念される局面にある」と、当局はそう認識していることを意味している。
国家統計局の統計によると、2016年8月、同局が統計対象としてきた主要70都市のうち、64都市の不動産価格が前月比で上昇。
7月の前月比に比べて13都市増えた。
うち、行政区分で「一級都市」に属する北京、上海、広州、深センではそれぞれ3.8%、5.2%、2.4%、2.1%上昇した。
前年同月比ではそれぞれ25.8%、37.8%、21.2%、37.3%上昇している。
過去半年における統計も見てみよう。
今年2~8月の期間において、同70都市のうち、17都市で価格が10%以上上昇、15都市で5~10%上昇、25都市で0~5%上昇、13都市で下落という結果であった。
上昇率が最大だったのが江蘇省南京市で44%、次が安徽省合肥市で38%、それから北京市の27%、広東省東莞市の26%、同省珠海市の24%と続いた。
注目される1級都市では、上海市が13%、広州市が4%、深セン市が8%であった。
■“美しい、住みたい湾岸都市”の不動価格低迷
ちなみに、今年2~8月、70都市のなかで上昇率が最も低かったのは遼寧省大連市で6%の下落、次が山東省青島市で4%の下落となった。
私は興味深いと感じた。
大連と青島は、共に(私自身の感覚では)ザ・地元的な匂いをプンプン放ち、その酒豪の多さと飲む量の半端なさを含めて、スタンダードというよりはむしろ独自の文化・風習を大事にしてきたように思える遼寧省、山東省のなかでは、最も遼寧・山東の都市っぽくない、いかにも日本人や欧米人に喜ばれそうな、例外的な湾岸都市であり、特に生活という観点からすれば、その立地・気候条件からも住み心地が良い場所とされる。
久しく訪れていないし、私自身に現段階で原因を解明する術はないが、この“美しい、住みたい湾岸都市”で不動産価格が“低迷”している現状は注目に値するだろう。
上記の状況から、「1級都市」である北京・上海・広州・深センでは、不動産価格が“安定的”に上昇し、規模や影響力も大きいだけに、中央政府もバブルを懸念せざるを得ない対象となっている。
一方、南京・合肥・大連・青島といった「2級都市」における不動産価格は比較的不安定で、地域間の格差も大きく、バブル高騰懸念とバブル崩壊懸念が併存している構造が見て取れる。
私の観察と感覚からすれば、中国経済全体の安定的成長を担保する任務を持つ中央政府としてより懸念するのは後者であろう。
そもそも、特に今年に入ってから不動産バブル懸念が頻繁に世論を騒がすようになった原因は、中央政府による政策に見いだせるといえる。
今年3月初旬に開催された全国人民代表大会の『政府活動報告』において、李克強首相は2016年の経済政策5大任務として「不動産在庫の解消」(中国語で「去庫存」)を掲げた。
同任務は、2015年12月に行われた中央経済工作会議で審議され、翌年の任務として採択されたものである。
2014年あたりから緩くなってきた中央政府による不動産市場へのマクロコントロールであるが、昨年末から今年の初旬にかけて、「空き家を減らすこと」が中央レベルで奨励されるようになってからというもの、企業家や投資家、および一般消費者を含めて、「いまがチャンス」とばかりに不動産市場に流れ込んだ。
この半年における銀行の貸出金のうち7割以上を住宅ローンが占めているという。
■再び過熱してしまった不動産市場
クールダウンさせるべく国慶節に急展開
自らの奨励策が一つの引き金となって、再び過熱してしまった不動産市場をクールダウンさせるべく、国慶節という象徴的な時期を選んで、今度は引き締め策が打ち出されるという急展開。ケーススタディとして、具体的な制限策をいくつか見てみよう。
北京市は、主に住宅購入ローンを制限し、1軒目と2軒目購入の頭金支払い比率をそれぞれ不動産価格の35%、50%に引き上げた。
天津市はすでに1軒の不動産を所持している現地戸籍を持たない家庭に、市内6区および武清区での再購入を暫定的に禁止し、同時に同対象者に対し、一軒目購入の際の頭金比率を不動産価格の40%に引き上げた。
上記でも触れた河南省鄭州市では、市内で指定した区域内に2軒以上の住宅を所持する現地戸籍を持つ家庭、および1軒以上の住宅を所持する現地戸籍を持たない家庭が180平方メートル以上の住宅を購入することを禁止した。
山東省済南市では1軒目と2軒目を購入する際の頭金比率をそれぞれ不動産価格の30%、40%に上げ、かつ現地戸籍を持ち、すでに3軒の住宅を持っている家庭にはさらなる購入を禁止した。
湖北省武漢市では、10月3日以降、江岸、江漢、?口、漢陽などの区域において、現地戸籍を持つ家庭が不動産を購入する際の頭金比率を1軒目は25%、2軒目は50%まで引き上げ、3軒目は購入禁止と規定した。
このように、制限策には地域差があるが、共通点を大まかに拾っていくと、中国政府が人民の住宅購入をトップダウン型で制限する際には、都市における行政区分、支払いの際の頭金比率、そして前回コラムでも触れた戸籍といった要素を個別、かつ総合的に考慮しながら政策決定しているといえる。
■購入制限策は功を奏すか否か
中央政府の心境と目論見は
今後の展開として注目されるのは、購入制限策が功を奏すか否か、どのように市場の動きに反映するかであろう。
党機関紙《人民日報》の記事(10月3日付)は、「専門家による分析」を次のように引用している。
◇ :「今回の引き締め政策は、主に投資・投機需要を抑制することに重点を置いている。
購入者層とローンを制限したことによって、不動産市場は短期的にはクールダウンするであろう。
今年の第4四半期には、各都市の不動産政策を巡るギャップはより鮮明に出てくるはずだ」
◇: 「不動産市場にバブルが存在すること、国民生活コストへの影響が比較的大きいこと、実体経済への影響を免れないことを警戒すると同時に、マクロ経済政策を成長のインセンティブに転換するプロセスが完結していないなかでも経済の安定的成長を実現しなければならない状況下において、不動産業界の下支えとしての役割が必要なことも事実である。
政府は不動産市場に対するマクロコントロールのバランス点を把握しつつ、リスクを防止しながら同市場の安定を確保し、経済運営が合理的な区域で完結するように務めなければならない」
この2つの段落は中央政府の心境と目論見を反映していると私は見る。
今後、中国では不動産バブル、そしてそれと紙一重のように見える“崩壊”が懸念される局面が続くであろう。
中央政府にとっては、適切なマクロコントロールの策定、および各地方自治体・市場・世論との綿密で、透明性のあるコミュニケーションがかつてないほどに試されている。
先日、中国で最もお金を持っている不動産王、大連万達集団(ワンダーグループの)王健林CEOが米CNNテレビの取材に対して、
「昨今の中国の不動産バブルは史上最大である。
上海などの大都市の価格は持続的に上昇しているが、多くの空き家を抱える中小都市では価格下落の現象も起きている。
この問題を解決するための良好な方法などない。
政府は購買・ローン制限などあらゆる政策を取っているが、どれも効果的ではない」
と断言している。
■中国の広範な消費者・労働者にとって不動産市場と株式市場は異なる存在
今年の不動産市場は、昨年乱高下の様相を見せ、中国政府の対策が国際的に疑問視された“上海株ショック”を彷彿させる。
しかしながら、私から見て、中国の広範な消費者・労働者にとって、不動産市場と株式市場はまったく次元の異なる存在である。
彼ら・彼女らにとって、住宅という不動産は、死に物狂いで貯めてきた資産を投資するという動機を遥かに超えた、家族が一緒に住み、次の瞬間には何が起こるか分からない激動の時代を生き抜いている家人たちが戻ってくる場所である。
中国人という生き様にとって、これだけは譲れないというボトムライン。
それが、彼ら・彼女らにとっての“家”という存在なのだ
と私は感じてきた。
だからこそ、一時的な投機的・賭博的心理で向き合い、マーケットが萎んでしまえばそっぽを向いてしまう対象に映る株式市場とは異なり、市場の性質やルール・法律がどう変わろうとも、
より極端な表現をすれば、中国という国家の在り方そのものに劇的な変化が生まれたとしても、“そこ”に生きる人々が絶対に目をそらそうとしない、永遠に目をそらすことができない市場。
それが中国人にとっての不動産=住宅=家という空間が意味するところなのだ。
そう考えてくると、中国共産党当局が、冒頭で述べたような、“民族大移動”が確実視される国慶節という時期に、この政治的敏感性に満ちた不動産政策の転換シグナルを発した事実も、なるほど、腑に落ちるというものである。
』
『
現代ビジネス 2016/10/11 近藤 大介『週刊現代』編集次長
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/49910
不動産バブルを煽る習近平が突如「マンション購入制限」を強いた理由
ダイナミックで「理不尽」な中国政治
■予告なしに発表された「通知」
「金九銀十」(黄金の9月と銀色の10月)――。
この言葉は、中国の不動産業界の用語だ。
9月の中秋節(旧盆)の3連休から10月の国慶節(建国記念日)の7連休にかけて、マンションの販売量が一年のピークを迎えるという意味である。
田畑と同様、マンション販売も「実りの秋」を迎えたのだ。
中国では、全国の市町村を、重要性や人口などを鑑みて、一線都市から四線都市までに分けている。
一線都市は、北京、上海、広州、深圳、天津の5都市。
二線都市が南京、武漢、重慶など41都市。
三線都市が紹興、珠海、吉林など110都市。
残りすべてが四線都市である。
中国には、人口が100万人を超す都市が303もあるので(日本は12)、
不動産規模も世界一である。
今年も、一線都市から四線都市まで各都市の不動産業者たちは、「金九銀十」のこの季節に合わせて、大量の新築マンションの販売に踏み切った。
ところが、である。10月1日の国慶節を5日後に控えた9月25日の日曜日、二線都市の筆頭である人口820万人の南京市で、突如として異変が起こった。
市政府(市役所)のホームページに、
「南京市の不動産市場のさらなるコントロールのための主要地区の不動産購入制限措置に関する通知」
と題した「2016年第140号通知」が、何の予告もなくアップされたのだ。
その全文は以下の通りである。
>>>>>
〈 各区人民政府、市府各委員会弁公局、市各直属単位へ
「市政府が供給側構造性改革を推進し、不動産市場の平穏かつ健全な発展の促進を実施するための意見」(2016年第75号通知)をさらに一歩定着させるため、そして不動産市場を安定させ、「不動産価格と地価をコントロールする」ことを基本として、高淳、溧水、六合を除く主要地区で、住宅購入制限措置を実施する。
1.すでに一軒の住宅を所有している南京市の戸籍を持っていない住民家庭の不動産購入(新築及び中古物件)を、当分の間禁止する。
2.すでに二軒以上所有している南京市の戸籍保有者家庭の新築不動産購入を、当分の間禁止する。
新築物件は売買契約書にサインした日を基準とし、中古物件はネット上で署名した日を基準とする。
不動産開発企業と不動産登記機構は、不動産購入条件に合致しない購買希望者に住宅商品を販売してはならない。不動産取引及び不動産登記部門は、上記規定に違反して処理や手続きを行ってはならない。
本通知は、2016年9月26日より執行される。
南京市人民政府弁公庁
2016年9月25日 〉
<<<<<
まさに、いまからマンションを買おうとしていた南京市民、及び売ろうとしていた不動産業者にとって、青天の霹靂の「マンション購入制限令」だった。
市民も業者も、南京市政府のホームページを見て、唖然となった。
このため、マンション購入を考えていた南京市民たちは、「それならば今日のうちに契約してしまえ」と、市内のマンション販売センターに殺到。
おかげで9月25日だけで、計1604軒ものマンションが南京市で売れた。
本当はこの何倍も売れるところだったのだが、マンション販売スタッフの人員が足りなかったのである。
だが、南京の混乱はこれにとどまらなかった。
南京市政府は、やはり何の予告もなく、大型連休5日目の10月5日になって、「第143号通知」を発令した。
これはさらに詳細な「マンション購入制限令第二弾」で、主な内容は次の通りだ。
>>>>>
・明日10月6日より(以下同)、南京市戸籍以外の者に、マンション購入の際、過去2年以内の1年以上の所得税納税証明書と社会保険納税証明書の提出を義務づける。
・南京市戸籍の独身者(離婚や死別を含む)は一軒しか購入を認めない。
・住宅ローンの差別化をさらに進める(購入者をふるいにかける銀行の高金利を許可する)。
・一軒目の普通住宅の購入は頭金3割以上、二軒目は4割以上、商業用不動産は5割以上、住宅ローンを完済していない者は8割以上とする。
<<<<<
こうして南京で始まった「マンション購入制限令」は、その後、燎原の火のごとく、全国各地に拡散していった。
同様に「マンション購入制限令」を発令したのは、北京、上海、広州、深圳、天津の一線都市を始め、10月4日までで計15都市に上った。具体的には、南京、アモイ、杭州、蘇州、鄭州、成都、済南、無錫、合肥、武漢である。
今後はおそらく、三線都市までの多くの都市で、同様の通知が出されるものと見られる。内容は大同小異で、頭金アップ、非戸籍保有者の締め出しなどである。
■「頭金7割なんて、払えるわけない!」
首都・北京では10月6日、地元テレビ局の北京衛視が、9月30日に北京市政府が発令した「北京市の不動産市場の平穏かつ健全な発展を促進するための若干の措置について」(マンション購入制限令)に関する特集ニュースを組んだ。
それは、次のような内容だった。
>>>>>
北京市豊台区のある新築マンション販売センター。
国慶節の大型連休中の午前10時。
このマンションは9月25日に発売を開始し、販売開始から5日間で計150の部屋に約300人が予約するなど、販売は上々だった。
だが、9月30日を境に、一夜にして頭金が7割にハネ上がってしまった。
そのため、「棄購」(購入放棄)が続出している。
「頭金7割なんて、払えるわけないじゃないの!」
数日前に新築マンションの購入を決めたばかりの女性が、マンションの販売員に噛みついている。
<<<<<
このマンションは、1㎡が約7万元(1元≒15.4円)。
一般的な3LDK105㎡の部屋の場合、約700万元だ。
中国の不動産は室内面積でなく建築面積で換算するので、7掛けするとだいたい日本の不動産表示面積となる。
つまり、70㎡で1億円の物件だ。
ちなみに、北京の不動産価格はとっくの昔に、東京の価格を追い抜いている。
北京市政府が9月30日に発令した通達(北京市民は「京八条」と呼んでいる)によれば、第5環状線以内のマンションの場合、1㎡あたり3万9600元以上、もしくは総額が468万元以上のマンションは、非普通住宅(高級マンション)とみなされる。
最近売り出している第5環状線以内のマンションの場合、不動産業者が買った時は1㎡あたり約3万元が相場だったという。
そのため、マンション建造費用などを加えると、最低でも5.5万元以上で売らないと元が取れない。
不動産会社の社員は、「これではすべてのマンションが、非普通住宅となってしまう」と、テレビに向かって嘆いていた。
今回の北京の「マンション購入制限令」を簡略化して説明すると、初めてマンションを購入する人が普通住宅を買えば頭金は35%以上、非普通住宅を買えば40%以上。二軒目の普通住宅は50%以上、二軒目の非普通住宅は70%以上となった。
これに、北京市の戸籍保有者か非保有者かという区別によって、細かい条件が変わる。
北京衛視はそもそも北京市政府傘下のテレビ局なので、激しい市政府批判などできるはずもなかった。
最後は社会科学院の都市建設の専門家が登場し、
「今回の措置は、マンション投資の金融化とレバレッジ化を抑制するのに必要な措置なのです」
というコメントでまとめていた。
思えば今年の年初には、中国政府が不動産購入奨励策を取ったため、事実上、「頭金ゼロ」でマンションが買えたのだ。
それが秋になったら一夜にして、頭金7割以上に変わった。
中国は何とダイナミックな、そして理不尽な国であることか。
■中国の特色ある経済状態
今回の「マンション購入制限令」は、現在の中国が抱える様々な問題を浮き彫りにした格好となった。
最大の問題は、そもそもなぜ突然、このような措置が中国全土で発令されたのかということだ。
中国は周知のように、ここ数年、景気が急減速している。
★:昨年までは「V字回復させる」と意気込んでいた中国政府だったが、
今年に入ると「L字型」(長期低迷)と言われ始め、
今年春からは「h字型」(さらにドン底に落ちていく)と囁かれ始めた。
最近、こうした中国発の危機的な状況が日本に伝わってこないのは、中国の景気が回復したからではなくて、
中国共産党中央宣伝部が、「経済のマイナス報道」を強く規制し始めたからだ。
これまでは共産党や政府批判の政治記事が御法度だったが、今年春ごろからは、中国経済に対する批判やマイナス報道も検閲の対象となっている。
この4年近い習近平政権を評価すると、政治分野と軍事分野に関しては、習近平主席が強い指導力を発揮している。
外交分野に関しても、発足当初は冷や冷やしたものだが、いまではだいぶ慣れてきて、及第点だ。
ところがこと経済分野に関しては、4年前から現在に至るまで、メチャクチャなのである。
たとえてみれば、今日大雨が降ったから慌てて傘を用意し、今度は台風が吹き荒れ出したから戸や窓を補強するといった具合だ。
万事が後手後手で、かつ出たとこ勝負のため、長期的な見通しや整合性がまるでない。
これに、「八項規定」(贅沢禁止令)で旨み(賄賂その他)がなくなったことによる官僚の不作為(ヤル気喪失)が加わって、
いまの中国経済は、中国語で言うところの「雪上加霜」(雪の上に霜が加わる)状態だ。
それでも中国経済が崩壊しないのは、ひとえに過去30数年間の高度経済成長の「貯金」があるからだ。
そのあたりは、「失われた10年」「失われた20年」などと揶揄されながらも、リーマン・ショックのようにならなかった日本と似ている。
習近平政権のこの4年間の景気浮揚策を振り返ると、ごく単純に言えば、
株価上昇政策と不動産価格上昇政策の繰り返し
である。
習近平総書記は、共産党総書記(党トップ)に就いた翌月の2012年12月に「八項規定」を発令したため、経済はいきなり悪化した。
胡錦濤政権時代まで「全体の3割」と言われた地下経済(賄賂経済)が急速にしぼんでいったからである。
例えば幹部たちが、それまで一人で何十軒も賄賂としてもらっていた高級マンションを一斉に売りに走ったため、北京や上海の高級マンション価格が急落した。
また、ほとんど贈答用だった高級ブランド製品の売り上げもガタ落ちした。
これに慌てた習近平政権は、不動産バブルを煽る政策を始めた。
それが2014年秋頃まで続いたが、不動産価格が下げ止まらなくなると、今度は不動産バブルを鎮静化する手を打ち始めた。
代わって、株バブルを煽った。
それによって2014年秋から株価は急上昇を始め、2015年前半には、本格的な株式バブルとなった。
だが、昨年6月15日(習近平主席の62歳の誕生日!)に株式バブルが崩壊。
それが引き金となって、「1100兆円破綻」と言われる谷底に落ちていったのである(そのことは、拙著『中国経済「1100兆円破綻」の衝撃』で詳述した)。
そこで習近平政権は、景気をテコ入れするため、昨年秋から再び、「消費拡大の最大の牽引車」である不動産のバブルを煽り始めたというわけだ。
例えば、新築マンションの購入時には、頭金2割以上、3割以上といった規定があるにもかかわらず、それらを銀行が肩代わりして住宅ローンに組み込んだりということを黙認した。
つまり、頭金ゼロでマンションが買えるようにしたわけで、まさに約10年前のアメリカのサブプライム・ローンと同じパターンである。
これによって、不動産価格は上昇を続けた。
そして、景気が低迷しているのに不動産バブルが進むという「中国の特色ある経済状態」が生まれていった。
■「中国発のリーマン・ショック」を回避?
今年9月19日に国家統計局が発表した8月の70都市住宅価格調査では、新築マンション価格が、9割以上にあたる64都市で前月より上がった。
鄭州5.6%、上海5.2%、無錫4.9%、合肥4.8%、福州4.3%、南京4.1%、アモイ3.9%、北京3.8%、石家庄3.7%、天津3.6%、杭州3.3%、済南3.2%、武漢3.2%、広州2.4%、深圳2.1%、青島2.1%と、前月比で2%以上も上がった都市が、16都市にも上ったのだ。
一部の二線都市、三線都市の上昇率が、一線都市の上昇率を上回るという新現象も起こっている。
また、中国指数研究院の「100都市価格指数」によれば、今年9月の全国100都市のマンションの平均価格は1㎡あたり1万2617元で、前年同期比で16.64%も上がっている。
特に一線、二線都市では、新築マンション、中古マンションともに急速に値上がりしていることが明らかになった。
まさに、全国的な不動産バブルである。
中国政府にしてみれば、本来なら「金九銀十」のこの季節に、不動産を大量販売することで、低迷している景気を上向かせ、かつ税収も増やしたかったところだ。
ところがこれ以上放置しておくと、不動産バブルが崩壊するリスクが高いと見たのである。
すなわち、「中国発のリーマン・ショック」が、いよいよ現実味を帯びてきたと判断したのだ。
北京に住む旧知の経済問題の専門家に聞くと、こう述べた。
「10月14日から、SEC(米証券取引委員会)がMMF(マネー・マーケット・ファンド)に新たな規制をかける。
これによって多額のホットマネーが、中国からアメリカに流出することが見込まれる。
これは中国の不動産業界を直撃し、不動産バブルが一挙に崩壊するリスクを孕んでいるのだ。
実際、LIBOR(ロンドン銀行間取引金利)はこのところ上昇を続け、9月26日には0.85294と、7年ぶりの高水準に達した。
中国企業が発行するドル建て社債の多くは、LIBORを基準にしているので、債務が膨らむことになって経営者たちは蒼くなっている。
もちろん、不動産業界も同様だ。
こうしたことから、いくら『金九銀十』の季節とはいえ、背に腹は代えられなくなったのだ。
いま不動産バブルを覚まさないと、10月にリーマン・ショック型の危機が中国を襲うリスクがあったのだ」
■習近平がすべてを頼る男
今回の「マンション購入制限令」を見ていて、不思議なことがある。
それは、通達を発令したのは、あくまでも各地方自治体であって、国務院(中央官庁)ではないということだ。
国務院には、住房和城郷建設部(住宅及び都市農村建設省)という専門官庁があるにもかかわらず、この官庁は何の通達も出していないのである。
10月5日になって、この中央官庁は、「権威専家(権威的な専門家)が9都市の不動産コントロール新政策を評価する」と題した国営新華社通信の記事を、ホームページ上に転載した。
記事の中で、新華社記者の取材に応じたという「権威専家」は、次のように述べている。
「多くの都市で行った不動産市場のコントロール政策に共通する特色は、投資と投機の需要を抑制する目的だったということだ。
住宅価格があまりに急激に上昇するのを抑止し、不動産市場を安定化させようとしたのだ。
日々刻々状況が変わる不動産市場に対して、市場を安定化させコントロールしていくことに対して、引き続き細かな指導をし、都市政策に結びつけていく」
この記事は長文で、劉洪玉・清華大学不動産研究所長や廖俊平・中山大学南方学院不動産学部長なども続いてコメントしているが、大事なのは、「権威専家」が述べたコメントである。
中国の官製メディアが「権威人士」「権威専家」などと表記する時は、劉鶴・中央財経小グループ弁公室主任兼発展改革委員会副主任を指す。
劉主任は習近平主席の「北京101中学校」の同級生で、
経済オンチの習近平主席が「経済政策のすべてを頼る男」
である。
こうしたことから透けて見えるのは、今回の措置は、
李克強国務院総理(首相)が統括する国務院の主導ではなく、習近平主席サイドが主導したということだ。
おそらく、9月に李克強首相が、ニューヨークの国連総会、カナダ、キューバと11日間も外遊に出ている間(9月18日~28日)に、習近平主席と劉鶴主任主導で進めてしまったのである。
今年の中国では、この二人が主導して、「供給側構造性改革」と呼ばれる5項目の経済改革を推進中である。
その5項目の2番目が、「過剰在庫の解消」だ。
特に、「鬼城」(ゴーストタウン)と呼ばれるマンションの在庫解消が、喫緊の課題となっていた。
そこで戸籍改革を断行し、農村戸籍の人も都市戸籍の人と同様に、マンションが買えるようにすることで、在庫を解消しようとしていた。
だが、今回の「マンション購入制限令」は、明らかにこの政策と矛盾している。
前述のように、農村戸籍者を一層差別し、「現代版アパルトヘイト」を助長する政策だからである。
だが、都市戸籍保有者の庶民にしても、今年の年初には事実上、頭金ゼロでマンションが買えたのに、秋になったら一夜にして、頭金7割以上に変わってしまったのだから、やはり犠牲者である。
割を喰わないのは、頭金問題など関係ない富裕層だけだ。
このため、今回の措置によって、社会格差はますます開くことになるだろう。
それにしても、中国は何とダイナミックな、そして理不尽な国であることか。
残ったのは、庶民のため息と、「棄購」(チーゴウ)という流行語だった。
』
『現代ビジネス 2016/10/11 近藤 大介『週刊現代』編集次長
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/49910
不動産バブルを煽る習近平が突如「マンション購入制限」を強いた理由
ダイナミックで「理不尽」な中国政治
■予告なしに発表された「通知」
「金九銀十」(黄金の9月と銀色の10月)――。
この言葉は、中国の不動産業界の用語だ。
9月の中秋節(旧盆)の3連休から10月の国慶節(建国記念日)の7連休にかけて、マンションの販売量が一年のピークを迎えるという意味である。
田畑と同様、マンション販売も「実りの秋」を迎えたのだ。
中国では、全国の市町村を、重要性や人口などを鑑みて、一線都市から四線都市までに分けている。
一線都市は、北京、上海、広州、深圳、天津の5都市。
二線都市が南京、武漢、重慶など41都市。
三線都市が紹興、珠海、吉林など110都市。
残りすべてが四線都市である。
中国には、人口が100万人を超す都市が303もあるので(日本は12)、
不動産規模も世界一である。
今年も、一線都市から四線都市まで各都市の不動産業者たちは、「金九銀十」のこの季節に合わせて、大量の新築マンションの販売に踏み切った。
ところが、である。10月1日の国慶節を5日後に控えた9月25日の日曜日、二線都市の筆頭である人口820万人の南京市で、突如として異変が起こった。
市政府(市役所)のホームページに、
「南京市の不動産市場のさらなるコントロールのための主要地区の不動産購入制限措置に関する通知」
と題した「2016年第140号通知」が、何の予告もなくアップされたのだ。
その全文は以下の通りである。
>>>>>
〈 各区人民政府、市府各委員会弁公局、市各直属単位へ
「市政府が供給側構造性改革を推進し、不動産市場の平穏かつ健全な発展の促進を実施するための意見」(2016年第75号通知)をさらに一歩定着させるため、そして不動産市場を安定させ、「不動産価格と地価をコントロールする」ことを基本として、高淳、溧水、六合を除く主要地区で、住宅購入制限措置を実施する。
1.すでに一軒の住宅を所有している南京市の戸籍を持っていない住民家庭の不動産購入(新築及び中古物件)を、当分の間禁止する。
2.すでに二軒以上所有している南京市の戸籍保有者家庭の新築不動産購入を、当分の間禁止する。
新築物件は売買契約書にサインした日を基準とし、中古物件はネット上で署名した日を基準とする。
不動産開発企業と不動産登記機構は、不動産購入条件に合致しない購買希望者に住宅商品を販売してはならない。不動産取引及び不動産登記部門は、上記規定に違反して処理や手続きを行ってはならない。
本通知は、2016年9月26日より執行される。
南京市人民政府弁公庁
2016年9月25日 〉
<<<<<
まさに、いまからマンションを買おうとしていた南京市民、及び売ろうとしていた不動産業者にとって、青天の霹靂の「マンション購入制限令」だった。
市民も業者も、南京市政府のホームページを見て、唖然となった。
このため、マンション購入を考えていた南京市民たちは、「それならば今日のうちに契約してしまえ」と、市内のマンション販売センターに殺到。
おかげで9月25日だけで、計1604軒ものマンションが南京市で売れた。
本当はこの何倍も売れるところだったのだが、マンション販売スタッフの人員が足りなかったのである。
だが、南京の混乱はこれにとどまらなかった。
南京市政府は、やはり何の予告もなく、大型連休5日目の10月5日になって、「第143号通知」を発令した。
これはさらに詳細な「マンション購入制限令第二弾」で、主な内容は次の通りだ。
>>>>>
・明日10月6日より(以下同)、南京市戸籍以外の者に、マンション購入の際、過去2年以内の1年以上の所得税納税証明書と社会保険納税証明書の提出を義務づける。
・南京市戸籍の独身者(離婚や死別を含む)は一軒しか購入を認めない。
・住宅ローンの差別化をさらに進める(購入者をふるいにかける銀行の高金利を許可する)。
・一軒目の普通住宅の購入は頭金3割以上、二軒目は4割以上、商業用不動産は5割以上、住宅ローンを完済していない者は8割以上とする。
<<<<<
こうして南京で始まった「マンション購入制限令」は、その後、燎原の火のごとく、全国各地に拡散していった。
同様に「マンション購入制限令」を発令したのは、北京、上海、広州、深圳、天津の一線都市を始め、10月4日までで計15都市に上った。具体的には、南京、アモイ、杭州、蘇州、鄭州、成都、済南、無錫、合肥、武漢である。
今後はおそらく、三線都市までの多くの都市で、同様の通知が出されるものと見られる。内容は大同小異で、頭金アップ、非戸籍保有者の締め出しなどである。
■「頭金7割なんて、払えるわけない!」
首都・北京では10月6日、地元テレビ局の北京衛視が、9月30日に北京市政府が発令した「北京市の不動産市場の平穏かつ健全な発展を促進するための若干の措置について」(マンション購入制限令)に関する特集ニュースを組んだ。
それは、次のような内容だった。
>>>>>
北京市豊台区のある新築マンション販売センター。
国慶節の大型連休中の午前10時。
このマンションは9月25日に発売を開始し、販売開始から5日間で計150の部屋に約300人が予約するなど、販売は上々だった。
だが、9月30日を境に、一夜にして頭金が7割にハネ上がってしまった。
そのため、「棄購」(購入放棄)が続出している。
「頭金7割なんて、払えるわけないじゃないの!」
数日前に新築マンションの購入を決めたばかりの女性が、マンションの販売員に噛みついている。
<<<<<
このマンションは、1㎡が約7万元(1元≒15.4円)。
一般的な3LDK105㎡の部屋の場合、約700万元だ。
中国の不動産は室内面積でなく建築面積で換算するので、7掛けするとだいたい日本の不動産表示面積となる。
つまり、70㎡で1億円の物件だ。
ちなみに、北京の不動産価格はとっくの昔に、東京の価格を追い抜いている。
北京市政府が9月30日に発令した通達(北京市民は「京八条」と呼んでいる)によれば、第5環状線以内のマンションの場合、1㎡あたり3万9600元以上、もしくは総額が468万元以上のマンションは、非普通住宅(高級マンション)とみなされる。
最近売り出している第5環状線以内のマンションの場合、不動産業者が買った時は1㎡あたり約3万元が相場だったという。
そのため、マンション建造費用などを加えると、最低でも5.5万元以上で売らないと元が取れない。
不動産会社の社員は、「これではすべてのマンションが、非普通住宅となってしまう」と、テレビに向かって嘆いていた。
今回の北京の「マンション購入制限令」を簡略化して説明すると、初めてマンションを購入する人が普通住宅を買えば頭金は35%以上、非普通住宅を買えば40%以上。二軒目の普通住宅は50%以上、二軒目の非普通住宅は70%以上となった。
これに、北京市の戸籍保有者か非保有者かという区別によって、細かい条件が変わる。
北京衛視はそもそも北京市政府傘下のテレビ局なので、激しい市政府批判などできるはずもなかった。
最後は社会科学院の都市建設の専門家が登場し、
「今回の措置は、マンション投資の金融化とレバレッジ化を抑制するのに必要な措置なのです」
というコメントでまとめていた。
思えば今年の年初には、中国政府が不動産購入奨励策を取ったため、事実上、「頭金ゼロ」でマンションが買えたのだ。
それが秋になったら一夜にして、頭金7割以上に変わった。
中国は何とダイナミックな、そして理不尽な国であることか。
■中国の特色ある経済状態
今回の「マンション購入制限令」は、現在の中国が抱える様々な問題を浮き彫りにした格好となった。
最大の問題は、そもそもなぜ突然、このような措置が中国全土で発令されたのかということだ。
中国は周知のように、ここ数年、景気が急減速している。
★:昨年までは「V字回復させる」と意気込んでいた中国政府だったが、
今年に入ると「L字型」(長期低迷)と言われ始め、
今年春からは「h字型」(さらにドン底に落ちていく)と囁かれ始めた。
最近、こうした中国発の危機的な状況が日本に伝わってこないのは、中国の景気が回復したからではなくて、
中国共産党中央宣伝部が、「経済のマイナス報道」を強く規制し始めたからだ。
これまでは共産党や政府批判の政治記事が御法度だったが、今年春ごろからは、中国経済に対する批判やマイナス報道も検閲の対象となっている。
この4年近い習近平政権を評価すると、政治分野と軍事分野に関しては、習近平主席が強い指導力を発揮している。
外交分野に関しても、発足当初は冷や冷やしたものだが、いまではだいぶ慣れてきて、及第点だ。
ところがこと経済分野に関しては、4年前から現在に至るまで、メチャクチャなのである。
たとえてみれば、今日大雨が降ったから慌てて傘を用意し、今度は台風が吹き荒れ出したから戸や窓を補強するといった具合だ。
万事が後手後手で、かつ出たとこ勝負のため、長期的な見通しや整合性がまるでない。
これに、「八項規定」(贅沢禁止令)で旨み(賄賂その他)がなくなったことによる官僚の不作為(ヤル気喪失)が加わって、
いまの中国経済は、中国語で言うところの「雪上加霜」(雪の上に霜が加わる)状態だ。
それでも中国経済が崩壊しないのは、ひとえに過去30数年間の高度経済成長の「貯金」があるからだ。
そのあたりは、「失われた10年」「失われた20年」などと揶揄されながらも、リーマン・ショックのようにならなかった日本と似ている。
習近平政権のこの4年間の景気浮揚策を振り返ると、ごく単純に言えば、
株価上昇政策と不動産価格上昇政策の繰り返し
である。
習近平総書記は、共産党総書記(党トップ)に就いた翌月の2012年12月に「八項規定」を発令したため、経済はいきなり悪化した。
胡錦濤政権時代まで「全体の3割」と言われた地下経済(賄賂経済)が急速にしぼんでいったからである。
例えば幹部たちが、それまで一人で何十軒も賄賂としてもらっていた高級マンションを一斉に売りに走ったため、北京や上海の高級マンション価格が急落した。
また、ほとんど贈答用だった高級ブランド製品の売り上げもガタ落ちした。
これに慌てた習近平政権は、不動産バブルを煽る政策を始めた。
それが2014年秋頃まで続いたが、不動産価格が下げ止まらなくなると、今度は不動産バブルを鎮静化する手を打ち始めた。
代わって、株バブルを煽った。
それによって2014年秋から株価は急上昇を始め、2015年前半には、本格的な株式バブルとなった。
だが、昨年6月15日(習近平主席の62歳の誕生日!)に株式バブルが崩壊。
それが引き金となって、「1100兆円破綻」と言われる谷底に落ちていったのである(そのことは、拙著『中国経済「1100兆円破綻」の衝撃』で詳述した)。
そこで習近平政権は、景気をテコ入れするため、昨年秋から再び、「消費拡大の最大の牽引車」である不動産のバブルを煽り始めたというわけだ。
例えば、新築マンションの購入時には、頭金2割以上、3割以上といった規定があるにもかかわらず、それらを銀行が肩代わりして住宅ローンに組み込んだりということを黙認した。
つまり、頭金ゼロでマンションが買えるようにしたわけで、まさに約10年前のアメリカのサブプライム・ローンと同じパターンである。
これによって、不動産価格は上昇を続けた。
そして、景気が低迷しているのに不動産バブルが進むという「中国の特色ある経済状態」が生まれていった。
■「中国発のリーマン・ショック」を回避?
今年9月19日に国家統計局が発表した8月の70都市住宅価格調査では、新築マンション価格が、9割以上にあたる64都市で前月より上がった。
鄭州5.6%、上海5.2%、無錫4.9%、合肥4.8%、福州4.3%、南京4.1%、アモイ3.9%、北京3.8%、石家庄3.7%、天津3.6%、杭州3.3%、済南3.2%、武漢3.2%、広州2.4%、深圳2.1%、青島2.1%と、前月比で2%以上も上がった都市が、16都市にも上ったのだ。
一部の二線都市、三線都市の上昇率が、一線都市の上昇率を上回るという新現象も起こっている。
また、中国指数研究院の「100都市価格指数」によれば、今年9月の全国100都市のマンションの平均価格は1㎡あたり1万2617元で、前年同期比で16.64%も上がっている。
特に一線、二線都市では、新築マンション、中古マンションともに急速に値上がりしていることが明らかになった。
まさに、全国的な不動産バブルである。
中国政府にしてみれば、本来なら「金九銀十」のこの季節に、不動産を大量販売することで、低迷している景気を上向かせ、かつ税収も増やしたかったところだ。
ところがこれ以上放置しておくと、不動産バブルが崩壊するリスクが高いと見たのである。
すなわち、「中国発のリーマン・ショック」が、いよいよ現実味を帯びてきたと判断したのだ。
北京に住む旧知の経済問題の専門家に聞くと、こう述べた。
「10月14日から、SEC(米証券取引委員会)がMMF(マネー・マーケット・ファンド)に新たな規制をかける。
これによって多額のホットマネーが、中国からアメリカに流出することが見込まれる。
これは中国の不動産業界を直撃し、不動産バブルが一挙に崩壊するリスクを孕んでいるのだ。
実際、LIBOR(ロンドン銀行間取引金利)はこのところ上昇を続け、9月26日には0.85294と、7年ぶりの高水準に達した。
中国企業が発行するドル建て社債の多くは、LIBORを基準にしているので、債務が膨らむことになって経営者たちは蒼くなっている。
もちろん、不動産業界も同様だ。
こうしたことから、いくら『金九銀十』の季節とはいえ、背に腹は代えられなくなったのだ。
いま不動産バブルを覚まさないと、10月にリーマン・ショック型の危機が中国を襲うリスクがあったのだ」
■習近平がすべてを頼る男
今回の「マンション購入制限令」を見ていて、不思議なことがある。
それは、通達を発令したのは、あくまでも各地方自治体であって、国務院(中央官庁)ではないということだ。
国務院には、住房和城郷建設部(住宅及び都市農村建設省)という専門官庁があるにもかかわらず、この官庁は何の通達も出していないのである。
10月5日になって、この中央官庁は、「権威専家(権威的な専門家)が9都市の不動産コントロール新政策を評価する」と題した国営新華社通信の記事を、ホームページ上に転載した。
記事の中で、新華社記者の取材に応じたという「権威専家」は、次のように述べている。
「多くの都市で行った不動産市場のコントロール政策に共通する特色は、投資と投機の需要を抑制する目的だったということだ。
住宅価格があまりに急激に上昇するのを抑止し、不動産市場を安定化させようとしたのだ。
日々刻々状況が変わる不動産市場に対して、市場を安定化させコントロールしていくことに対して、引き続き細かな指導をし、都市政策に結びつけていく」
この記事は長文で、劉洪玉・清華大学不動産研究所長や廖俊平・中山大学南方学院不動産学部長なども続いてコメントしているが、大事なのは、「権威専家」が述べたコメントである。
中国の官製メディアが「権威人士」「権威専家」などと表記する時は、劉鶴・中央財経小グループ弁公室主任兼発展改革委員会副主任を指す。
劉主任は習近平主席の「北京101中学校」の同級生で、
経済オンチの習近平主席が「経済政策のすべてを頼る男」
である。
こうしたことから透けて見えるのは、今回の措置は、
李克強国務院総理(首相)が統括する国務院の主導ではなく、習近平主席サイドが主導したということだ。
おそらく、9月に李克強首相が、ニューヨークの国連総会、カナダ、キューバと11日間も外遊に出ている間(9月18日~28日)に、習近平主席と劉鶴主任主導で進めてしまったのである。
今年の中国では、この二人が主導して、「供給側構造性改革」と呼ばれる5項目の経済改革を推進中である。
その5項目の2番目が、「過剰在庫の解消」だ。
特に、「鬼城」(ゴーストタウン)と呼ばれるマンションの在庫解消が、喫緊の課題となっていた。
そこで戸籍改革を断行し、農村戸籍の人も都市戸籍の人と同様に、マンションが買えるようにすることで、在庫を解消しようとしていた。
だが、今回の「マンション購入制限令」は、明らかにこの政策と矛盾している。
前述のように、農村戸籍者を一層差別し、「現代版アパルトヘイト」を助長する政策だからである。
だが、都市戸籍保有者の庶民にしても、今年の年初には事実上、頭金ゼロでマンションが買えたのに、秋になったら一夜にして、頭金7割以上に変わってしまったのだから、やはり犠牲者である。
割を喰わないのは、頭金問題など関係ない富裕層だけだ。
このため、今回の措置によって、社会格差はますます開くことになるだろう。
それにしても、中国は何とダイナミックな、そして理不尽な国であることか。
残ったのは、庶民のため息と、「棄購」(チーゴウ)という流行語だった。
』
JB Press 2016.11.9(水) 花園 祐
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/48291
結局のところ中国の住宅バブルはいつ弾けるのか?
価格急騰の裏に不動産仲介会社の暗躍があった
「中国の住宅バブルはもうすぐ弾ける」──。
こうした言葉が聞かれるようになってからもう10年くらい経ちます。
日本の書店に行けば、中国経済崩壊論と書かれた書籍が常にズラリと並べられています。
けれども、少なくとも現時点において中国の住宅バブルが明確に弾けたと言えるような大暴落は確認されていません。
こうした主張をしている人たちからは、「まだこれからだ」と反駁されるでしょう。
しかし厳しい言い方をすれば、それらの主張は「中国経済が悪くなってほしい」という希望が先行し過ぎており、雨が降るまで踊り続ける雨乞いやノストラダムスの終末予言のようなものだと筆者は考えています。
加えて、そうした主張の多くには都合の良い部分だけを切り取った一面的な意見も数多く見られます。
中国の住宅バブルは本当のところはどうなのか?
筆者は現在、中国・上海で働いています。
中国の不動産業の専門家でもなければ業界関係者ではありませんが、今回、上海で入手できる情報を基に自分自身で確かめてみることにしました。
■価格急騰、住宅購入規制、そして再び急騰
●上海の平均住宅成約価格
上のグラフは、中国の不動産仲介業者「安個家」がまとめた2006~2015年における上海市の平均住宅成約価格データを引用し、前年比成長率(=価格上昇率)と合わせグラフ化したものです。
このデータを見てまず目につく点は、言うまでもなく価格の上昇幅です。
2006年には9437元/平米だった価格が2015年には3万4730元/平米となっています。
10年近くで実に3.7倍も価格が上昇したこととなります。
デフレが続く日本人の感覚からすればこの事実一つとってもバブルだと言いたくなるような上がりっぷりですが、右肩上がりに上昇してはいるものの、各年度の価格上昇率を比較してみると少なからず波がある点に気付かれるかと思います。
価格上昇率は2010年まで2桁成長を続け、2008年と2009年に至っては30%超の大幅な上昇を遂げています。
当時は現地中国でも住宅価格の急騰ぶりとバブル化を懸念する声がよく聞かれました。
この時期に急騰した理由としては、2008年のリーマン・ショックによる影響が挙げられています。
つまり、株式市場で株価が大幅下落したことを受け、投資家のマネーが一挙に不動産市場へ流れ込んだことなどが原因と指摘されています。
加熱する不動産市場を懸念した中国政府は、同時期から各地で住宅購入を制限する規制を打ち出しました。
具体的には投資目的での2軒目以上の住宅購入を禁止するなどして市場の鎮静化を図ったのです。
こうした規制が功を奏したのか、2011年と2012年の価格上昇率はそれぞれ1.4%と2.0%の低上昇に抑えられ、一部(特に中国が嫌いな人たち)では「とうとう中国の住宅バブルが崩壊したぞ!」と騒ぎ立てられました。
しかし結果論からすれば、比較的いいタイミングに、政策によって市場の抑え込みに成功したのがこの時期の値動きだったと思えます。
ただし、一旦は抑制に成功したかに見えた住宅価格ですが、2013年に7.6%の上昇を記録すると、2014年には11.6%、2015年には28.7%と再び2桁超の急上昇を示すようになります。
国家統計局による直近のデータで見ても、2016年9月における上海の新築住宅価格指数が前年同月比32.7%上昇、中古住宅価格指数が同37.4%上昇となっており、2016年も2015年の上昇ペースを維持、それどころか上回るような急上昇を続けているようです。
あえてこの10年間でスパンを区切るとすれば、2008~2009年に一度目の急騰期を迎えた後、政府の住宅価格抑制策によって市場は一旦は落ち着くものの、2015年からは再び30%近い上昇をするようになり二度目の急騰(バブル)期を迎えているのが現状だと言えるでしょう。
■急騰の背景に株価暴落と仲介業者の影
ある日系銀行の関係者は、近年の住宅価格上昇は、2008年頃の時と同じく株式市場の大暴落が背景にあると指摘します。
中国の株価は2015年6月、上海証券取引所のA株が時価総額の3分の1を失うほどの大暴落を引き起こしました。
これによってかつてと同じく投資家のマインドが株式市場から不動産市場へと移り、マネーが不動産市場に流れたことが住宅価格の急騰を促したと見られています。
また、このところ、こうした市況による影響に加え、中古住宅を取り扱う不動産仲介業者の作為も住宅価格を押し上げている一因だとの声がよく聞かれます。
特に北京市に本拠を置き、近年急激な成長を続けている北京鏈家房地産経紀有限公司(鏈家)という仲介業者については「住宅市場をかき乱している会社の1つ」であると各方面から指摘されています。
同社は2001年に設立された中古住宅を専門に扱う不動産仲介業者です。
2008年のリーマン・ショックを乗り越えてから同業他社の吸収合併や提携を繰り返して、ここ数年で急速に勢力を拡大し、2015年の売上高155億元が前年比で約4倍となるなど、短期間での急成長ぶりに注目が集まっています。
筆者自身の経験で述べると、比較的ローカル色が強い不動産業界という背景もあってか3~4年前には上海市内で鏈家の営業店を見ることはほとんどなく、かつてはその存在すら知りませんでした。
ところが、現在の上海市内ではどこへ行っても鏈家の営業店舗を目にし、まるで石を投げれば鏈家に当たるとでも言いたくなるほど短期間で店舗が増え続けています。
実際に鏈家は非常に高い市場シェアを確保しています。
下の表は不動産データコンサルティング企業の北京雲房数据技術有限責任公司(雲房数据)がまとめた2016年8月における上海市内の仲介業者別中古住宅成約件数のデータです。
鏈家の上海法人に当たる上海鏈家徳祐地産(鏈家徳祐)の成約件数は2位の約3倍、シェアは約20%となっており、競争の激しい仲介業界の中で圧倒的な力を持っていることは間違いないと言えるでしょう。
●2016年8月の仲介業者別上海中古住宅成約件数(出所:雲房数据)
独走を続ける鏈家ですが、2016年初旬、担保に出されていた住宅を担保者の了解なしに第三者へ売却しようとして、消費者保護を担当する当局より注意を受ける事態を引き起こしています。
強引な取引や市場操作が横行しているという噂も絶えません。
現地メディアの「第一財経日報」などよると、鏈家は圧倒的なシェアを生かして、市場に流通する物件量を制限して住宅価格の高騰を促しているとの報道も出ています。
筆者自身も多方面でこうした噂をよく耳にしますし、中古住宅価格のみならず賃貸料金の高騰も招いていると聞きます。
実際に筆者が、2016年1月に引っ越し先となる賃貸物件を上海市内で捜した際、4年前は月3000元前後でワンルームの物件を見つけられたエリアで3000元台の物件は見つからず、最低でも4000元以上しかないと現地仲介業者から告げられました。
その際に近年の住宅・賃貸価格の高騰ぶりについてその仲介業者に尋ねたところ、「取り扱っている自分たちですら驚くような高騰ぶりで、正直なところ混乱している面もある」という素直な心境を語っていました。
■政策や株式市況でどちらにも転び得る
上海市における中国の不動産市場の現状をこれまで説明してきましたが、日本人が一番大きな関心を持つ点は、やはり「結局のところ、中国の住宅バブルは弾けるのか否か」にあるのではないでしょうか。
この点について先程の日系銀行関係者は、
「既に非常に危険な状態に陥っていることは間違いなく、
時期としては2020年頃が非常に危ない」
との見解を示しました。
★.その1つの根拠として、同関係者は、このところ賃貸物件の取引で不動産仲介業者は顧客に対して1年契約ではなく2年契約を強く薦めてくる傾向があることを挙げます。
近年の住宅価格高騰を受け、これまで賃貸では1年契約を結ばせて毎年家賃を引き上げようとする仲介業者や家主が多かったのですが、今年に入ってからは住宅価格の下落を恐れ、あらかじめ高い家賃契約を結ばせて契約期間を長くしようとしているというのです。
「不動産のプロたちはもう市場が危険な状態であるという認識を持っている」というのがその関係者の説明です。
一方、筆者個人の見解を述べると、現在、中国の大都市ではほぼ例外なく住宅価格を抑制するための様々な購入規制策が実施されており、仮に価格が大幅に下落するような事態に陥ったとしても、そうした規制を緩和することによって再び消費を促せる政策的緩和余地がまだ残されているように思えます。
また、普段中国人と接していて思うこととしては、圧倒的大多数の市民は依然と住宅を購入したくても価格が高すぎて購入できない状態にあり、今より少しでも住宅価格が下がるならば今すぐ買おうとするような層は非常に多く、中国の住宅市場を下支えする実需は日本人が想像する以上に底堅いのではという印象を覚えます。
ポジティブ、ネガティブな両意見を提示した上で、やや卑怯な結論となりますが、中国の住宅バブルがどうなるのかについては、現状で結論を出すのはまだ早いというのが私の見方です。
警戒しなければならない段階であることは間違いないものの、今後の政策や株式市況によっていくらでも転びようがあり、今すぐに弾けるかどうかだけを考えると、かえって状況判断を誤らせる事態に陥りかねません。
日本の皆さんには、中国の住宅バブルについては感情的な希望的観測にとらわれず、以上で提示したようなマクロデータや市場関与者の現状をしっかり注視しながら冷静に判断していただきたいと思います。
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【身勝手な大国・中国】
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●中国 崩壊 渡邉哲也が語る中国の実態。高まる警戒感!誤魔化しきれない中国実体経済。不動産バブルがチャイナのトドメを刺す
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